「今日は飛行機に乗りません」――。日本航空(JAL)の乗員組合はこのほど、人事賃金制度などにかんする対応に不満があるとして、ストライキを会社側に通告した。6月19日に実施するとしていたストは結局、交渉によって回避されたが、もし実行されていれば国内線の8%にあたる50便が欠航し、約1400人に影響する可能性があったとみられている。
賃金や待遇改善を求めて「働かないこと」で抗議するストライキ。労働者に認められた権利の一つだが、雇用主だけでなく、サービスの利用者にも影響を与えることになる。飛行機のような社会の基礎的インフラがとまれば、社会に与えるインパクトも甚大だ。
日本では公務員のストライキは禁止されているが、かつて1970年代には国鉄で、公労協が「ストライキ権を求めたストライキ」を決行、国鉄がほぼ止まって、都市交通が大混乱したこともある。公共交通機関のほかにも医療や通信など、ストが社会に大きな影響を及ぼすサービス業は少なくない。民営化によって、国鉄はJRになったが、現在そうした「公共性」が高いサービスのストライキには、何か規制があるのだろうか。労働問題に詳しい岩出誠弁護士に聞いた。
●「公益事業」は、ストライキをする権利が大きく制限されている
「実は、法律で『公益事業』とされているものについては、厳しい規制があります。労働関係調整法8条は、(1)運輸事業(2)郵便・信書便・電気通信事業(3)水道・電気・ガスの供給事業(4)医療・公衆衛生事業を、公益事業と定めています。
こういった公益事業の労働組合がストライキなどの『争議行為』をするには、少なくとも10日前までに、労働委員会と、厚生労働大臣または都道府県知事に通知しなければなりません(37条1項)。違反すると10万円以下の罰金が課せられます(39条1項)」
――ストライキを中止させることはできる?
「ストライキの規模が大きく、経済への影響や日常生活に危険があるような場合には、『緊急調整』という決定を内閣総理大臣ができます。その決定が出れば、50日間はストライキができなくなり(38条)、違反すると20万円以下の罰金が科されます」
――一般企業との差は?
「一般企業の場合、労働組合は団体交渉の一手段として、好きなタイミングでストライキができます。特別な事情のないかぎり、使用者側に事前に通告する必要はありません。判例でもそうなっています〈自治労・公共サービス清掃組合ほか(白井運輸)事件・東京地判平成18.12.26〉」
――「公益事業」の場合だと?
「たとえば鉄道では、ストライキの前倒しを実施5分前に通告したことで、ストライキ全体が『違法』とされたケースがあります〈国鉄千葉動労事件・東京高判平成13・9・11〉。判決は『前倒し実施により運休列車が249本、遅延列車215本にもおよぶ重大な混乱が生じた』と指摘、実施した側もそれを予測できていたはずだとして、ストは『手続、手段、態様において、正当性を欠く』と判断しました」
――そういう場合、労働組合は責任を取らされる?
「たとえば、東日本旅客鉄道事件(東京地判平成17・2・28)では、繰り上げストは違法とされ、会社から組合への損害賠償請求が認められました。また、繰り上げストが適法かどうかは、ストライキの目的や手続、態様が、労使間の『信義則に反しているかどうか』で判断するという基準が、この判決で示されています」
やはり、生活に直結する事業のストライキにはかなりの制限があるようだ。これからの公共サービスを議論していく際には、こういった観点も踏まえておく必要があるだろう。