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交通法規守れる?保険は? 運転不要の「完全自動運転車」実用化に向けた課題
自動運転車のイメージ

交通法規守れる?保険は? 運転不要の「完全自動運転車」実用化に向けた課題

人間による運転操作がいらない「完全自動運転車」の開発が盛り上がってきている。

報道によると、スマホを使った配車サービスを展開する米ウーバー社は、2020年の無人タクシー実現を掲げて、近日中にもアメリカの公道で実証実験をはじめるという。米自動車大手のフォード社は、ハンドルやペダルのない完全自動運転車を2021年に実用化する計画を発表した。

日本でも、ヤマト運輸とディー・エヌ・エー(DeNA)が今年7月、宅配便の配達に自動運転技術を活用する共同実験を2017年から開始すると発表した。こうした技術は、運転手不足の解消や利用者の利便性向上などが期待されている。

今後、実用化に向けたルールづくりも必要になってくる。日本では、「完全自動運転車」を実用化するにあたって、どんな課題があるのだろうか。自動運転車をめぐる法律にくわしい小林正啓弁護士に聞いた。

●自動運転車用の電波発信機を併置することに

「完全自動運転車の実用化の第一の課題は、交通法規を遵守させることです。ただ実際には、かなり難しい問題を含んでいます。

信号機一つとっても、黄色になったとき、そのまま進行するか停止するかを、人間は周囲の状況に照らしながら柔軟に判断しますが、自動運転車が急停止して追突事故を頻発するようでは困ります。

また、前方の車体にさえぎられて信号機が見えない場合、人間は歩行者用信号機や周囲の状況から推測しますが、今の人工知能には難しいでしょう。結局、信号機については自動車用の電波発信機を併置することになります。

電波発信機の設置の前提として、国際規格を決めなければなりませんが、電波帯域の問題があります。また、信号機のない(あるいは故障した)交差点で、警察官がおこなう交通誘導にも対応する必要があります。

このように、完全自動運転車に交通法規を遵守させることについては、多くの課題があります」

●「被害者救済は保険制度の改革によって図ることになる」

「事故が起きたときの民事・刑事上の責任も重要です。

現行法は、運転手の過失責任を問う建前となっていますが、運転手のいない完全自動運転自動車の事故の場合、被害者はプログラムの『過失』や『欠陥』を証明しない限り、責任を追及できなくなってしまいます。

この証明は非常に困難であり、被害者保護が薄くなってしまうので、被害者の救済は、保険制度の改革によって図るほかないでしょう。

日本では、事実上、『無過失責任』(過失がなくても責任を負う)として運用されている自賠責保険と、過失責任(過失がある場合のみ責任を負う)を前提とする任意保険との二段階の保険制度が取られています。完全自動運転自動車に適用される保険は、任意保険部分についても、事実上の無過失責任になると予想します。

任意保険の保険料が上がるようにも思われますが、完全自動運転自動車の起こす人身事故は減るので、必ずしも保険料が上がるといえません。

また、完全自動運転自動車に適用される任意保険は、強制保険になりますから、自賠責保険との関係も問題になります。完全自動運転自動車が広く普及するころには、自賠責保険制度と任意保険制度は、統合されていくことになるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小林 正啓
小林 正啓(こばやし まさひろ)弁護士 花水木法律事務所
1992年弁護士登録。ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。

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