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不倫の現場を押さえたい!「iPhoneを探す」「GPS」「カーナビ履歴」は証拠になる?
(yamasan / PIXTA)

不倫の現場を押さえたい!「iPhoneを探す」「GPS」「カーナビ履歴」は証拠になる?

夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。

連載の第26回は「不倫の証拠収集、適切なライン」です。近年は、テクノロジーの進化により、かつては考えられなかったような情報を取得することができるようになりました。

しかし、中村弁護士は「裁判などにおいて、強力な証拠となる一方、多大なプライバシー侵害となることもあります」と注意を呼びかけます。

●どのような手段があるか?

今回は、不貞行為の際に出てくる証拠で、各種デバイスを利用したケースの中から、過去に問題となった手段をいくつかご紹介します。

(1)スマートフォンによる位置情報

まず、最近よくあるのが、スマートフォンの位置情報を利用したケースです。Apple製品であれば「iPhoneを探す」、Android製品であれば「デバイスを探す」などの機能です。

これらは、スマートフォンだけでなく、タブレットやワイヤレスイヤホン、スマートウォッチなどを探すのにも使えますし、家族など他の人と共有できる設定もできます。また、Googleアカウントを持っていると、「ロケーション履歴」という機能があり、過去に訪れた場所を記録しておいてくれるサービスもあります。

このような「探す」の機能は、本来、デバイスを紛失したときに利用します。「ロケーション履歴」も、自分の過去の思い出や日々の振り返りに使えます。しかし、これらの機能によって、相手に現在位置や過去に行った場所を知られてしまうことがあります。

つまり、自分が使用しているスマートフォンやワイヤレスイヤホンなどの位置情報がオンにされて、相手のスマートフォンと共有された場合、たとえば、位置情報から、自分がラブホテルにいたことを相手に知られるということがあります。

これらを防ぐためには、スマートフォンなどの位置情報をオフにしたり、他人との共有を解除する必要があります。改めて、自分のスマートフォンの設定を見直してみましょう。

(2)GPS

似たようなものとして、GPSを用いるケースがあります。これらは、本来は、たとえば子どもの防犯のためや、認知症の高齢者が行方不明になるのを防ぐといった使用方法がありますが、相手がよく持ち歩くカバンや、相手が乗る車の中などに忍ばせておけば、相手の行動調査に利用することも可能です。

不安な方は、自分が持ち歩くカバンや、自分が乗る車の中などに、見知らぬ機材が入っていないかを確認してみてもいいかもしれません。

(3)カーナビやドライブレコーダー

さらに、カーナビの履歴や、ドライブレコーダーから相手に行動履歴を探られることがあります。

普段、自分が行かない場所や、遠方に行くときは、カーナビを使用される方も多いと思います。しかし、過去に設定した履歴が記録されるので、相手も同じ車を使用する場合、その履歴を知られることがあります。そうすると、自分の行動が相手にわかってしまいます。

また、ドライブレコーダーは、本来は、事故が起きた際の事故状況の記録のために使用されるものですが、「常時録画」では、自動的にずっと録画されているので、それを定期的に回収されれば、自分がどこに行ったかを相手方に知られてしまいます。

●法的に問題ないのか

では、これらを用いた証拠収集に、法的な問題はないのでしょうか。

(1)違法収集証拠の可能性

民事訴訟において、違法に収集された証拠を裁判所が認めることは、国民が民事訴訟に期待する「公正さ」を損なうことになり、また、裁判所が違法行為を認めたと捉えかねられないので、証拠として排除されることがあります。

そのような場合は、証拠として提出しても採用されず、結局、不貞行為などの証拠としては使えなくなります。

しかし、このハードルはかなり高く、著しく反社会的な方法と言われる程度に違法性が高いことが必要です。「違法に収集された証拠だ」という主張はしばしばされるものの、ほとんど認められた例はありません。

たとえば、別居後に、相手の自宅に侵入して密かに入手したと思われる相手方と弁護士の打合せのための手控えのノートが証拠として提出された事例で、証拠排除が認められたケースがあります(東京地判平成10年5月29日)。これは、住居侵入罪や窃盗罪に該当しうる行為なので、証拠排除が認められたと思われます。

しかし、相手との会話を無断で録音したなどのケースでは、証拠排除が認められないケースがほとんどです(東京高判昭和52年7月15日、盛岡地判昭和59年8月10日等)。

上記のような、各種テクノロジーを用いた証拠については、どうなるでしょうか。

カーナビの履歴やドライブレコーダーなど、お互いが共有して使用しているデバイスから証拠を取得したものについては、お互いが共有して使用している以上、いつでも取得される可能性があるものですから、証拠排除される可能性は低いと思われます。

また、相手方の車に無断でGPSを取り付けて、その居場所を探索した事例について、「(相手方の)精神的、肉体的自由を拘束するものではなく、その方法が著しく反社会的であるとまではいうことが困難」として、証拠排除されなかった判決があります(東京地判平成25年10月9日)。

では、スマートフォンの位置情報を利用した場合はどうでしょうか。これも、具体的事例によるので、一概には言えませんが、「iPhoneを探す」を利用して居場所を探ったことをきっかけに、不貞行為が発覚した事例において、証拠採用された判決はあります(東京地判令和2年1月23日)。ただし、違法収集証拠の主張を当事者がおこなわず、争点にはなっていませんでした。

ただ、これらの事例であっても、別居後に、相手方の自宅や敷地内に侵入しておこなった場合は、住居侵入罪に該当しうる行為になるので、その場合は証拠排除される可能性が出てきます。

また、ストーカー規制法においては、恋愛感情やそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、相手方に無断で位置情報を取得したり、GPSなどを取り付ける行為をすることは禁止しています(ストーカー規制法2条3項、同法3条)。反復してこれをおこなうような場合は、「ストーカー行為」として、処罰の対象ともなっています(同法2条4項、18条)。

さらに、相手方のアカウントの乗っ取りなどをおこなえば、不正アクセス禁止法に違反する可能性もあります。このような場合には、証拠が排除されることもありうるかもしれません。

(2)犯罪行為や不法行為に該当する可能性

また、上記のとおり、別居後に相手方の自宅に侵入したり、ストーカー規制法に反するような位置情報の取得行為を反復しておこなったり、不正アクセス禁止法に違反するようなアカウントの乗っ取り行為などをおこなえば、犯罪行為となって、処罰される可能性もあります。

さらに、そこまで至らなくとも、プライバシー権侵害として、不法行為に該当する可能性もあります。その場合は、慰謝料の支払義務を負うことになる可能性があります。

●証拠収集のやりすぎに注意

不貞行為を認めさせるためには、相手に気が付かれないように動く必要がありますし、弱い証拠しか収集できないと、裁判において相手が争ってきたら、こちらの請求が認められない可能性があるので、きちんと証拠収集する必要があります。

一方で、あまりにやり過ぎると、違法収集証拠として採用されず、無駄に終わってしまったり、不法行為や犯罪行為となって、慰謝料支払い義務や処罰を受けることもありえますので、無理をしてはいけません。

証拠収集の適切なラインを知るためにも、弁護士に相談しながら証拠収集することをお勧めします。

また、相手方から上記のようなストーカー行為などをされそうだと思ったら、ある程度、自分でできる自衛策を打ちましょう。

(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)

プロフィール

中村 剛
中村 剛(なかむら たけし)弁護士 中村総合法律事務所
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。

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