朝のさわやかな時間帯に働けば、夜のダラダラ残業もなくなる——。最近、「朝型勤務」が企業の間で広がりを見せている。仕事を効率化させることで、日本企業の課題である長時間労働の削減につなげることが狙いだ。
伊藤忠商事では、今年5月から朝型勤務を正式導入。国内に勤務する従業員約2600人を対象に、午後10時から午前5時までの深夜勤務を禁止して、午前5~9時の勤務に深夜勤務と同様の「早朝割り増し」を支給する仕組みだ。昨年10月のトライアル導入後、総合職1人あたりの1カ月の時間外勤務は4時間減ったという。
ただ、「朝から働きたくない」「夜に落ち着いて働きたい」という夜型の人がいてもおかしくないだろう。就業時間の変更も含めた全社的な制度改正で、「朝型勤務」を強いても問題はないのだろうか。光永享央弁護士に聞いた。
●「朝型勤務」の推奨は合理的だが・・・
「長時間労働の削減という目的は、今年11月1日に施行された過労死等防止対策推進法の趣旨にも沿っており、正しい方向性だと思います。
また、その手段として『朝型勤務』を推奨するのも合理的です。早朝は通勤ラッシュを避けられますし、電話も鳴りませんので、頭がクリアな状態で書類作成などに集中できて、能率も上がるでしょう。実は私も数年前から、毎朝午前7時に事務所に出てきて、その分早く帰っています」
では「夜型人間」はどうすればいいのだろうか。
「もちろん、受験勉強のように、夜のほうが仕事に集中できる人もいるでしょうが、仕事は所定労働時間内に終えるのが原則です。
労働者側としては、残業を当然のごとく受け入れて『夜のほうがいい』と言うのではなく、 夜も朝も残業しないで済む勤務体制を目指して、人員の増加や業務量の削減などを会社に求めていくべきです。
その意味で、伊藤忠商事の試みは、『残業ゼロ』に向けた過渡的なものとして位置づけるべきでしょう」
ただ、強制するような事態に発展すると、問題はないのだろうか。
「伊藤忠商事のケースと異なり、いわゆる『9時~5時』だった会社が、午前6時始業~午後2時終業のように、所定就業時間を大幅に『朝型』に変更するのは、労働者にとって重大な不利益変更ですので、一方的に強行することは許されません。
また、人間の生体リズム(サーカディアン・リズム)は働き方に関わらず不変であり、午前3~4時に起床するような生活を続けると、血圧上昇等の健康障害をもたらすことが知られています。極端な『朝型勤務』はやめたほうがよいでしょう」
光永弁護士はこのように説明していた。自分の生活リズムとも向き合いながら、効率的に仕事をこなせる環境をつくることが大切になるだろう。