緊急事態宣言の解除を受けて、少しずつ世の中が動きつつあるが、この間、あらゆる産業がダメージを受けた。たとえば、飲食業の中には、再開できず、そのまま閉店してしまったところも少なくない。こうした状況で、生活のためにアルバイトをしていた学生たちも窮地に追い込まれている。相模女子大の奥貫妃文准教授(労働法)は「休業手当がもらえることを知らない学生も少なくない」と話す。奥貫准教授にインタビューした。
●もともとバイト漬けのところに
――コロナ以降、学生たちにどんな影響が及んでいるか?
担当授業の学生130人にアンケートを実施したところ、まだ集計途中ですが、9割近くの学生がアルバイトをしていて、そのうち7〜8割くらいはコロナ以後、シフト減少や休業によって、給料が減ったり、なくなったりしています。
一方で、この間休業していなかったデリバリーピザなどで働いている一部の学生は、逆に忙しくなっているようです。同僚の主婦が子育てのため休む分、シフトが増え、コロナ感染の恐怖を感じながら、バイトを継続しています。
もともと、コロナ以前から、階段を一段一段下がっていくように、学生の親の経済状況が毎年、悪化していると感じていました。生活に必要なお金は自分で何とかしようと、バイト漬けになっていた学生もいます。そこにコロナがやってきて、ダブルパンチを受けているのです。
――休業手当はもらえている?
今回アンケートからは、ほとんどの学生がもらっていないことがわかりました。バイト先も大変な状況なので、きめ細やかな対応をする余裕がないのかもしれませんが、学生たちはちゃんとした説明すら受けていないようです。
法律上、学生バイトであっても、平均賃金の6割以上の休業手当がもらえることになっています。
しかし、学生たちの多くは「バイトだから手当は受けられない」「テレビで言っていることは正社員のことだろう」と考えがち。また、休業手当をもらえても「期待していなかった」「ブラックじゃなくて良かった」と喜ぶ学生もいます。
●有休知らない学生たち
――労働法のルールが知られていない?
この休業の流れの中で、自分の雇用がつづいているかどうかさえ、わかっていない学生が多くいました。もちろん、法的には、自分がバイトをやめるという意思を告げていなければ、雇用の継続を主張できます。
また、「休業手当は出さないけど、今休んでいる分は有休で振り替えることができる」と言われた学生も複数いました。そもそも、学生バイトが有休をとれるのかということを知らず、店から言われて、使えるんだったらと使う。
しかし本来、有休はそういうところに割り当てるものではありません。有休がとれる知識がなかった学生からすれば、ラッキーと思うかもしれませんが、それだけ自分の権利が減ってしまうことに気づいていないのです。
――給料未払いなど労働問題があれば、どこに相談すればいい?
正面の答えとしては、労働基準監督署です。しかし、とても残念なことですが、本当にひどい対応をするところがあります。「労基法違反の事案がある」と申告しても、のらりくらりかわされたり、やる気をみせない職員がいます。窓口のどんな人にあたるかで、相談者の人生が決まってしまう。一種の「賭け」です。
ほんとうは教科書にも書いてあるから、労基署が守ってくれると自信をもって言いたいところですが、学生が一人で労基署に駆け込んでもまじめにとりあげてくれるのか、正直疑問です。個人的には、若いスタッフが労働問題に取り組んでいるNPOやユニオンに相談するほうが、労基署にも同行してくれるので、解決につながると考えています。
●学生バイトも労働者
――今後の経済の次第では、学生たちがさらに追い込まれて、食い物にされるおそれも。
号泣しながら、パワハラや嫌がらせがあったという悩みは、コロナ以前からありました。学生も自分自身をエンパワーメントできていません。正しい労働法の知識をもって、おかしいと言える人はほんとうに少ないと思います。
すべての社会問題が、労働法だけで解決するとまで思いませんが、労働法は、自分がバイト先でどういう立場なのか、客観的な地位を示しています。つまり、「あなたは労働者という立場なんだよ」と。
人間関係を壊したくないとか、店長と良い関係だからおかしいと思っても言わずにやり過ごすとかじゃなくて、学生バイトも労働者なんです。
そして、労働者は個人の性格と関係なく、弱い立場です。だから、労働法は、弱い立場の人たちのどういう権利を保障しているか、どういう権利を行使できるか、ということを定めています。
労働者という立場の脆弱性や、だからこそ労働法があるということを知っているかどうか。今後の人生に大きな影響が出てくるんじゃないかと思います。