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積水ハウス「前会長は実は解任だった」日経報道を否定…退任当時の情報開示は適切だったか
日経報道と積水ハウスの「否定」発表

積水ハウス「前会長は実は解任だった」日経報道を否定…退任当時の情報開示は適切だったか

「家に帰れば・・」のCMでおなじみの住宅大手・積水ハウスで、幹部の内紛をきっかけに和田勇会長が退任に追い込まれたと日本経済新聞(2月20日朝刊)などが報じた。

報道によれば、マンション用地をめぐる詐欺事件で2017年2ー7月期に55億円もの特別損失を計上した責任をめぐり、和田氏が阿部俊則社長の退任案を取締役会で提示したところ、賛成反対同数で動議は流れ、反撃に出た阿部氏による和田氏の解任提案が僅差で可決。和田氏は解任されたという。

問題となっている人事異動は、積水ハウスが1月24日午後5時半に「代表取締役の異動に関するお知らせ」として開示したものだ。社長の阿部氏を会長に昇格させ、会長の和田氏を取締役相談役とする内容。異動の理由は「世代交代を図り、激動する市場環境に対応できる新たなガバナンス体制を構築し、事業の継続的な成長を図ってまいります」としている。

●報道が事実なら、情報開示のあり方に問題

東京証券取引所は2015年、上場企業が遵守すべき規範をまとめた企業統治の指針「コーポレートガバナンス・コード」を策定。東証1部に上場する積水ハウスも当然、その対象となっている。コーポレートガバナンス・コードは、基本原則として「適切な情報開示と透明性の確保」を掲げる。具体的には以下のように上場企業に求めている。

「上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。

その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである」

一方、1月24日の会見で阿部氏らは「新社長への打診は半年前」「詐欺事件との関係はまったくない」などと述べていたという。報道が事実だとしたら、上場企業がする情報開示のあり方として適切だったのか、投資家や関係者などから問題視される可能性がある。

●積水ハウス「あくまでも本人意思による辞任」

積水ハウスは2月20日、日経報道について、「本記事の一部には重大な事実誤認を含んでいます。前会長は解任という事実はなく、本人の意思による辞任で世代交代を決定したものです。本件は1月24日の適時開示と記者発表どおりです」とのコメントを出した。その後も複数のメディアが同様の報道をしたが、積水ハウスは説明を変えていない。

では、重大な事実誤認があるという「一部」とはどの部分についてなのか。判然としない。積水ハウスは「あくまでも解任ではなく、本人の意思で辞任されたということです。その他のコメントは差し控えさせていただきます」(広報)とした。

●企業法務に詳しい弁護士「株主等への責任果たしたか疑問」

弁護士ドットコムニュースでは、上場企業の法務部長を務めた経験があり企業法務に詳しい鎌田智弁護士に本件についてどう考えるか尋ねた。概要は以下のとおり。

ーー今回の問題をどうみますか

「報道内容からだけでは真実はわかりませんが、仮に形式的には前代表取締役会長の解任ではなく辞任であったとしても、適時開示で述べられた『世代交代を決定した』というだけでは株主等のステークホルダーに対する責任を果たしたといえるかどうかは疑問です。

積水ハウスは東証1部上場企業ですので、コーポレートガバナンス・コードのすべてについて、『コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か説明か)』が求められます。

『基本原則3』で適切な情報開示と透明性の確保が要求されていますが、実効的なコーポレートガバナンスを実現するために、経営陣幹部(経営幹部)の選任等についての方針や手続き等についても主体的な情報発信を行うべきとされています(原則3-1)」

ーー取締役会に問題はあるでしょうか

「はい。取締役会・取締役の責務という点から見ても問題があるように思えます。会社法は取締役会の職務として、取締役の職務の執行を監督すること、代表取締役が不適任である場合に解職することを定めています。

この点、コーポレートガバナンス・コードでも、会社の業績等の評価を経営幹部の人事に適切に反映すべきであるとして、経営幹部の選任や解任を公正かつ透明性の高い手続きに従って適切に実行すべきであるとしています(原則4-3等)。

仮に報道のとおり、前代表取締役会長の辞任が、最高執行責任者である前代表取締役社長の責任追及がとん挫した結果だったとしたら、取締役会は前社長に対する監督を適切に果たしたといえるのか、詐欺事件の評価を人事の決定に適切に反映したといえるのか、などという点が問われるでしょう」

ーー個々の取締役についてはいかがですか

「同時に、取締役会を構成する個々の取締役についても問題があるかもしれません。取締役会における権限行使において善管注意義務(善良な管理者としての注意をもってその職務を負う義務)・忠実義務(法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し会社のために忠実にその職務を行う義務)を尽くしたといえるかどうかが問われます」

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

鎌田 智
鎌田 智(かまた さとる)弁護士 鎌田法律事務所
上場企業の法務部長を務めた後、現在の事務所を開設。 企業内弁護士の経験を生かし、中小企業のビジネス法務に取り組む。

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