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休業命令で収入減に悩む労働者「もっと出勤したい」 会社が応じる義務は?
画像はイメージです(Pangaea / PIXTA)

休業命令で収入減に悩む労働者「もっと出勤したい」 会社が応じる義務は?

新型コロナウイルスで打撃を受けた企業の多くは、依然として厳しい経営状況に立たされているが、そこで働く従業員も収入減などに悩んでいる。

弁護士ドットコムにも、「休業命令が多すぎて、生活が苦しい」という相談が寄せられている。

相談者の会社では、新型コロナの影響で仕事が減っているため、会社から休業命令が出されている。休業手当(給料の7割程度)は支給されているが、相談者にとっては十分な額ではないようで、もっと出勤できないかと考えている。

自分より出勤日の多い同僚がいるなど、業務内容がほぼ同じなのに、人によって出勤日数に差があることに不満なようで、せめて同僚と同程度には出勤したいようだ。

企業側にも事情があるとはいえ、出勤日数を公平にするよう求めることは可能なのだろうか。企業法務に詳しい山田長正弁護士に聞いた。

●労働者は基本的に企業の「休業」判断に従う必要あり

ーー休業命令の法的な扱い、企業が出すことのできる要件などについて教えてください。

所定労働日に、労働者が労働の意思と能力があるにも関わらず、企業の都合で労働者の就労を拒否する場合を「休業」といいます。

休業「命令」と言えるか否かは別として、企業が休業を実施するための要件について、休業を実施するか否かは企業の裁量に委ねられていますので、原則的に休業そのものが違法あるいは無効になることはないと考えられます。

ただし、このような場合においても、労働者として、民法536条2項に基づく「債権者の危険負担」として100%の賃金請求を企業にできるのか、あるいは労働基準法26条に定める「使用者の責に帰すべき事由」に当たるとして、同条の休業手当分(平均賃金6割以上)しか請求できないかという問題は残ることになります。

他方、たとえば天災事変等のように、不可抗力による休業の場合には、労働者は1円も請求できません。

ーー本人が出社したいと考えていても、休業命令を拒むことはできないのでしょうか。

前述のとおり、休業を実施するか否かは企業の裁量に委ねられていますが、誰を対象にするかについても原則的に企業の裁量に委ねられていると解すべきです。

この点、過去の下級審裁判例では、特定の労働者の就労を拒否しただけでは「休業」に当たらず、特定の事業場におけるある程度一般的な休業である必要があるとするものもあります。

しかし、行政の見解も含め、一般的には、特定の労働者に対して、労働者の意思に反して就労を拒否する場合も「休業」に該当すると考えられています。よって、労働者としては、企業側が休業を実施する場合、基本的に企業の判断に従う必要があります。

●企業は積極的な意思疎通などに努めるべき

ーー業務内容が同じような労働者間で、出勤日数が異なることは法的な問題にはならないのでしょうか。

この点についても、原則的に労働者は休業の判断に従う必要があるため、業務内容が同じような労働者間で出勤日数が異なっても、違法にはなりづらいと考えられます。

ただし、企業が合理的な理由なく違法・不当な意図をもって、特定の労働者だけを対象に休業させる場合には、休業自体が不法行為とされ、賃金相当額の請求に加え、慰謝料請求が認められる場合もあり得るでしょう。

認められ得る例として、労働組合員だけを休業の対象にする場合(いわゆる不当労働行為に該当する場合)や、ある社員を会社から辞めさせるために休業の対象にする場合(いわゆるパワハラに当たる場合)等が挙げられます。

これらの場合にはそもそも、「債権者の責に帰すべき事由」(民法536条2項)に当たるとして、100%の賃金請求を行える場合もあると考えられます。

このようにして、違法な場合には、労働者の保護を図ることも可能です。

ーー「社員の公平な扱い」は、企業にとっても無視できない要素だと思われます。企業が休業命令等する場合には、どのような点に留意すべきでしょうか。

法的な義務とまでは言えないでしょうが、社員を極力公平に扱うことが望ましいことは確かです。

そのため、公平な扱いができない場合において、企業としては、特定の労働者だけを休業の対象とせざるを得ない合理的理由があるのか否かを精査するとともに、合理的理由がある場合にはその理由をきちんと労働者に説明することが大切です。

このような扱い自体、全社員の士気に関わる問題ですので、極力社員の士気を下げないよう、企業は積極的に意思疎通を図るなどすべきでしょう。

プロフィール

山田 長正
山田 長正(やまだ ながまさ)弁護士 山田総合法律事務所
山田総合法律事務所 パートナー弁護士 企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。

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