鹿児島市役所で昨年10月、20代の女性職員(主事)が正当な理由なく、隣席の50代の男性職員(主査)との机の間に視界をさえぎる仕切り板を設置していたことが明らかとなった。
鹿児島市によると、設置された仕切り板は、座った際に目線の高さくらいまである黒い厚紙のようなもの。設置理由について、女性職員は「一緒に働く中でストレスが重なり、いっぱいいっぱいになって我慢できず立ててしまった」と説明したという。仕事外でのトラブルなどは確認されていないとしている。
男性職員は嫌がらせと感じて設置当日に早退し、それ以降出勤していない。市は現在、男性職員と文書でやり取りするなどして、両者の職務上のやり取りなども含めて、事情確認を進めている。
女性職員に対しては、両者の所属部署内で仕切り板の設置後まもなく指導がおこなわれたが、市人事課は1月25日、「不適切な行為だった」としてあらためて指導した。今後、懲戒処分を下すかどうかについては、事情確認後に検討するという。
パワーハラスメント(パワハラ)にあたるかどうかについて、市人事課は、主査が主事より上位の役職であることも踏まえ、「現時点では、女性主事が優越的な立場にあったとは認定しづらい状況だったのではないかと認識している」と話した。なお、男性主査は女性主事の直属の上司ではないという。
「事前に2人の間でうまくいっていないなどの兆候は見られなかった」(市人事課)というが、隣席の人に仕切り板を突然置かれたら誰もが驚くだろう。はたしてパワハラにはあたらないのだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。
●報道の限りでは「パワハラ」とは言いがたい
——市役所のような行政では、パワハラ防止に関する法制度はどのようなものがありますか。
雇用管理に関する法制として、「労働施策総合推進法」(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)があります。パワハラ防止に関連する規定があるので、「パワハラ防止法」と呼ばれることもあるようです。
この法律は、パワハラ問題に関して、事業主が講じるべき措置などについて、除外規定がないことから、地方公共団体にも適用されます。
法律では、いわゆるパワハラについて、以下(1)~(3)すべてを満たすものとしています。
(1)職場における優越的な関係を背景とした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
(3)雇用する労働者の就業環境が害されるもの
——女性主事の男性主査に対する行為が問題となったようです。
今回のケースでは、女性主事の行為が男性主査へ精神的な影響を与えたようです。
ただ、同一部署で同一事務の公務に従事するならば、主事が自分よりも役職が上である主査に対して優越的な地位にあることは通常想定されません。
もちろん、法令上は単なる役職の上下だけで優越的な地位を認定することにはなっていませんが、具体的な特殊事情などがうかがえない現状では、女性主事が男性主査に対して優越的な地位にあるとは考えにくいというほかないでしょう。
——仕切り板についてはどうでしょうか。
仕切り板を置く行為そのものは、公務に関する職務上の指示や指導や命令などとは言いがたく、この観点からも「パワハラ防止法」上のパワハラとは言いがたいです。
置かれた仕切り板は黒い厚紙のようなものとのことですが、たとえば透明のアクリル板製など、ほかの材質などであっても、やはり考え方は同様です。パワハラとは言いがたいでしょう。
仕切り板を設置した女性主事の真意やそういうおこないをとらせるに至った関係性、職場の環境、男性主査のこれまでの言動など事案の詳細がわかれば、また別の判断になるかもしれません。
しかし、現在知り得る限りの情報からは、「パワハラ」とは言いがたいように思います。