人材派遣大手のパソナグループが、東京都千代田区にある本社機能を兵庫県の淡路島に移すと明らかにし、話題となっている。
災害などに備え、東京への一極集中を避けるなどの狙いで、経営企画や人事などを担当する社員約1200人が移る見込みだという。計画は2020年9月から段階的に進められる。
新型コロナウイルス感染拡大を受け、テレワークが大企業を中心に普及。「高い賃料等を払ってまで東京に本社を置く必要がない」という企業も現れている。しかし、社員にとって、遠方への移転は負担となり得る。
ネットでも、「自分ならすぐ辞める」「どこでも仕事できるなら移転も不要では」「移転拒否者に対する新手のリストラ案」など懸念の声が多く上がっている。
本社機能が遠方へ移転する場合、移転したくない社員はどうすればいいのだろうか。島田直行弁護士に聞いた。
●労働契約で勤務地を限定しておけば、法的に保護される
ーー本社が遠方へ移転する際の課題にはどのようなものがありますか
「本社機能の移転の場合には、通勤先が変更されるだけで業務内容に変更がありません。業務内容の変更を伴う一般的な異動とは、その点が違います。業務の効率性と通勤の負担のバランスをいかに実現するかが課題となります」
ーー社員が移転を拒否することは可能でしょうか
「企業は、経営判断として本社機能を移転できますが、社員の中には、親の介護や子どもの進学などの理由から通勤先の変更を拒否したい人もいるでしょう。
こういったニーズが具体的に権利として保護されるためには、労働契約で勤務地を限定しておく必要があります。たとえば、あらかじめ勤務地を東京に限定していた場合には、東京での勤務が法的に保護されます。もっとも、勤務地を限定していない場合がむしろ一般的でしょう」
ーー勤務地を限定していない場合は諦めるしかないのでしょうか
「勤務地を限定していない場合でも、企業に配慮を求めることはできます。社員は、特定の地域で勤務することの必要性と相当性を具体的に主張するべきでしょう。折り合いがつかない場合には、労働組合を通じて団体交渉という方法も考えられます」
●移転拒否しただけでは解雇できない
ーー移転を断固拒否した社員を、企業は解雇できますか
「企業と社員が協議して合意できない場合でも、企業は、本社機能の移転に反対したからという抽象的な理由だけで解雇することはできないでしょう。
日本では、企業に大幅な人事裁量権が付与されている見返りとして、厳格な解雇規制がひかれています。本社機能の移転は、あくまで企業の論理です。そのうえで配慮もなく社員を解雇できるというのはバランスを失しているでしょう。
現実的な解決策としては、配置転換あるいは退職勧奨ということになります」
ーー本社機能を移転させる企業は今後も増えそうです
「新型コロナウイルス感染拡大を受けてテレワークが普及し、オフィス不要論すら耳にするようになりました。
ですが、『実際に会う』という体験には代えがたいものがあります。多様な働き方が認められていくがゆえに、社員相互のつながりの象徴としてのオフィスは、場所と機能を変えつつも存在し続けるのではないでしょうか」