なぜ、体にメスをいれないと男性だと認められないのかーー。生殖能力をもたないことを性別変更の要件としている性同一性障害特例法の規定は、性同一性障害者の自己決定権を奪うもので憲法13条に反しているとして、岡山県新庄村の臼井崇来人さん(44)が最高裁に特別抗告を申し立てている。
臼井さんは、女性から男性への戸籍上の性別変更を求めている。ただ、その申し立てを受けた岡山家裁津山支部は認めず、広島高裁岡山支部も岡山家裁津山支部の判断を支持し、臼井さんの性別変更を認めない決定を2018年2月にしていた。
性同一性障害特例法は性別変更の審判ができる条件として、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」(3条1項4号)などと規定。広島高裁岡山支部の松本清隆裁判長は決定理由で、「性別の取扱いの変更を認める要件の一つとして4号を定めることが、立法府が有する裁量権の範囲を逸脱すると認めることはできない」と指摘した。
臼井さんは、そうした規定は人体にメスを入れることを事実上強要するもので、性別変更は自らの心の問題だと主張している。最高裁の判断が注目されるなか、弁護士ドットコムニュースでは臼井さんに電話インタビューを行った。主なやりとりは以下のとおり。
●「あくまでも、私は男性として女性と結婚したい」
ーー性別変更のための手術を受けない理由を教えてください
「セクシャルアイデンティティは、体ではなく、心のレベルで決定されていると思います。『体を変更したら男性で、変更しないなら女性でいろ』と言われているようで、手術を受けなければいけないというのは納得がいきません。自己決定権が侵害されています。
自分としては女性同士の同性婚をしたいわけじゃないんです。同性パートナーシップを認める自治体も出てきていますが、仮に日本全体として認められる日が訪れたとしても、私はそこに加わるつもりはありません。あくまでも、私は男性として女性と結婚したいのです」
ーー司法の判断を仰いだのはどうしてですか
「法的に性別変更の許可をしてくれるのが、司法だからです。私と同じような思いを抱えてきた人たちは、これまで手術をしないと性別変更の申し立てができないと思っていたと思います。ただ、手術をしていないとダメだというのが、そもそもおかしいと感じています」
ーー現状では自らの主張が司法の場で認められてない理由をどう捉えていますか
「裁判官としても、たかだか、私ひとりのために、こんな大きな結論出せないよ、という思いかもしれません。社会の混乱を招くという結論ありきな印象です。まずは私が言うような問題がもっと広く社会に認知されてからにしたいということなのかもしれません」
ーー最高裁にはどのようなことを期待しますか
「私のような事例がもっと集まらないと世間が納得しないという部分があるのかもしれません。ただ岡山家裁津山支部に性別変更の申し立てをした2016年12月からは約1年半の月日が経ち、時代の変化はあろうかと思います。認めてもらうことを期待しています」
●改名前、なるべくフルネーム言わないように
ーーいつ頃、「性の不一致」を認識したのでしょうか
「若い頃、性同一性障害という概念がなく、性の不一致ということを明確に認識してませんでした。周りからはボーイッシュな女子だと認識されていたと思います。確か1998年に、性転換手術が行われたという新聞記事を偶然読み、こんなことが可能なのかと知りました。カミングアウトをするまでは、あまり目立たないようにしていました」
ーーこれまでの生活で不自由に感じてきた点などを教えてください
「普通に生活しているぶんには、周囲も含め、不自由なことはありません。ただ、2014年10月に『隆子』から『崇来人』に改名するまで、私はフルネームを言わないようにしていました。なるべく、名刺も渡さないようにしていました。男性らしい格好をしていても、名刺を渡すと『あ、女性だったんですね』と言われるので、腹が立ってたまらなかったです」
ーー最高裁に主張が認められた場合、今後、どのような生活をしていきたいですか
「具体的にはまず、男女として結婚をして、妻と子どもと苗字を同じにしたい。そして、新しい気持ちで公的に認められた家族になりたいです」
【プロフィール】
臼井崇来人(うすい・たかきーと)さん。44歳、岡山県新庄村に在住。パートナーの女性(40)と女性の息子(8)との3人暮らし。普段は原木しいたけ栽培や講演などをしている。