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「失われた10年」の負の遺産? 景気がいいはずなのに「人手不足倒産」が起きるワケ
若者の就職難が叫ばれる一方で、人手不足もまた深刻のようだ

「失われた10年」の負の遺産? 景気がいいはずなのに「人手不足倒産」が起きるワケ

アベノミクスで景気が回復したと言われている一方で、求人難や人件費の高騰などを理由に「人手不足倒産」する企業があいついでいる。東京商工リサーチが9月上旬に発表した統計では、2014年の1~8月の累計で、求人難の「人手不足倒産」が前年度の2倍を超える17件になった。建設業や小売業、外食産業などで増えているという。

読売新聞は、人手不足倒産の実例として、今年5月に会社の清算を決めた長野県の建設会社を挙げている。3月までに完成予定だった工場建設が職人不足で1カ月遅れ、運転資金が底をついたという。「職人を探してあちこちに声をかけたが、集まらなかった」という社長のコメントも、人手不足の世相を映している。

しかし、求人難による「人手不足倒産」と言われても、業界の外の人間にはなかなかイメージがわかない。どういうメカニズムで起きるのだろうか。また、経営者が倒産を回避するためには、どうしたらいいのか。経営者の業務支援をおこなう菊川敬規税理士に聞いた。

●原因は、建設業界を中心とする「職人不足」

「最近の『人手不足倒産』は、技能労働者と呼ばれる職人不足によるものです。バブル経済崩壊による『失われた10年』の間に、公共事業をはじめとする建設業界の景気は、急激に冷え込んだのは、記憶に新しいところです」

「失われた10年」と「人手不足倒産」にどんな関連があるのだろう。

「この10年の建設不況のために、とび工、鉄筋工、溶接工、型枠大工といった職人の仕事がなくなってしまいました。若い人が建設業を敬遠した結果、職人が育ちませんでした。職人を育てるには、最低でも10年はかかります。結果として、技能継承ができなくなったのです」

●「官民が協力して、人材育成に本腰を入れるべき」

なんとか解決策はないものだろうか。

「政府は、外国人労働者の受け入れを緩和して対応できると考えているようです。しかし、一人前の技能を身につけた外国人技能労働者が、どれほど来るのか疑問です。

今後も、建設関連の仕事は間違いなく増加します。東日本大震災の復興事業、アベノミクスによる公共事業の拡大、住宅市場の回復、そして東京五輪・・・。需要が増える要素は盛りだくさんです。

五輪後には、高度経済成長時代に作られた道路や橋梁といったインフラの補修工事という新たな課題がやってきます。ですから、職人の需要が減るとは考えにくいですね」

建設業界としては、仕事はあるのに「嬉しい悲鳴」とは言えないのがつらいところだ。

「はい。職人不足は構造的な問題です。一企業が単独で回避できる問題ではありません。官民が協力して、若い技能労働者を育成する仕組みを早急に作るべきです。企業も、本腰を入れて自社での人材育成に取り組まなければ、『人手不足倒産』は今後も減ることはないでしょう」

今はまだ「人手不足倒産」の入口といえるのだろう。早く取り組まなければ、さらに危機的な状況になりそうだ。政府も経済界も地域社会も、本腰を上げて取り組む必要があるだろう。

【取材協力税理士】

菊川 敬規 (きくかわ・よしのり)税理士

福岡県大牟田市出身。「みなとみらい起業家交流会」主宰。東京・赤坂で開業して14年。起業支援と相続、税務調査対応に注力。弁護士である妻とともに経営者を税務・法務の両面から支援している。

事務所名:菊川税務会計事務所、有明法務事務所、㈲有明会計事務センター事務所URL:http://www.ariakecf.co.jp

(税理士ドットコムトピックス)

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