受刑者に選挙権を認めないのは憲法違反だとして、刑務所に服役していた八木橋健太郎さん(40)が国を訴えた訴訟の上告審で、最高裁大法廷は10月14日、上告審弁論を開いた。
八木橋さんは15人の裁判官を前に、塀の中での生活を振り返りながら、受刑者たちが置かれた実情や心境をうったえた。
八木橋さんが大法廷で陳述した内容を全文紹介する。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●「受刑者は政治について考えています」
みなさんは、刑事施設の中がどういう場所かご存知でしょうか?
刑事施設、とりわけ刑務所の中でも、人は政治についての話をします。
選挙になると、
「この人に当選してほしい」 「この人には当選してほしくない」 「なんで俺たちは投票できないんだろう」
そんな会話が、受刑者同士でも日常的に交わされるのです。
私は、今回の服役において、4つの施設で生活をしました。
刑務所でも、新聞を読むことはできます。
テレビで政見放送を見ることも、ラジオから選挙の情報を得ることもできます。
しかし、その環境は、外とは大きく違います。
施設から提供される新聞は一紙だけで、お金のない人は新聞社を選ぶことはできません。
部数も非常に少なく、まったく読むことができない日があります。
また、共同室にはテレビが一台しかないため、政見放送を見られないこともあります。
生放送を一切放映しない施設もありました。
さらに、閉居罰という懲罰を受けている間は、新聞も読むことができず、テレビも見ることもできず、ラジオも聞くこともできません。
閉居罰は、最長で六十日間に及びます。
選挙期間と重なれば、選挙に関する情報をまったく得られないまま、選挙が終わってしまいます。
それでも、受刑者は政治について考えています。
●「それでも、自分たちは投票できない」
私と同じ工場で作業していた、再審請求を続けている方とは、よく法律について議論しました。
選挙期間には、政治についても話をしました。
その方は、「再審法を改正してほしい。再審法の改正に前向きな人を国会に送り込みたい」と話をしていました。
また、トランスジェンダーの方から相談を受けたこともあります。
その方は、男性刑務所で生活し、他の男性受刑者と一緒に入浴しなければならないことなどに、苦痛を感じていました。
そして、その方は「社会は変わりつつあるのに、なぜ刑務所は一切変わらないのだろう」と話していました。
さらに、無期の受刑者の方も、政治や選挙に強い関心を持っていました。
刑務所の中であっても、一人ひとりが政治に関心を持つ理由があるのです。
しかし、ひとたび受刑者となると、投票の案内は届きません。選挙公報も届きません。
不在者投票についての説明もありません。
「選挙があります」という通知すらありません。
選挙結果をリアルタイムで知ることのできない刑務所では、翌日に新聞が回ってくるのを楽しみにしていました。
選挙について話している。結果も気になる。応援したい人もいる。
それでも、自分たちは投票できない。それが、刑務所の中の現実です。
●「最初に浮かんだのは『なぜ?』という疑問でした」
私自身が、受刑者には選挙権がないことを知ったのは、本人訴訟のために「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」を勉強していたときでした。
その事実を知って、最初に浮かんだのは、「なぜ?」という純粋な疑問でした。
私は、刑事施設で不当な処遇を受け、本人訴訟で国を相手に裁判を起こしました。 そして、違法な処遇について勝訴判決を得ることができました。
しかし、裁判をすること自体が、大きな負担でした。書面はすべて手書きです。
判例を調べるには、必要な判例を手紙で外部の人に伝え、探して送ってもらわなければなりません。
その手紙や資料を手に入れるのにも、検査などの手続きを経るため、非常に時間がかかります。
職員の処遇について争う場合、その場にいた他の受刑者の証言が重要になることがあります。しかし、他の受刑者に手紙を送ることは認められません。
陳述書の作成や、証人としての協力をお願いすることすらできないのです。
書面以外の証拠は、自分の手に取って確認することさえできない場合がほとんどです。
公平な裁判を受ける権利が、事実上十分に保障されているとは言い難い。
私は、自らの裁判を通じて、その現実を経験しました。
●「私たちから権利を奪わないで」
そして、投票する権利すら奪われているということを知ったとき、「この国は、一度失敗したら終わりなんだな」と思ったのです。
では、なぜ私は投票したいか。
特別な理由があるわけではありません。
投票する権利があるから、その権利を使いたい。
税金を納めている以上、その税金をどう使ってほしいのか、自分の意思を示したい。
そして、変化を恐れない人を、自分の一票で応援したい。
ただ、それだけです。
受刑者として投票したいのではありません。
「私が、私として、投票したい」のです。
刑務所の中にも、政治について考える人がいます。
社会を変えてほしいと願う人がいます。
自分の一票で、誰かを応援したいと思う人がいます。
どうか、「受刑者」という一つの言葉だけで、私たちから権利を奪わないでいただきたい。
私たち一人ひとりと向き合ってください。
以上で陳述を終わります。