「日本人客お断り」。石垣島(沖縄県石垣市)にあるラーメン屋「麺屋 八重山style」が今年7月から、日本人客の入店制限をはじめて、ネット上で物議を醸している。「日本人客お断り」は法的に問題ないのだろうか。
●店主「日本人観光客のマナーは年々悪くなっています」
「麺屋 八重山style」店主の有馬明男さんによると、「日本人客お断り」の背景には、日本人観光客のマナーの悪さがある。
店の入口には、「客1人につきラーメン1杯を注文」というルールを書いているにもかかわらず、注文せずに長居したり、飲み物を持ち込んだり、悪態をついたりする人がいたのだという。
有馬さんは、弁護士ドットコムニュースの取材に「日本人観光客のマナーは年々悪くなっています。日本人は『お客様は神様だ』と思っています」と語った。昨年夏ごろから、「日本人客お断り」の導入を考えていたが、今夏に我慢の限界がきたというわけだ。
地元紙やテレビ局で大きく取り上げられたことで、思わぬ注目を集めてしまい、店には、全国からの電話が鳴りつづけた。「がんばってください」という応援メッセージもあれば、「ころすぞ!」「つぶれろ!」といった脅迫も受けることがあるそうだ。
有馬さんによると、「日本人客お断り」は今年9月末まで続けて、そのあとは様子を見ながら、会員制を導入することも検討しているという。ネット上には、賛否両論があがっている。はたして、法的にはどうなのだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。
●「外国人お断り」のスーパー銭湯は「人種差別」にあたるとされた
「『外国人お断り』の場合については、慰謝料請求の訴訟になった事件がいくつかあります。
たとえば、北海道小樽市で、銭湯を利用するロシア人船員の入浴マナーが問題になり、日本人以外の客を断る『JAPANESE ONLY』としたスーパー銭湯で利用を断られた3人(ドイツ国籍、アメリカ国籍、アメリカ国籍から日本に帰化した人)が、銭湯を経営する会社に対して慰謝料を求めた訴訟です(小樽入浴拒否事件)。
判決では、国籍の有無による区別ではなく、実質的に人種、皮膚の色、民族的出身などによる区別と認められる場合は、憲法14条1項、国際人権規約B規約26条、人種差別撤廃条約の趣旨に照らして、私人間においても撤廃されるべき人種差別にあたると指摘されています。
そして、被告会社の入浴拒否は、この人種差別にあたり、不合理な差別であるとして、不法行為の慰謝料請求が認められました。被告会社に財産権の保障に基づく『営業の自由』が認められたとしても、違法とされています(札幌地裁平成14年11月11日判決)」
●店主「まさか差別問題につながるとは思いませんでした」
「今回のラーメン店の『日本人客お断り』は、マナーの悪い日本人観光客を断りたいということですから、おそらく実質的には、日本語を母語として話す黄色人種を入店拒否の対象としていたのではないかと推測します。
そうであれば、日本語を母語として話す黄色人種で日本国籍でない人も断られた可能性もあるでしょう。一方で、日本に帰化した元外国人は『日本人』でもお断りの対象とされなかったのではと考えられます。
もし仮に、このような人たちがいたとすれば、『小樽入浴拒否事件』のように、店主に対して、不合理な人種差別を主張して、慰謝料請求をする人が出てくるかもしれません」
なお、店では、パスポートなどで国籍を確認するようなことはなかったということだ。
「石垣島の観光客は、圧倒的に日本人が多いそうです。ラーメン店の客の多数になるであろう『日本人』を断るというのは、経営者にとってはかなり厳しい決断です。それでも、その決断に至ったということは、店主は、かなりの数の悪質な『日本人』による迷惑行為を受けてきたのでは、と想像します。
とはいえ、『日本人客お断り』は、店の経営を守る手段として、法的リスクの高いものだったと考えます。この店は10月以降、会員制を検討されているということなので、穏当な方法で経営を続けていってもらいたいです」
有馬さんは、弁護士ドットコムニュースの取材に「まさか差別問題につながると思っていなかったです。もっと丁寧に説明をすべきでした」と反省の言葉を口にしていた。