日本大学アメリカンフットボール部の選手(20)が、関西学院大学との定期戦でした「悪質タックル」問題。5月23日に日大の監督・コーチが記者会見を開き、「『ケガをさせてこい』と指示はしていない」と、選手の主張を否定した。
説明に納得できない報道陣から質問が飛び続けたが、日大広報が会見を打ち切ろうとしたため、批判がさらに拡大している。
日大の大塚吉兵衛学長も5月25日に記者会見を開いたが、第三者委員会の調査があるとして、監督・コーチに対する評価については「控えたい」とコメント。一方、「コミュニケーションが成立しなかったのかもしれない」など、選手の誤解が問題だったかのような発言を繰り返した。
それだけに5月22日にあったタックルした日大選手の会見に対する世間の評価は高まる一方だ。
不祥事などが起きた際、代理人として弁護士はどのような対応をするのだろうか。選手の会見をどう見たのか、危機管理時のメディア対応の業務をしている都内の弁護士に評価を聞いた。
●充実した陳述書、ケガした選手への謝罪など手順もバッチリ
ーーまず、日大選手の会見について、どのように感じましたか?
あれ以上はできないんじゃないかと思います。選手本人も含めて、それくらい良い会見でした。ここまで過熱している案件では、事実を伏せたり、隠したりするなど、何か苦しい部分があったら、まずうまくいきません。
選手が顔を出して記者会見を開くことには、リスクも大きかったはずです。選手が、自らの責任を正面から認めて謝罪した上で、生々しい事実関係を自分の言葉で率直にお話しされたことで、本件の事実関係について「真実」を話し、本当に反省しているという印象を世間にもってもらえたのではないかと思います。結果として、メディアも含めて世論を「味方」に付けることができたのではないでしょうか。
ーー特にどういうところが良かったのでしょうか?
まず、会見の目的が、被害者への謝罪と謝罪の前提としての事実関係の説明であるとことを明確に打ち出したことが良かったです。このことは、会見前に配られた資料でも、冒頭の代理人による説明でも明確に伝えられていました。
記者会見はともかく開けばいいというものではありません。何のためにどうして記者会見をするのか、目的を冒頭に明確に打ち出し、その目的通りに記者会見を行ったのは、メディア対応として優れた対応かと思います。
また、メディアには時系列をまとめた資料と陳述書の2つが配られていましたが、いずれもよく練られたものだったと思います。
会見が始まる前に、会見に至る経緯についての時系列が配布され、会見開始後に代理人の弁護士からも読み上げられ説明がありました。その後、本人が陳述書に沿って、本件に関する詳細な事実を語りました。
このように、メディアが聞きたい「いつ、何があったか」を冒頭でまとめて出したことで、選手の負担感は減ったと思います。この対応がなければ、質疑の際に、メディアから時系列とは関係なく五月雨式に事実関係の質問があったはずです。そうすると、選手にも、相当の負担があったかと思いますし、事実関係をわかりやすく説明することも困難だったと思います。
この点、5月23日にあった日大の監督・コーチの会見は、情報が整理されておらず、記者からの反発を受けるという対照的な内容でした。
選手の陳述書は、非常に質が高いと感じました。コーチから試合前に、「監督に、お前をどうしたら試合に出せるか聞いたら、相手のQB(クォーターバック)を1プレー目で潰せば出してやると言われた。『QBを潰しに行くんで僕を使ってください』と監督に言いに行け」「相手のQBと知り合いなのか」「相手のQBがケガをして秋の試合に出られなかったらこっちの得だろう」と言われたことや、試合後に泣いているところをコーチに見られ「相手に悪いと思ったんやろ」と叱責されたことなど、「潰せとはいったが、ケガをさせろとはいっていない」という日大側の反論を潰せる根拠となるやりとりもきっちり盛り込まれていました。これだけ詳しいと、メディアも記事にしやすいでしょう。
一方、大学側の会見ではこれらを明確に否定できず、批判の矛先は大学に向けられることになっています。
陳述書は会見後、メディアに配られていましたが、これも考えた上での対応だったかもしれません。事前に配ってしまうと、記者が本人の言葉をしっかり受け止めてくれなかったり、質疑がより細かい部分に及んでしまったりするかもしれないからです。
また、配布資料によると、陳述書は5月19日の作成です。試合があったのが5月6日で、5月16日には代理人からの聞き取りがありました。詳細な記憶は薄れていくものなので、早めに弁護士に相談した選手の父親の判断が功を奏したと言えるでしょう。
代理人も迅速に対応しています。本人も会見の前にケガした選手に謝罪するなど、なすべきことを迅速に対応しているのも、非常に好感が持てます。後手にまわっている日本大学の対応と比較すると、なおさらです。
事件後の事後の対応についても、やるべきことをきちんとやっていることも、選手の会見内容の信用性を、間接的に補強する一因となったかと思います。仮に、やるべきこともやらずに、一方的に自分に有利な主張だけをしていたら、「世間」の支持を得ることは難しかったでしょう。
●メディアの動きを予測することが大切
ーー会見を開く際は、事前の準備をすると思います。一般的に、想定質問はどのように考えるのでしょうか?
流儀はそれぞれですし、すべてに適用できる方法はないので、以下はあくまでも一例です。
事実関係については、会見の段階では伏せておきたい事実がある場合、どうしても質疑の中でつじつまがあわない部分が出てくるので答えるのは大変です。一方、自らに不利な事実も含めて全てを話してもよいと本人が腹をくくれるなら、自分が経験した事実をありのままを伝えれば良いので、話してはいけないことはかなり限定できます。
困るのは、事実関係以外の感想などを聞かれる場合です。たとえば、今回のような場合、マスコミとしては、「ケガした選手が良いと言ったら、またアメフトをやりたくないですか」「監督・コーチへの一言(文句)はないですか」といった質問に対するコメントがほしいと考えられます。
そのほか、「もしあのとき○○だったらどうでしたか」という仮定の質問や、法的な責任に関する質問、関学大の選手側に関する質問などもあります。こうした質問に対して、方針を決めたり、話していいこと、話すべきではないことを確認したりします。
今回のケースで行けば、いくら質問がしつこくても、少しでも責任回避的と受け止められる発言やアメフトへの未練は絶対に言わないという方針があったのではないかと思います。ただし、会見を見た印象では、選手本人の意思も堅かったようですので、「準備」したのではなく、ありのままの気持ちをお話しされたのではないかと思います。
また、不確定な事実や自分が経験していない事実、推測についてはコメントしないのが鉄則です。
このほか、私は依頼者に対して、(1)質問の意味が分からず答えるのは話が混乱するので、質問の趣旨が分からなければ、聞き返してもよいこと、(2)メディアは自分のほしいコメントが出るまでしつこく質問することもあるが、キレずに辛抱強く回答すること、(3)同じことを何度も答えることになるがブレないこと、の3点を意識してもらうようアドバイスすることが多いです。
●アドバイスはするけど、「本人の言葉」でないと説得力は出ない
ーーそうすると練習もかなり必要になってくるのでは?
練習の回数は本人によりけりでしょう。練習しすぎて「覚えていることを吐き出す」という感じになってしまうと、見ている人に分かってしまい、かえって逆効果です。想定問答の答えを覚えてもらうのではなく、多少きつめの質問のやりとりを角度を変えて行い、あとは本人に任せるということも多いです。
その点、今回の選手の会見は、ネットなどの反応を見ても、「立派だった」という感想が多数でした。
弁護士が細かくアドバイスをしすぎると、「臭く」なってしまいがちです。今回は、本人の性格もあるのかもしれませんが、朴訥な喋り方で、よく考えている、経験した人でないと分からない事実を「自分の言葉」で話しているという印象を持ってもらえたのではないでしょうか。
ーー会見では弁護士が途中で質問を引き受けるシーンもありました。弁護士はどういうときに介入してくるのでしょう?
あまりに質問が厳しいときや、本人の頭が真っ白になってしまったと感じたときは、横にいる弁護士が合いの手をいれて、間を空けるということもあります。また、事件後の対外的なやりとりの時系列は、弁護士が客観的に説明した方がわかりやいことが多いでしょう。
ただ、弁護士が喋りすぎると、メディアの反感を買うこともあります。本人が何とか受け答えできるなら、大変であったとしても本人に話して貰った方が効果的な場合が多いでしょう。
その点からすると、今回は20歳の学生があれだけ多数のメディアに対して、多くを自分の言葉で語っていました。仮に、もっと年齢が上の社会人でも、あの場面で冷静さを保つのは難しい場面ですので、立派だったと思います。
本人の精神力はさることながら、代理人なのか、ご家族なのか、ご友人なのかは分かりませんが、メンタル面を強くサポートする人物もいたのではないでしょうか。