不倫をした人のパートナーが、不倫の相手先に対して、許すことの意思表示をした場合、慰謝料を請求する権利はなくなってしまうのでしょうか。渡邊幹仁弁護士に聞きました。
●「免除」の意思表示だと判断されるかどうか
「まず前提として、本来、自分のパートナーと不倫関係にあった相手に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権(慰謝料請求権)があります。
この権利を行使するか否か、どのように処分するのかは、自身に委ねられています」
もし「許す」と言ってしまったら、どう影響するのか。
「民法519条では『免除』について定め、『債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する』ことになります。
したがって、『許す』としたのが、この『免除』の意思表示だと見られれば、すでにあった不倫行為について、相手に対して慰謝料請求はできなくなります(免除の意思表示により、慰謝料請求権が消滅したと見られます)。
しかし、『許す』と発言したことと『慰謝料請求権が消滅させる免除の意思表示をする』というのは、必ずしも一致しているとは限りません。どのような文脈、状況で発言したのかによるところも大きいと思われます。
例えば、『許す』というのが、『(今後の様子をみることにして)ひとまず現時点では慰謝料請求をしない(慰謝料請求権を行使しない)』という文脈、意味合いで言ったのであれば、必ずしも『免除』をした、とまでは言えないと考えられます。
また、その時点で把握している不倫の内容(期間、頻度や態様など)が、その後知った実際の出来事と大きく異なる場合や、不倫相手にパートナーがいた場合、そのパートナーからの慰謝料請求が行われる場合であっても免除する、という趣旨まで含んでいたかということも問題となることもあるでしょう」
もし今後、不倫が再度おきてしまい、過去のことについても慰謝料請求しようとした場合、一度許してしまっていることが影響するのか。
「先ほど述べたとおり、『免除』と見られなければ基本的な影響はないと思われます。
『免除』と見られれば、最初の不倫関係によって発生した慰謝料請求権自体はすでに存在しないことになります。ですから、それ以降の不倫関係によって発生した精神的損害についてのみしか慰謝料請求ができないということになります」