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コロナ不況、業績不振で給与「2割カット」…労働者は対抗できないの?
画像はイメージです(NOBU / PIXTA)

コロナ不況、業績不振で給与「2割カット」…労働者は対抗できないの?

新型コロナが世界中で猛威をふるい、そのダメージは経済にも深刻な影響をもたらしています。その煽りは、日本の労働者にもーー。「40歳以上の従業員の給与を3月から2割カットする」とのお達しがあったとして、弁護士ドットコムにも相談が寄せられています。

相談者によれば、理由は新型コロナの影響による業績低迷だと会社は説明したとのこと。この会社に限らず、同業他社ではリストラや倒産が進んでおり「厳しい状況だと理解して欲しい。リストラではなく、給与2割カットで(業績低迷の)責任をとってもらう」と一方的に伝えられました。

相談者は「社長の一存で2割カットという判断は妥当なのか。そもそも会社に就業規則はなく、同意の有無についての確認もなかった」と、不満の様子だ。このような業績不振を理由とした給与カットは認められるのか。認められるとしたら、どのような条件が必要か。労働者はどのように対応したら良いのか。今井俊裕弁護士に聞いた。

●「会社の減額措置はおかしい」のが原則だが

ーー労働者側になんの事前説明もなく、2割の給与カットが決まったそうです。会社側の対応に問題はなかったのでしょうか?

就業規則や賃金規程がない会社の場合、従業員の賃金の内容や額は個々の労働契約により決まります。そして一旦成立した労働契約の条件を会社が一方的に変更はできません。労働者の同意が必要となります。これが法律の大原則です。

相談者によれば、会社は「責任をとってもらう」という趣旨で2割カットと言い渡されたようです。しかし責任といっても、コロナウィルスによる業績悪化は労働者に非があることは言いがたく、その意味でも今回の会社の減額措置はおかしいです。

もちろん無効であり、未払額について債権が残っており、消滅時効である2年間が経過するまでは会社に請求できるのが法律の理屈です。

●「従業員の雇用を死守するため、減給はあり得る」

ーーでは今回も、無効を求めることができるのですね。

あながちそう簡単にも言い切ることはできません。

相談者の業種は不明ですが、たとえば、顧客の大半を外国人、特に中国からの観光客に依存していた事業であり、今回のウィルス騒動で、売上げが激減した業種だったと仮定しましょう。

この場合、複数の店舗閉鎖や短時間労働者のシフト変更による労働日や労働時間の減数を徹底的に行っても、事業の経常的な固定費すら捻出できない、このままでは数カ月先には支払不能に陥るおそれもあり得るかもしれません。

このような危機的な状況ある場合はどうでしょうか。

ーー給与カットをしなければ、会社が倒産するかもしれないという状況で、どうすればいいのか、という問題ですね。

そうです。従業員の雇用を死守するために、会社が苦渋の選択として、減給とすることはあり得るかもしれません。

平時において、支払不能に陥っているような企業ならば、自由競争市場からの退場ということも当然と言えば当然です。しかし今回のような世界規模のウィルス騒動に、法律や過去の判例を杓子定規に適用していいのか、実務弁護士としては悩ましいところですね。

●「整理解雇」の考え方を類推することができるかもしれない

ーー似た状況として、経営悪化による解雇もあり得ますが、どう判断されるのでしょうか?

実務上は整理解雇と呼ばれる、労働者側に何らの非がないのに経営悪化などの理由でなされた解雇が裁判所で有効と判断されることもあります。

それをもとに、今回の給料2割カットの有効性を評価してみます。例えばこういった事実関係ではどう評価できるか、という視点からです。

有効と認められるのは(1)カットしなければ企業経営が成り立たない、支払不能など倒産のおそれも十分にあり得る、(2)店舗閉鎖や、役員報酬はじめ非正規雇用の人件費の削減など、他の経費削減手段はほとんどいっていいほど講じてきた、(3)2割カットの対象となる従業員は40歳以上の社員とのことですが、あえてその年齢で切り分けた判断にもそれなりの合理性がある、(4)社内組合や労働者の代表グループとの協議、説明そして妥協など、会社も誠意を尽くしている、などといった場合です。

プロフィール

今井 俊裕
今井 俊裕(いまい としひろ)弁護士 今井法律事務所
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。

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