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交通死亡事故、相続権のない遺族でももらえる「固有の慰謝料」…どんな仕組み?
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交通死亡事故、相続権のない遺族でももらえる「固有の慰謝料」…どんな仕組み?

交通事故で兄が亡くなった後、兄の妻が保険会社から賠償金をどのくらいもらったか教えてくれないーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにこのような相談が寄せられた。相談者の兄は、交通事故で死去。兄の妻は保険会社から慰謝料を手にしたはずだが、相談者にその金額は教えなかった。支給した保険会社に問い合わせたところ、兄の妻の許可がないと教えられないと言われたそうだ。

そこまで金額を気にしているのは、(相談者の)両親にも「固有の慰謝料」が支払われると考えているからだという。

「固有の慰謝料」とはどのような性質の賠償制度なのか。また、妻や保険会社が金額を教えないことについて、法的に問題はないのか。阿部泰典弁護士に聞いた。

●固有の慰謝料とは?

「死亡事故では、加害者に対して、『固有の慰謝料』を請求することができます。この慰謝料請求には2つの種類があり、1つは、亡くなった人固有のもの、もう1つが近親者固有のものです。前者が、被害者本人に発生する慰謝料請求権を相続人が相続するもので、後者は、被害者の近親者が感じる辛く悲しい思いに対する慰謝料のことを言います」

近親者とは、具体的にはどのような人たちなのだろうか。

「近親者の範囲は、民法711条によって、『被害者の父母、配偶者及び子』と定められているので、被害者の親であれば、固有の慰謝料をもらうことができます。

なお、判例上、父母、配偶者、子と実質的に同じだとみなす身分関係であれば、その人も固有の慰謝料を請求できるとされています。祖父母、孫、兄弟姉妹については、被害者との緊密な関係を主張・立証することになるでしょう」

割合はどのように決まるのか。

「親の場合、被害者である子に子どもがいなかった場合、3分の1の相続分があります(子の配偶者は3分の2)。この場合、死亡慰謝料の3分の1に加えて、固有の慰謝料を請求するともらえる慰謝料の総額が増えるようにも思えますが、実務上は、総額に変わりがないようにされるのが通常です」

相談者は、「金額を教えてもらえない」ことに不満を募らせているようだ。

「固有の慰謝料をいくら受領したかは、受領した人の個人情報です。受領した被害者の妻が教えないことは問題ありません。

また、個人情報保護法により、個人情報取扱事業者は、原則として、あらかじめ本人の同意を得ないで個人情報を第三者に提供してはならないとされています。支払いをした保険会社が金額を教えないことも問題はなく、むしろ保険会社が本人の同意を得ないで他人に教えた場合は個人情報保護法に違反することになります。

もっとも、個人情報保護法は『法令に基づく場合』は第三者に個人情報を提供してもよいとしているので、両親が弁護士に依頼して、弁護士が弁護士法23条の2に基づく照会(弁護士会照会)を所属弁護士会に申請して審査が通った場合には、保険会社からの回答が得られる可能性が出てきます」

また、阿部弁護士によれば相談者は、誤解している部分もあるようだ。

「被害者の両親は、息子の妻がいくら受領していても、自らの固有の慰謝料を請求すれば、相当な固有の慰謝料を受領することができます。息子の奥さんの受領した賠償金額が分からなくても不利益はありません。

そのため、弁護士会照会の必要性・相当性の要件がないとされ、審査が通らない、あるいは、保険会社の方で弁護士会照会の要件を欠くとして回答拒否することも考えられます。弁護士会照会を認めてもらうためには、親にとって、被害者である息子の奥さんが賠償金をいくらもらったのかを知る特別な必要性を主張することが必要になりますが、実際に認められることは難しいように思います」

死亡事故では、固有の慰謝料は通常、どのくらいもらえるのか。

「ちなみに、被害者死亡の場合の固有の慰謝料が問題となった裁判例で、認められた額をみると、次のように幅があります。

・配偶者 100~400万円

・親 100~400万円

・子 50~200万円

・兄弟姉妹 30~200万円

一般的には、近親者の人数によって、加害者が負担する慰謝料の総額が変わってしまうのは不公平であるという観点から、死亡慰謝料の基準額の範囲内で総額は変わらないとされています。

しかし、慰謝料増額事由が認められるような事案においては、近親者の固有の慰謝料を請求することによって慰謝料の総額が基準額を超えて認定されている裁判例もありますので、被害者遺族の立場からすれば、近親者の固有の慰謝料は請求しないよりは請求した方がいいと言えます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

阿部 泰典
阿部 泰典(あべ やすのり)弁護士 横浜パーク法律事務所
平成7年4月 弁護士登録。平成14年4月 横浜パーク法律事務所開設。平成21年度 横浜弁護士会副会長。平成24年、25年度 横浜弁護士会法律相談センター運営委員会委員長、横浜弁護士会野球部監督

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