東京都文京区湯島の個室マッサージ店で、当時12歳だったタイ国籍の少女に性的サービスをさせたとして、児童福祉法違反などの罪に問われた元経営者の男性(52)に対し、東京地裁(池上弘裁判官)は9月15日、拘禁刑5年、罰金100万円を言い渡した。検察の求刑は拘禁刑6年、罰金200万円だった。
男性は「未成年だとは知らなかった」として無罪を主張。判決は、このうち年齢を知らなかったという点は、男性の言い分をほぼ認めた。それでも有罪としたのは、年齢を確認していなかったからだ。
判決要旨の内容から、裁判所の判断を詳しく確認する。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●少女が「仕事」の中身を知ったのは店に来てから
判決によると、少女は母親から、具体的な仕事の内容を告げられないまま、母親の借金を返すために日本で働くよう指示された。
以前から母親に暴力を振るわれており断れず、来日前には「他人の前では母と呼ばずに姉と呼ぶように、20歳ということにしろ」とも言われていたとする。少女が店で働き始めたのは2025年6月28日だった。
母親は被告人の男性に、少女のことを「20歳の妹」で、在留資格は短期滞在だと説明。少女が仕事に性的なサービスが含まれることを知ったのは店に入ってからだったが、母親に言われたとおりにするしかないと思っていた、と判決は指摘する。
同年6月28日から7月29日まで、8月5日から8月13日までの期間、少女が客を相手に性的なサービスをさせられたと認められた。
7月11日に帰国した母親は、その際に少女の売り上げをすべて回収していった。
●判決は「年齢を把握していなかった」と認定した
裁判の争点の一つは、被告人の男性が少女の12歳という年齢を知っていたかどうかだ。
判決が男性による年齢の認識を判断する材料にしたのは、少女の母親が8月14日に少女へ送った複数のメッセージ。
「奴は年が14だともう知ってる(※原文ママ)」 「奴が来る前に店から出ていきな」
ここでの「奴」とは、店の経営者である男性のこと。母親は、男性が少女の年齢に気づいたとみて、店から出るよう促していた。
判決はこれらのメッセージの内容からしても、男性は「同日に至るまでA(少女)の年齢を把握しておらず、Aの母からだまされていたといえる」と述べた。
また、記録にある少女の写真データを見ても「一見して児童であることが明らかな容貌ということもできない」とも判決は指摘している。
●「もっとも」に続いた、有罪の理由
では、なぜ有罪なのか。判決はこう続ける。
「もっとも、被告人はAのパスポートなどの身分証は一切確認していなかったのであるから、年齢確認に必要な方法を尽くしたものとはいえない」
児童福祉法の規定は「児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、前三項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない」(第60条第4項)と定めている。児童買春・児童ポルノ禁止法にも、児童買春の周旋などについて同じ趣旨の規定(第9条)がある。
つまり、単に「知らなかった」という弁解だけでは足りず、身分証明書の確認など年齢確認に必要な措置を尽くしていたと言えて初めて、過失がないとして処罰を免れることができるわけだ。
少女は働いていた間、一度もパスポートを確認されたことがなかったと判決は認めた。
●「マネジャーに任せていた」は認められず
男性側は、採用や身分証の確認は店のマネジャー的立場だったタイ国籍の女性に任せていたとも反論した。この女性も起訴され、公判が続いている。
しかし判決は、2人のメッセージからは「両者でAの採用を判断している」と認められること、少女が働き始めた6月28日の時点で2人の関係は悪化して女性は店に来なかったこと、少女が女性と直接会ったことがなかったことを挙げた。
そのうえで、女性が少女の身分証を確認しているはずだと思い込むような状況ではなかったとして、男性側の反論を否定した。
●量刑「最も重い非難に値する」のは母親
また、男性が別のタイ国籍の女性従業員を在留資格がないまま働かせたことと、店舗型性風俗特殊営業が法令で禁止された地域内で営業したことについても、判決は有罪と認めた。
量刑の理由において、判決はまず、少女の母親が最も重い非難に値すると指摘する。
少女を精神的に支配し、経済的にも搾取するために日本に呼びつけて淫行を強いたとして、「最も重い非難に値し、被告人もAの母にだまされていた面がある」と述べている。
一方で、男性の責任も厳しく指摘。
店ではタイ国籍の従業員が短期間で入れ替わっており、「資格や年齢の確認が一切ないという無秩序な雇用や職場環境を作り出したのは本件店舗を経営する被告人の責任である」と述べた。
男性が8月10日ごろ、「業務の一環」と称して少女に自分を相手に性的な行為をさせたとも認定された。
判決は、母から虐待された末に母国を離れ、身寄りのない土地で客から継続的に性的行為を求められただけでなく、母の帰国後は「最も身近な大人であるはずの被告人からも練習台と称して性的な行為を強いられた」として、少女の「精神的被害は想像を絶するものがある」と述べた。
ただ、罰金が求刑の半額にとどまった理由も示された。一連の営業で男性が大きな経済的利益を得たとはいえず、従業員らに売上を持ち出されるなどして、むしろ相続した不動産を売却して運転資金に充てるような状況だった、というものだ。
男性は判決言い渡しを淡々と頷きながら聞いていた。