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2020年08月08日 09時20分

「このままでいいのか」障害福祉施設の工賃、「うちは月1500円」葛藤するスタッフ

塚田賢慎 塚田賢慎
「このままでいいのか」障害福祉施設の工賃、「うちは月1500円」葛藤するスタッフ
施設長の吉田さん(2020年7月、のぞみの家で、弁護士ドットコム撮影)

障害者が働く「作業所」の記事に反響がありました。開けられなくなったダイヤルキーを依頼費50〜100円で地道に解錠する作業を紹介したところ、「お金はもっと払ってあげてほしい」「工賃が安いのなんとかならんのかな」「金稼ぐことを放棄するな」などの声が寄せられました。

工賃の安さをテーマに、さらに現場を取材してみると、施設には「このままではいけない」という問題意識がありました。しかし、受け入れざるをえない事情もあります。(編集部・塚田賢慎)

●なんとかしなくてはいけないけれど

取材に協力してくれた東京都東久留米市の「のぞみの家」(運営:社会福祉法人イリアンソス)は、生活介護施設(生活介護)です。

大雑把に説明すると、障害の軽重によって、障害者は「就労継続支援A型事業所」、「B型事業所」(ダイヤルキーの施設もB型です)、そして「生活介護」に入所して、作業をします。

これらのうち、常に介護を必要とする障害の重い人(障害支援区分が3以上の人)が入るのが生活介護です。入浴などの介護等を受けるとともに、創作・生産活動の機会が提供されます。

のぞみの家 1972年に建てられた のぞみの家 1972年に建てられた

生活介護には、作業の手間賃である「工賃」の支払い義務はあるものの、下限額の設定や、報告義務はありません。極論、1円でもいいというわけです。

工賃に結びつく「仕事」には、PCのデータ入力、バザーの物品販売、ケーキの製造・販売、牛乳パックなどの資源回収、そして、絵を描くことなどがあります。作品展を開催して絵を販売したりして工賃に充てています。

のぞみの家には約25人の利用者がいます。彼らのうち、言葉や文字で意思を伝えられるのは7〜8人(ここでは「チャレンジドリームズ班」と呼ばれています)。

大変失礼ではありますが、仕事をしている利用者に質問しました。

●「今の工賃(給料)はいくらか」「理想の金額は」

移動に車椅子が必要な男性Tさん(46)はPCの入力作業をしています。コロナで今はお休み中ですが、バザーでも働いていました。西武ライオンズのファンです。

獅子党のTさんは婚活をしたい 獅子党のTさんは婚活をしたい

「給料は、昔は1カ月6000円で、今は1710円くらいです。施設の経営が苦しいんだと思います。理想は1万〜1万5000円ほしいです。

お金があれば、西武ーロッテ戦のチケットか、結婚相談所に行きたい。彼女が欲しいのです。1710円ではライオンズのマグカップも買えません」

女性のKさん(34)の工賃は1カ月で1500円くらいです。この金額をどのように受け止めているのでしょうか。

「1500円のお金は少ないと思わないけど、お給料としては少ないと思います。

理想は1万円です。自分の好きなものを好きなときに買えるようにしてほしいです。お財布がほしいです」

●驚くほど少なかった 平均給与2300円

施設長の吉田遊佑さん(社会福祉士・精神保健福祉士)が、利用者への“給与明細”を見せてくれました。

2017年5月、先ほどの「チャレンジ班」の給料の平均額は5170円でした。しかし、2019年5月になると、平均額は約3000円ダウンの2313円になりました。

バザーに参加した班のメンバーには、売り上げを分配してきたのですが、その分配金の仕組みが2019年になくなったのです。

2019年4月25日 「工賃見直しのお知らせ」 2019年4月25日 「工賃見直しのお知らせ」

施設は彼らに工賃が低い理由をなんども説明してきたそうです。

「工賃を払えるだけの売上がない。工賃を払うと赤字になる。このまま赤字が続くと、のぞみの家の運営が厳しくなる」

利用者からは「モチベーションが下がる」と反発もありましたし、今も不満はあります。しかし、施設の経営などの状況を理解して、「のぞみの家がなくなるのはいや」と現状を受けて入れているようでした。

年に一度の豪遊を楽しみにしているKさん 年に一度の豪遊を楽しみにしているKさん

先のKさんは、工賃や障害年金を貯めて、年に一度、ヘルパー同伴で横浜のホテルに宿泊し、好きなように「爆買い」することを楽しみにしています。ですが、今の給料では、そんな遊び方ができるかわかりません。

「給料が下がると言われて複雑でした。でも、ゼロになるよりは今の状況がいいと思います」(Kさん)

●なぜ工賃が低いのか 施設が考える原因

施設長の吉田さんによれば、利用者の工賃は今、だいたい月に1500〜2000円。障害年金は年間約100万円程度だそうです。

また、日本知的障害者福祉協会の調べによると、生活介護の平均工賃月額は、3000円未満の事業所が42.5%(350事業所)でもっとも多いという結果になりました(1082事業所の回答)。

「1カ月の工賃は、1回の外食で消えてしまいます。25人中、20人がグループホームで暮らしています。水道光熱費込みの9万円の家賃を支払えば、障害年金もほぼ消えていきます」

「低くてもいいとは思ってないし、なんとかしないといけないとは思っている。でも、現実問題、どれくらい払えるのか。考えられる問題の原因は、あまりに多岐にわたりますが、主なものを紹介します」

ガトーショコラを作っていた ガトーショコラを作っていた

●職員への大きな負担

「以前は1度のバザー(4時間)の売り上げは8万円程度でしたが、現在では2万円でもよいほうです。前は年間100万円だったケーキの売り上げも、今は半分です。保健所の検査費用だけで売り上げのほとんどがなくなることもあります」

新しい仕事を見つける営業活動も大切な仕事ですが、職員にその余裕はほとんどありません。

「ケーキを作るときに、利用者さんができる作業工程は限られています。注文をジャンジャン入れても、夜遅くまでオーブンで焼くとか、大量の洗い物、片付けをするのは職員です。職員が一生懸命頑張って疲弊するのも、何か違うと思います」

このように、工賃を稼ぐ作業への支援で職員が手いっぱいになる問題は、生活介護だけでなくB型事業所などでも少なくないケースだそうです。

体調に不安を抱えている利用者が多く、数多くの仕事や、納期の短い作業が難しいという事情もあります。Tさんは入所28年目です。暑い日のバザーでは、顔を真っ赤にしてヘトヘトになることもあります。

「利用者の身体に負担を掛けてまで、仕事量を増やすことにためらいがあります。作業で得られる効果(工賃)と同じかそれ以上に身体のケアの時間も大切です」

●「経営か、意義か」福祉施設のジレンマ

たとえば、現在の仕組みでは、就労B型事業所については、利用者が多くの作業をこなし、多くの工賃を支払うほど、国から事業所にお金が入ります。

「一定以上の工賃を払えば、利用者さんに自立した生活を実現してもらえます。それは素晴らしいことですし、事業所も潤います。ですが、この仕組みであれば、事業所は働ける利用者を必然的に取ることになりますよね。

精神状態が不安定で来るかどうかわからない人や、職員の都合により支援量が多いかたがたが敬遠されることになります。本当に支援の必要な人たちが、工賃を理由に、就労系の作業所ではサービス対象外になるということになります」

創作活動のひとつ 創作活動のひとつ

●家族や自助に依存するシステム

国が家族の経済的支援をあてにしているという意見もあります。

のぞみの家で働く女性職員はB型事業所に通う娘と一緒に暮らしています。女性は「親のほうが先に死ぬから、娘のために障害年金に手をつけず、残しています」と話し、工賃は本人の楽しみのために使わせているそうです。

子どもの生活費は親の貯蓄や収入でまかなって、障害年金は親の死後を考えて使わないという家族はたくさんいるそうです。「ただ、障害年金だけでは娘の将来が不安です」(女性職員)

「今の障害福祉の制度では、家族の支えなしでは生活が難しい現状です。家族依存ありきの制度ともいえます。

日本社会にあった『障害者を隠す。家族でみる』という歴史。その名残もあるのだと思います。

自立しようと、グループホームで暮らせば、年金もほぼ残りません。経済的な自立は非常に難しいのです」(吉田さん)

データ入力の仕事 データ入力の仕事

●工賃が高くなくてはいけないのか

工賃をもっと稼ぐことができれば、利用者の自立や、家族の安心が少しでも支えられることになるかもしれません。

ただ、のぞみの家では、「無理をしない」ことを選びました。

「職員や利用者さんと、大切なことが何か、話し合ってきました。ひとつひとつの作業を丁寧にして、注文を減らして、その結果として工賃を下げることにしました」

工賃を稼いで好きな生きがいのためにお金を自由に使う。それより大切なことは、「施設が存続すること」「体の状況にあわせて利用者は健康的に楽しく活動すること」だと考えたのです。

「10万円の給料を利用者さんに支払うことになれば、施設が潰れます。

子どもが18歳で初めて施設に入って、1500円の工賃を持ってきた。そのお金を今でも額縁に入れて飾っている親御さんもいます。少ないお金でも、親にも子にも誇らしい気持ちは確かにあるんです」(吉田さん)

B型事業所の平均工賃の高さと利用者の満足度との間に関係がないという調査結果もあります(全国精神障害者地域生活支援協議会調べ)。

サービス管理責任者の小川ひろみさんは「高く売るという生産性も大事ですが、活動をすることで、のぞみの家を地域のかたに知ってもらうことも大事だと思います」と続けます。

●「ただ気ままに生きる。それだけだ」

吉田さんによれば、工賃が1000円代だとしても、福祉業界では当然のこととして認識されていて、関係者の中では議論の中心となってきていなかったそうです。

「現状を受け入れざるをえない事情もあります。しかし、職員は『そういうもの』と思って、逃げてはいけません。もっと働いて、もっと稼ぎたいという気持ちは健常者も障害者も同じです。

我々、職員は『やりがい』や『達成感』という曖昧な言葉で、問題から目を背けてはいけません。『仕方がない』にせず、『どうすれば』に発想や意識を変えていく必要があります。

国としては、生産性や効率だけを求めるのではなく、重度の障害があっても一人の国民として懸命に働いている姿があるという現実を見て、知ってほしいです」

インタビューのやりとり インタビューのやりとり

最後に、もう一人の利用者の声を紹介します。

PCでデータ入力していた男性Bさん(41)は昔は話すことも自転車に乗ることもできましたが、今は病気(ジストニア)で、話すことができません。50音の文字盤で、指差し回答してくれました。

「(現在の給料は)1000円。(理想は)1万円。今は少ないけど我慢」 「(自由になるお金があれば)大泉学園の映画と焼肉に行きたい」 「(将来に不安は?)どうってことない。ただ、気ままに生きる。それだけだ」

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