通勤定期や単身赴任の廃止、働く場所を自ら決める仕組み…。日本企業が新型コロナに対応した働きかたの導入をすすめている。
なかには、「原則テレワーク」とする大企業も。企業が「新しい働き方(ニューノーマル)」を導入する場合、どんなことに気をつけるべきなのだろう。
●カルビーや富士通で「テレワークを通常の働き方に」
たとえば、カルビーでは、オフィス勤務の800人の社員を対象に、テレワーク(モバイルワーク)の無期限継続を決めた。通勤定期券代の支給をやめ、交通費を実費支給する。また、業務に支障がないと認められた場合、単身赴任を解除する。
さらに、大規模なテレワークを導入したのが富士通だ。製造現場や客先常駐を除く国内約8万人のグループ社員を対象に、通勤定期券代の支給を廃止し、通信量や光熱費など月5000円の在宅勤務手当を補助する。
単身赴任者もテレワークと出張に代替して、自宅勤務に随時切り替えていく。原則フレックス勤務(コアタイムなし)も導入された。
2022年までには国内の既存オフィス床面積の半減を目指し、業務内容にあわせて、自宅、シェアオフィス、サテライトオフィスなど働く場所を自由に選べるようになるという。
●富士通「社員アンケート実施」「労組とも合意」
従業員を守る目的があるとはいえ、会社の一存でテレワーク化すれば、弊害も出てきそうだ。富士通はどのようにテレワークの切り替えを進めていったのだろうか。
「テレワークの勤務制度は2017年から導入し、在宅・出社を併用しながら進めてきました。今年3月末から製造現場などを除いて、在宅勤務を原則としました。5月25日に緊急事態宣言が解除されても在宅を基本とした働き方を続けることを社内外にメッセージ発信していたところです」(富士通広報)
切り替えについては、社員にアンケート調査したという。
「在宅勤務制度について、国内グループを対象に5月〜6月にアンケートを取り、約3万8000人のうち、8割が『働く場所を自身で選択したい』と回答しました」
そのうえで、労働組合との話し合い、合意を取り付けたという。
「フレックス勤務の拡大、環境整備費用補助の支給・定期券代の支給廃止、テレワークや出張を活用した単身赴任の減少などは労働組合と合意が取れた事項です。
製造ラインや、常駐のかたなど、事情によってテレワークができないかたもいます。また、制度運用のなかで新たに課題も出てくると思いますので、都度見直しもされていくでしょう」
●弁護士「在宅勤務の評価制度は結果主義になりやすい」
富士通も急にテレワークにしたのではなく、時間をかけて準備を進めてきたようだ。もしも、会社の一存でいきなり在宅勤務にしてしまった場合、思わぬ問題が生じることもありそうだ。
今井俊裕弁護士は、「在宅勤務の場合、普段の勤務態度や出勤率などの事項を査定の評価対象とすることが難しく、結果主義の査定にならざるを得ない傾向があります。
結果主義の通用する業務内容や部署もあるでしょうが、必ずしもすべての在宅勤務者の評価を統一できるのか、疑問があります」と注意の必要を呼びかける。
従業員によっては、正当な評価を受けることができないと感じる人も出てくるかもしれない。
また、工場の製造ライン部門など、テレワークを導入できない部署もある。「在宅勤務の部署の従業員は楽をしている」などの不公平感が生じれば、社内のモチベーションに関わるだろうと今井弁護士は指摘する。
富士通のようにサテライトオフィスなどを用意するのであれば問題なさそうだが、テレワークが導入できる部署でも、仕事のできる環境が自宅に確保できるかは個別の事情に左右される。会社側が機材導入の手当などを補助すれば問題ないとは言い切れないだろう。評価基準の確認も含めて、労使の話し合いが重要と言えそうだ。