大阪市内を流れる淀川で4月下旬、溺れた61歳の女性と助けに入った51歳の男性の2人がいずれも死亡するという事故があった。各社報道によると、女性が橋から川に転落した際、現場を偶然通りかかった大阪市環境局職員の男性が「僕が助けに行きます」と宣言し、見ず知らずの女性のために身を投げうって助けに入った。2人はその後、駆けつけたレスキュー隊に救助されたが、搬送先の病院でそれぞれ亡くなったという。
レスキュー隊員や警察官などは、時として自らを危険に晒さなければならない局面も出てくる。しかし今回のように、そういった特殊な業務についていない公務員が、業務とは直接関係がない場面で事故や災害に遭遇し、死亡や大怪我をした場合、何らかの特別な補償はあるのだろうか。古川拓弁護士に聞いた。
●一般公務員の人命救助が「公務執行上」の行為と認定されるためのハードルは高い
「今回のケースの場合、『警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律』や、これの関連条例に基づく給付が受けられる可能性があります。警察官への協力や人命救助に当たった方が病気になったり負傷・死亡した際に、ご本人やご遺族に治療費や年金などが給付される制度です。ただ、これは公務員に限った制度ではありません」
古川弁護士はこう話す。今回、大阪市の職員が、見知らぬ人を助けようと川に飛び込んだ背景には、公務員としての使命感もあったのではないか。そういった点に関して、何らかの追加補償が受けられるべきではないのだろうか。
「もし人命救助が『公務遂行上の行為』だと認定された場合は、公務災害として、より高い補償(給付)が受けられる可能性があります。ただ、そう認定されるためのハードルは高い。公用外出中であっても、本来業務との関連性や緊急性などから『(公務達成のために)客観的に見て善良な職員であれば誰でもがそうするであろう』と見なされる必要があります。また、今回、詳細はわかりませんが、通勤途中や休日であれば、認定のハードルはさらに高くなるでしょう」
このように古川弁護士は説明する。
「ただ、認定されなかった場合でも、一般的に『国や自治体には住民の生命・身体・財産を守る責務がある』と主張し、『公務員による人命救助行為については広く公務遂行性を認めるべきだ』として、不服審査請求や行政訴訟で争うことも考えられるでしょう」
このように述べたうえで、「大切なのは、最初からあきらめてしまわないことだと思います」と、古川弁護士はエールを送っていた。