電車から降りるとき、車両とホームの隙間が予想外に空いている――。そんな駅でヒヤリとした経験はないだろうか。JR東日本は7月、安全確保のため、最大で30センチ以上の隙間がある中央・総武線の飯田橋駅(東京)のホームを移設することを決めた。
こうした電車とホームの間隔が広い駅は、飯田橋のほかにも各地に存在する。飯田橋駅のようにホーム移設までは無理でも、何らかの安全対策を求める声は少なくない。
もしこうした駅で、電車とホームの間に転落してケガをしたら、乗客は鉄道会社に対して治療費を請求することができるだろうか。鉄道の法律問題にくわしい前島憲司弁護士に聞いた。
●鉄道会社の「安全配慮義務」が焦点
「もし裁判になれば、法的には、鉄道会社に『安全配慮義務違反』があったかどうか、という議論がなされるでしょう」
鉄道会社には、どんな安全配慮義務があるのだろうか。
「裁判例としては、客が列車とホームのコンクリートの間に挟まれて死亡した事件が参考になると思います。
この裁判では、ホームの構造や形状、乗降客の数、混雑状況、乗降客の挙動、平素の乗降状況――といった具体的事情に照らして、鉄道会社には『可能な限り事故の発生を未然に防止できるよう、万全の措置を講ずべき義務がある』と述べています」
となると、転落事故が起きた場合は、自動的に、鉄道会社側の過失が認められることになるだろうか。
「いいえ。そういうわけではありません。現段階では、鉄道会社が法的な責任を問われるまでには至らない可能性もあります。
先の裁判例でも『ホームと車両の隙間が●センチ以内でなければならない』と決まったわけではありません。たとえば、日ごろからのホームでのアナウンス、定期的な駅員の見回り、非常ボタンの設置、ホーム直下の転落検知装置の設置などをしていれば、鉄道会社が相応な事故防止策を講じていると認められる可能性もあります」
●「安全配慮義務」の基準は時代によって変わる
そうはいっても、ホームとの隙間が開きすぎているのは問題ではないだろうか。
「そうですね。今後は飯田橋駅のように、各鉄道会社でホームの安全管理の措置が進んでいくと思います。そうなると、将来的には30センチ以上の隙間があるような駅を放置していたら、安全配慮義務違反だとされる時代が来るかもしれません」
どこまでの「安全配慮」が必要なのかという判断は、時代によって変わる可能性もあるようだ。
「ただ、鉄道会社の安全配慮に足りないところがあったとしても、ただちに鉄道会社が100%損害を支払うべきとは言えません。たとえば、乗客が『駆け込み乗車をしようとして隙間に落ちた』とか、『酒に酔っていて足を踏み外した』というような場合は、賠償額が減額される可能性はあります」
ふだんあまり気にせず利用しているとはいえ、駅のホームはいつでも危険が隣り合わせ。鉄道会社はもちろん、利用客もそのことを肝に銘じておきたいものだ。