「子どもが怪我をさせられたのに加害者の親から謝罪がありません」「加害者の親に子ども同士のトラブルでしょ、と逆ギレされました」ーー。ネット上では、トラブルを起こした子どもの親が謝罪しないことに対し、怒りの声があがっています。
小学1年生の息子がいるというアカリさん(神奈川県在住・30代・仮名)もその1人です。
「入学して間もないころから、息子は同じクラスのヤマトくん(仮名)に殴られたり、目に指を入れられたり、引っかかれたりということが複数回ありました。病院にかかったこともあり、顔についた傷は半年経っても残っています。担任の先生からは謝罪の電話がかかってきますが、親からの謝罪はありません」(アカリさん)
ある日、アカリさんの息子はヤマトくんに筆箱で力いっぱい後頭部を殴られ、学校がこわいと言うようになったそうです。
「さすがに我慢の限界です」というアカリさん。加害者の親を訴えることはできるのでしょうか。宮島繁成弁護士に聞きました。
●子どもが高校生でも、「親」が賠償責任を負うことも
ーー加害者のヤマトくんは小学1年生です。慰謝料や治療費を親に請求することはできるのでしょうか
「民法の不法行為(709条)が成立すれば、加害者は被害者に損害を賠償しなければなりません。ただし、加害者に責任能力があることが条件です。
責任能力とは、自分の行為が違法なものであって、法律上非難されるものであることを認識しうる能力を意味します。
本来、人によってばらつきがあるものですが、過去の裁判例や学説によると、小学校を卒業するころ(12歳程度)が境目とされています。このため、未成年であっても責任能力が認められることがあり、その場合は本人が賠償する責任を負います。
ヤマトくんは小学1年生なので、責任能力はなく、不法行為は成立しません。したがって、ヤマトくん本人には賠償義務はありません。
ただし、こういった場合、民法は親が監督者として賠償義務を負うよう定めています(民法714条)。そのため、ヤマトくんが責任を負わなくても、ヤマトくんの親が賠償義務を負うことになります。
賠償の対象には、治療費などの実費だけでなく、慰謝料も含まれています」
ーーヤマトくんは小学1年生ですが、加害者が高校生の場合はどうなるのでしょうか
「高校生であれば本人が責任を負うことになるが、お金がない。その一方、お金を持っている親は責任を負わない。そうすると、被害者は泣き寝入りになってしまいます。
最高裁は、親の監督上の不注意と損害の間に因果関係があるときは、親自身が不法行為をおこなったものとして、親が賠償する義務があるとしています。実際にこの考え方に沿って、親に賠償を命じた裁判例はたくさんあります」
●子どもの親に謝罪を強制させることはできない
ーー学校側に責任を問うことはできるのでしょうか
「教師がヤマトくんの暴力を煽った、見て見ぬふりをした、いじめを認識しつつ放置していたなどの特別な事情があれば別ですが、一般に学校が責任を負うことはありません。
ただ、学校の管理下で発生した事故・事件は学校や相手児童の責任の有無を問わず、災害共済給付(日本スポーツ振興センターが運営)から治療費などを受け取ることができます」
ーー子どもの親が謝罪しないことに対しても、怒りの声があがっているようです。内容証明を出すなどして、謝罪を要求することはできますか
「内容証明を送り、謝罪してくれるならいいのですが、謝罪は法的な行為ではありませんから、強制させることはできません。
そのため、謝罪しないと言われたらそれで終わりになってしまいます。いやいや謝ってもらっても、被害者としてはすっきりしないかもしれません」