「お前、その髪、短く切ってこい。そんなんで営業がとれるか!」。ある会社では、「男は短髪」という考えをもった上司のために、部下の男性たちはみな短髪なのだという。今どき少し古い考え方のような気もするが、上司が髪型に関してうるさいという話はちらほら聞く。
ネットのQ&Aサイトにも、髪型についての相談が寄せられている。この相談者は、上司に髪が長いから切れと「命令」されて、翌日に髪を切った。だが、その会社には、髪型に関する就業規定はなく、髪の長さが仕事の支障になるような職場でもない。上司に理由を聞くと、「長髪が嫌いだから」と答えたそうだ。
このように、ただ単に「長髪が嫌い」という上司の命令に、部下は従う必要があるのだろうか。また、髪型に関する就業規定があるかどうかで、その結論は変わってくるのだろうか。労働問題にくわしい白川秀之弁護士に聞いた。
●髪型を選ぶ権利は、憲法で認められた「個人の自由」
「髪型をどのようにするのかは個人の自由であり、憲法13条によって認められている権利です。
会社も、労働者の髪型に対して自由に干渉できるわけではありません。ましてや、単に上司の好き嫌いで労働者の髪型をどうこうすることはできず、場合によってはパワハラやセクハラになりかねません」
髪型を選ぶ権利も憲法が保障する「人権」であると、白川弁護士は言う。就職したからといって、会社に言われるままの髪型にしなければならないわけではない、というのだ。しかし、これにも例外があるようだ。
「就業規則で髪型について規定されていて、その規定が企業の円滑な運営の上で必要性がある場合には、労働者は、髪型に関する指示・命令に従わなければなりません。
たとえば、見た目の清潔感が要求される接客業や、衛生上の必要性が高い食品製造工場の仕事などの場合には、このような就業規則による指示・命令が許されるといえるでしょう」
●高校球児のような「丸刈り」の強制は許されない
このように白川弁護士は指摘する。ただ、髪型に関する規制が許される場合でも、限度があるという。
「接客業や食品製造であるから一律に許されるというわけではなく、髪型を『制限する必要性』、『制限の態様』を個別具体的に考える必要があります。
たとえば、髪を短くする必要性が高くても、成人した大人に高校球児のような丸刈りを命じることは、制限の態様が重すぎて許されないと思います」
髪型にうるさい上司の小言には、ただやみくもに従わなければならないというわけでもないようだ。もし部下に注意する立場の人なら、その髪型についての命令の根拠となる規定が「就業規則」にあるのか、そして本当に会社の業務のために「必要」なのか、考えてみたほうがいいだろう。