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検索事業者が考える「忘れられる権利」への対応…プライバシー保護と表現の自由の間で
シンポジウムの模様

検索事業者が考える「忘れられる権利」への対応…プライバシー保護と表現の自由の間で

インターネット上で自分の名前などを検索したときに表示される情報を削除してもらうよう求めることができる権利、いわゆる「忘れられる権利」について考えるシンポジウム(主催:総務省)が12月12日、東京都内でおこなわれた。国内で検索サービスを展開するインターネット企業の幹部らが登壇し、忘れられる権利をめぐる課題や取り組みについて話した。

●グーグル・野口氏があげる「忘れられる権利」の課題

「忘れられる権利」は、おもに欧州で広がった概念だ。インターネットの利用が大きく広がる中で、いったんサイトに掲載されたプライバシーに関連する情報の中には、消されず残るものがある。こうした情報は、検索サイトを通して、ほかの人に簡単に知られる可能性がある。

欧州では2018年から、「削除権」(忘れられる権利)を明記した新しい「EUデータ保護規則」が施行される予定だ。一方、日本ではまだ法律は整備されていないが、検索結果の削除をもとめる裁判が相次いでいる。「プライバシー保護」と「表現の自由」が対立する場面も多く、検索企業側の削除対応も、裁判所の判断も、ケース・バイ・ケースでわかれている。

グーグルで法務部長をつとめる野口祐子氏は、シンポジウムの基調講演で、欧州の事例から見た「忘れられる権利」をめぐる課題として、「裁判所の基準があいまい」という点をあげた。

欧州で「忘れられる権利」のきっかけとなった裁判では、(1)不正確なもの(2)不十分なもの(3)無関係なもの(4)行き過ぎたものと、「優越すべき公共の利益」を比較衡量するいう基準が示されている。だが、野口氏によると、(1)〜(4)がどこからどこまでの範囲なのか、あいまいだという。

野口氏は「(削除を求められた場合)グーグルのような一私企業が判断せざるをえない立場におかれている。欧州でも、『本当にそうあるべきか』ということが議論になっている」と説明。「情報流通のエコシステム全体から、『検索がどうあるべきか』を考えることが必要だ」と述べた。

●ヤフー・別所氏「プライバシー保護と表現の自由のバランスが大事」

シンポジウムでは、ヤフー執行役員の別所直哉氏が後半のパネルディスカッションに登壇した。ヤフーは2015年3月、削除要請に応じるかどうかについて、次のような基準を公表している。

(1)被害申告者の属性

・「表現の自由」の保護の必要性が高い人物(議員など公職者)

・プライバシー保護の必要性が高い人物(未成年)

(2)記載された情報の性質

・プライバシー保護の要請が高い情報(性的画像、病歴、犯罪被害、いじめ被害など)

・「表現の自由」の保護の要請が高い情報(前科・逮捕歴、処分歴など)

たとえば、被害を申告した人が未成年の場合、プライバシー保護を優先して削除する可能性が高くなる。また、性的画像やいじめ被害のような情報も、削除の可能性が高くなる。一方で、公職者や前科など、公益性が高い情報の場合は、表現の自由を保護する必要性が高くなるため、削除すべきかどうか慎重に対応するというわけだ。

別所氏によると、これらは代表的な考慮要素で、実際には「一件一件の事案をみて、削除すべきかどうかという判断を繰り返している。数学の公式のように簡単に答えがでるのではなくて、いろいろな要素を見ながら判断せざるをえない」という。

別所氏によると、ヤフーには2016年4〜8月には削除申告が2581件もあった。そのうち削除したのは、全体の約42%にあたる1096件だった。その大半は、ヤフーが確認した時点ですでにデータが存在しないものだった。削除しなかった事例としては、犯罪から時間が経っていないケースなどがあったという。

別所氏は「合理的な理由があるものは、きちんと判断して削除している。野放図にいろんなものを残しているわけでも、何でもかんでも言われたものを削除しているわけでない。プライバシー保護と表現の自由のバランスをいかにとるかということが大事だ」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)

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