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製薬営業から弁護士に…異色キャリアの倉重都弁護士が「女性差別」と戦う弁護団に志願した理由
倉重都弁護士(2020年7月、弁護士ドットコムニュース撮影)

製薬営業から弁護士に…異色キャリアの倉重都弁護士が「女性差別」と戦う弁護団に志願した理由

2018年夏、日本を驚愕させる事件が発覚した。東京医科大学の入試で、女性や浪人生の得点を一律減点していたことが明るみになったのだ。

その後、順天堂大学、聖マリアンナ医科大学など、複数の大学で女性の受験生らについて不正な取り扱いがあったことが判明。直後に結成されたのが、「医学部入試における女性差別対策弁護団」だった。被害にあった女性たちを救うべく、有志の弁護士たちが立ち上がった。

そうした動きを見ていたのが、当時司法修習生だった倉重都弁護士だ。まだ弁護士登録をする前だったが、弁護団に連絡して参加を希望したという。

30代半ばで10年以上、働いた製薬会社を辞めてから、弁護士を目指した倉重弁護士。大先輩である女性弁護士の「これまでの人生すべてがあなたのキャリア」という言葉に背中を押され、女性差別問題に情熱を傾けている。(弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)

●10年以上働いた製薬会社を思い切って退職

倉重弁護士の弁護士としてのスタートは決して早くない。大学は法学部だったが、「六法」が何か、全部は言えなかったと笑う。

卒業後の就職先は製薬会社。10年以上営業職として働いていた。スーツに身を包み、重いカバンを持って病院を渡り歩いた。会社に命じられ、東京から関西に転勤したこともある。仕事に追われる日々、自分を「鵜飼いの鵜」のように感じたという。

「なぜ人は会社員を目指すのかがわかりませんでした。会社から給料を与えられ、理不尽な上司や取引先の機嫌を取りながら、働かなければならない生活以外の選択肢はないか、考えていました」

そうした中、偶然にも転機が訪れた。

「当時、所属していた事業部が撤退することになり、退職した場合、まとまった退職金がもらえることになりました。だったらもう辞めてみようと思って、迷わずに退職しました」

退職した倉重弁護士が門戸を叩いたのはロースクールだった。水を得た魚とばかりに猛勉強をして、司法試験に合格する。

「不合格になる人も多い中、不安もありましたが、やっぱり会社を辞めてよかったとほっとしました」

●なぜ自分だけ家事を手伝い、弟は何も言われないのか?

数多ある選択肢の中、なぜ弁護士だったのだろうか。

「子どものころから女性に対する差別に疑問を持っていて、理不尽なことを変えていきたいという思いがありました。その積み重ねが、弁護士になろうと思ったきっかけかもしれません」

倉重弁護士には弟がいたが、いつも家事の手伝いを申し付けられるのは女の子の自分だけだった。

「小さいころから理不尽であることが、『自然』でした。家事手伝いをするのはまったく構わないのですが、だったら、子ども2人にさせるべきじゃないですか。なぜ自分だけなのか、理由を聞いても私の納得できる答えを誰も言えませんでした。当然なのですが(笑)。

いろんな意味不明なことは言われました。『女だから』『長女だから』とか。でも、もしも、長男だったら『長男だから家事を手伝え』って言われないですよね。物心ついたときからおかしいと思っていましたね」

その理不尽の延長線上にあるのが、夫婦同姓を義務付けている民法750条の規定という。

「よく『嫁に行った』とか『婿に入った』とか言いますよね。うちの母親も、父親と結婚して、『倉重の家に入った』という言い方をしていました。祖父母も『嫁に来た』という。

でも、家父長制度はもうありません。だから、この言い方には幼稚園のころから激しい抵抗感がありました。これは絶対に間違っているから、正しい方向に世の中を変えていきたいと思っていました。

こうした、結婚すると夫婦のどちらかが家に入るという勘違いは、夫婦が同姓になるところから生まれていると考えています。さらに、現状では女性の96%が夫の姓に変えています。だから『●●家に入る』とか『入籍する』という誤った言葉を使うのでしょう。

本来は、結婚した2人が新しい家庭を作って、その家庭の名前をどうするかという話なのに、2人の名前のどちらかにしなきゃいけないというのは、おかしいです。もうじゃんけんで決めるか、あるいは高橋さんと田中さんが結婚したら、佐藤さんにするなど『第三の姓』を選べるようになればいいなと思っています」

●医学部入試女性差別問題の弁護団に手を挙げる

司法試験に合格してから取り組もうと思ったのも、やはり女性の差別問題だった。

医学部入試の問題が報じられたとき、まだ司法修習生だった倉重弁護士。ただちに、角田由紀子弁護士や打越さく良弁護士たちが被害者のための弁護団を立ち上げたのを見て、自ら弁護団に入りたいと連絡した。

「あの事件を聞いたとき、本当に驚きました。耳を疑いました。女子の点数を下げることで、男子の点数を上げていたわけです。企業の面接だったら百歩譲ってまああるだろうと思いますが、大学入試ですよ! ここまでわかりやすい差別が現代にまだあるんだなって」

公正なる大学入試で差別された女性たちのために何かできることはないか。そう思うのは、自身も女性というだけで理不尽な思いをしてきた経験があるからだ。

弁護団では今、2つの訴訟に取り組んでいる。東京医科大学に対する訴訟と、順天堂大学に対する訴訟で、聖マリアンナ医科大学についても提訴を準備中という。

「私は主に、順天堂大の訴訟の事務局を担当しています。原告の被害者の方々は、みんな医師になりたいと思って受験したわけです。今はもう医学部生だったり、すでに医師だったりする方もいます。

そういう方たちが大学の医学部を訴えるということは、将来、彼女たちの就職にも影響を与えかねない。もちろん、原告の名前は出さず、閲覧制限もかけていますが、医学部生や駆け出しの医師が大学という大きな権力を相手に戦うことは本当に大変なことです。

しかし、これはわかりやすすぎるほど、わかりやすい女性差別です。公正公平であるはずの大学入試での点数操作は、許されるものではありません」

画像タイトル 医学部入試における女性差別について講演する倉重都弁護士(提供:ウィメンズマーチ東京2019実行委員会/撮影:Deby Sucha)

●「お前は慰安婦だ」と罵る夫、新型コロナで増えるDV

弁護士登録後は、「あかしあ法律事務所」に入所した。弁護士といえども、遅いスタートだっただけに就職活動は不利だったという。

「若くて、寄り道もしないで来ている人のほうが重宝されることが多いです。でも、事務所の設立者である平山知子弁護士に、『今までの経験も、あなたの経験として大事』だとおっしゃっていただきました。

もう私が生まれる前から弁護士をされている大先輩にそういっていただけたのは、本当に救いでした」

あかしあ法律事務所では、平山弁護士、筆頭の大久保佐和子弁護士とともに、離婚やDVなど女性が抱えているさまざまな問題を扱う。

「特に、新型コロナウイルスの予防で、夫が家庭にいる時間が増えたため、今までは夜間だけだったDVが昼間にもおこなわれるようになったという相談があります。とうとう夫が子どもにまで手をあげはじめたと悩んでいる女性もいました」

印象に残っているケースの一つが、夫に性行為を強要された妻。

「産後まもないときに性行為を求められ、断ると『この在日が!』と夫に罵られたそうです。その夫婦は2人とも日本人なんですけれど、『お前なんて在日で、慰安婦なんだから股開いていればいいんだよ』と…。女性差別だけなく、人種差別もあり、本当にひどいケースですね」

●DVやモラハラを第三者に相談しやすい仕組みを

最近、気になっているのは、モラハラをする夫の多さだ。

「陰湿なものが目立ちます。身体的なDVだと、裁判所ですぐに離婚を認めてもらえますが、モラハラだとなかなか難しい。そういう夫はだいたい、離婚調停があっても、離婚に同意しないことが多いです。

妻のほうでもモラハラを受け続けると、感覚が麻痺してくるんですよね。夫の機嫌をとって暮らすことに精一杯で。やっと、これはおかしいと気づいて、第三者に相談しようと思って弁護士のところに来る。

でも、それは氷山の一角です。そういう女性が100人いたら、1人しか来ないと思っています。あとの99人は、まだ今日現在も耐えていると思うと、もっと第三者に相談がしやすくなる仕組みが必要だと思います」

今後は、犯罪の被害者を支援するような仕事に携わっていきたいと考えている。

「特に性犯罪の被害者の支援ですね。

たとえば、最近の大きな話だと伊藤詩織さんの訴訟がありました。これも、被害にあって告発できる人は本当にひと握りだと思います。刑事事件として被害届出そうとしても、被害届自体を潰されることもあります。そうした事件にかかわっていきたいです。

一般的に弁護士は、犯罪を犯した側につきます。刑事弁護人ですね。そうした弁護士は、犯罪をできるだけ、小さくしてあげる側なんですよね。だけど、私は、性犯罪に関しては厳罰化したいと考えています」

【倉重都弁護士略歴】 大学卒業後は製薬会社に就職。営業として10年以上、働いていた。事業縮小を機に退社、青山学院大学法務研究科に入学して弁護士を目指す。卒業後、2018年に弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。HPVワクチン薬害訴訟弁護団や医学部入試における女性差別対策弁護団にも参加している。現在、あかしあ法律事務所に所属。事務所名であるアカシアの花は、国連・国際女性デーのシンボルフラワーである「ミモザの花」から。

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