野良猫の不妊・去勢手術費用を公費で負担することなどを盛り込んだ条例案が、神戸市で成立する見通しだ。神戸市議会の3会派(自民、公明、民進こうべ)が10月中旬、「神戸市 人と猫との共生に関する条例」案を提出した。11月議会で可決、来年4月施行を予定している。
神戸市では、飼い主のいない野良猫が増えて、ふん尿による悪臭や餌やりによる住民トラブルの原因になっているという。また、猫の殺処分の多くが子猫となっている。今回の条例案では、問題が生じている地域で、猫の不妊・去勢手術をおこなって、殺処分ゼロを目指している。
これまでも、京都市や和歌山県で、野良猫への餌やりを禁止する条例がつくられているが、野良猫の繁殖抑制に特化した条例は全国初となるようだ。神戸市の条例案をどう評価するか、動物の法律問題にくわしい細川敦史弁護士に聞いた。
●従来の取り組みとの違いは?
「神戸市の条例案は、獣医師など専門家の助言を得ながら、自治体みずからが、計画的・効果的に、野良猫の繁殖制限をおこなうことができる点が、画期的で、評価できます」
具体的にはどのようなところが画期的といえるのだろうか。
「環境省の統計によると、自治体で殺処分される猫(2015年度:計約6万7000頭)のうち、7割近くが離乳していない幼齢の猫です。
そして、そのほとんどは、屋外にいる野良猫から生まれた子猫が保護(捕獲)されて、自治体が引き取ったものです。2015年度に神戸市が引き取った幼齢猫694匹のうち676匹(なんと97.4%)が所有者不明の猫でした。
それならば、屋外で生活する野良猫に対して、不妊・去勢手術を徹底すれば、野良猫の交配・出産が減っていき、殺処分される幼齢猫が減っていくことになるはずです。
そのために、これまで、地域住民、猫ボランティア、自治体が協力して、野良猫に不妊去勢手術を実施して『地域猫』として適切に管理していく手法が提唱されて、各地の自治体において、不妊去勢手術費の助成というかたちで推進が図られてきました。
神戸市でも、2005年度に助成制度がスタートし、徐々に予算が増えるなど推進されてきています。しかし、住民の同意を要件とし、住民からの申請があって初めて不妊去勢手術費用を助成するといういわば『受け身』の制度です。ほかの自治体においても、こうしたかたちでのみ導入されていました。
これに対して、今回、神戸市の条例案が予定している野良猫に対する制度の特徴は、地域住民や猫ボランティアの申請がない場合であっても、野良猫が増えている地域があれば、自治体みずから、積極的に繁殖制限に乗り出すことができるところにあります。ここに大きな意義があります」
●野良猫が可能な限り生きることを許容している
京都市や和歌山県でつくられた「餌やり禁止条例」と比較するとどうだろうか。
「数年前に、京都市や和歌山県で導入された『野良猫に対する餌やり(による生活環境の悪化)を規制する条例』と、自治体が野良猫に対して、自主的・積極的に繁殖制限措置をおこなう神戸市条例案には、共通点もあります。
どちらの制度も、野良猫の増加を防ぎ、それによって住民の生活環境を保持することを目的としています。その意味で、双方の目指すところは共通する部分もあり、矛盾しないともいえます。
ただし、餌やり行為を事実上規制するおそれを含んでいる京都市や和歌山県の条例と、こうした規制によらず、同じ目的を達成する方法として、野良猫に対する繁殖制限措置を積極的に強化する神戸市の条例案とでは、現に存在する野良猫に対する位置づけが異なっているかもしれません。
神戸市の条例案は『人と猫が共生する社会の実現』を最終的な重要な目的とすることが明記されています。『共生』の文言から、野良猫が今いる環境において、可能な限り生きることを許容していると考えられます」