指定薬物「エトミデート」を所持し、広島東洋カープの元選手・羽月隆太郎氏に譲渡したとして、医薬品医療機器法(薬機法)違反の罪に問われた東京都の会社役員、滝口涼介被告人の公判が9月16日、広島地裁で開かれた。
佐藤智彦裁判官は、滝口被告人に拘禁刑2年、執行猶予4年(求刑:拘禁刑2年)の有罪判決を言い渡した。
今回、譲渡の相手とされた羽月氏も、すでに有罪判決を受けている。この問題を受けて球団との契約を解除され、球団はほかの選手の関与についても調査するなど、大きな問題に発展した。
多くの傍聴希望者が詰めかけた法廷では、滝口被告人と羽月氏との関係や、エトミデートを譲り渡すようになった経緯も明らかになった。
「一人のプロ野球選手の人生が大きく変わってしまいましたが、どう思いますか」
検察官からそう問われた滝口被告人は、「僕と会ってなければこうなってないでしょうから、申し訳ないです」と答えた。(裁判ライター・普通)
●レターパックで羽月氏のもとへ発送
羽月氏への譲渡が報じられて以降、メディアで大きく取り上げられ、さまざまな憶測を呼んだ滝口被告人。その注目度の高さもあって、広島地裁は傍聴券を配布し、用意された席数を上回る人が列をつくった。
身柄を拘束されていない滝口被告人は、職員に誘導されて入廷した。青いスーツに白いシャツ、赤いネクタイ姿。大柄な体格でひときわ存在感があった。
公判を通じて、萎縮する様子も、逆に過度に堂々と振る舞う様子もなく、落ち着いているように見えた。
起訴状によると、滝口被告人は昨年11月、新宿の路上でエトミデートを含む液体0.907グラムを所持したほか、同月、広島県にいた羽月氏にレターパックでエトミデートを含む液体入りのカートリッジ5本を送付したとされる。
滝口被告人はいずれの起訴内容も認めた。
●羽月氏とは2023年ごろに知り合う
検察官の冒頭陳述などによると、滝口被告人は事件の約半年前からエトミデートを自ら使用していた。
事件が発覚したきっかけは、警察官の姿を見た滝口被告人が路地裏に駆け込むなど、不審な動きをしたことだった。職務質問を受け、所持していたバッグから、エトミデートが入ったカートリッジ1本と空のカートリッジ6本が見つかった。
羽月氏とは2023年ごろに知り合ったという。羽月氏が遠征で東京を訪れた際に一緒に食事をするなどしており、その後、滝口被告人がエトミデートを使用する場面をきっかけに、羽月氏も使用するようになったとされた。
滝口被告人はその後、羽月氏から求められるたびに、自分の手元にあったエトミデートを譲渡。直接会えないときにはレターパックで送っていたという。
また、滝口被告人のスマートフォンには、羽月氏とは別の第三者への譲渡をうかがわせるメッセージのやり取りも残されていたという。
●「違法」と知りながら譲渡
弁護側は書面や証人による情状立証をおこなわず、滝口被告人本人への質問をおこなった。
滝口被告人によると、エトミデートの自己使用を始めて数カ月後、指定薬物として規制された。一時は使用をやめていたものの、その後、再び使うようになったという。
羽月氏が使用するきっかけについても説明した。
昨年4月ごろ、東京のバーで滝口被告人がエトミデートを使用する様子を羽月氏が見て、興味を示したという。その後、羽月氏から求められ、譲渡を繰り返すようになった。
エトミデートが指定薬物として規制されたのは同年5月からだった。規制後も譲渡が続いたことになるが、違法性について2人の間でどのようなやり取りがあったのかは、公判では明らかにならなかった。
滝口被告人は、羽月氏や球団、ファンに対して、多大な迷惑をかけたとして謝罪した。
事件の影響は滝口被告人自身や家族にも及んだという。
弁護人:あなたにも影響はあったのではないですか。
被告人:関係者へ取材されたり、真実でないことも報道されたりもしました。
弁護人:あなたの母親のもとにも取材が及んだようですが。
被告人:最初はかなりダメージを受けていました。
弁護人:あなた自身の生活のしにくさもあったのではないですか。
被告人:うーん、まぁ……写真を撮られたりは。
滝口被告人は、家族など身の回りの人に迷惑をかけたことを詫び、二度と違法薬物を使用しないと述べた。
●「一人のプロ野球選手の人生が大きく変わった」
検察官の質問では、エトミデートを入手するようになった経緯についても語った。
滝口被告人が初めてエトミデートを手にしたのは、仕事相手の外国人からだったという。「麻酔みたいなもの」「違法ではない」などと紹介されて使用し、リラックスする効果を感じたという。
購入したのは計10回未満で、1回につき5〜15本ほどのカートリッジを買っていたと説明した。
羽月氏に譲渡したのは3〜4回ほどで、いずれも羽月氏から連絡を受けた際に渡したという。
レターパックで送る際には、羽月氏と話したうえで、品名欄に「野球カードBOX」と記載していた。滝口被告人によると、実際の荷物と形状が近かったためだという。
一方、スマートフォンに残されていた、第三者への譲渡をうかがわせるメッセージについて、滝口被告人は実際に譲渡したことを否定した。
検察官は、違法だと認識しながら羽月氏に渡したことについて問いただした。
検察官:違法な薬物ということで、害悪を広げているという認識はありましたか。
被告人:そこまでは考えていませんでした。
さらに検察官は、羽月氏への影響について尋ねた。
検察官:一人のプロ野球選手の人生が大きく変わったことについて、どう思いますか。
被告人:うーん……まぁ、仲良くしていただけに、人生を奪ってしまい申し訳なく思ってますし、僕と会ってなければこうなってないでしょうから、申し訳ないです。
滝口被告人は少し言葉を詰まらせながら、そう答えた。
●拘禁刑2年、執行猶予4年
検察官は論告で、違法性を認識しながら所持・譲渡を繰り返しており、常習性が認められると指摘した。動機は安易かつ自己中心的で、酌量の余地はなく、意思決定には強い非難が妥当するとして、拘禁刑2年を求刑した。
一方、弁護側は、家族まで取材対象になるなど十分な社会的制裁を受けていることや、本人が反省していることを強調。社会から厳しい目を向けられている中で再犯する可能性は低いとして、執行猶予付きの判決を求めた。
休廷を挟んで言い渡された判決は、拘禁刑2年、執行猶予4年だった。
佐藤裁判官は、犯行に至る経緯に酌むべき点はないとする一方、同種前科がないことなどを考慮し、刑の執行を猶予した。
判決後も、裁判所の外では多くのメディアが滝口被告人の動向を追っていた。大型カメラだけでなく、ハンディカメラを手に、裁判所から出てきた人に次々と声をかける姿もあった。
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