福井県の杉本達治前知事が、複数の女性職員に対して約20年にわたりセクシュアルハラスメントを繰り返していた問題で、県が設置した特別調査委員会は、知事による被害の実態を詳細に認定した。
調査報告書は、被害が長期化・拡大した背景として、組織トップ自身の自覚の欠如に加え、管理職が相談を受けながら人事部門に共有しなかった不適切な対応や、内部通報制度が機能していなかった実態、そして声を上げにくい組織風土を厳しく指摘している。
仮に、同様の問題が民間企業で起きていたとすれば、どの段階で、どのような対応が求められたのか。トップ自らが加害者となるハラスメントは、防ぐことはできるのか。再発防止のために組織として何が問われるのか。今井俊裕弁護士に聞いた。
●被害者から抗議を受けてもセクハラ再開
調査報告書によると、杉本氏は職務上の関係をきっかけに職員とLINEや私用メールを交換し「キスしちゃう」「エッチなことは好き?」「二人きりでさしつさされつで楽しもうね」など、性的関係を求める内容のメッセージを執拗に送信していた。
被害を訴えた職員を含む女性職員4人に対し、その数は約1000通にのぼるという。
さらに、飲食店や懇親の場で、太ももを触る、足を絡める、背後からスカートの中に手を入れて尻などを触るといった身体的接触を伴う被害も3件確認された。報告書は「不同意わいせつ罪に該当する可能性も否定できない」と指摘しており、被害の深刻さが浮き彫りになっている。
杉本前知事は、調査に対して「当時はセクハラに当たるとの認識はなかったが、今回調査を受けてよく考えてみたらセクハラであるとの認識に至った」と述べたという。
被害者はいずれも、知事という圧倒的な権限を持つ立場を前に、「拒否すれば仕事を失うのではないか」という恐怖から明確な拒絶ができず、深刻な精神的被害を受けていたと認定された。
被害者の抗議を受けて謝罪をしたこともあったが、その後に行為が再開されるケースもあり、被害は長期化していた。
●長期にわたるセクハラ、県職員の忖度なかったか
なぜ、これほど長期にわたるセクハラが表面化しなかったのか。今井弁護士は、杉本氏の経歴にも注目する。
「今回問題となっているのは、非常に長期間にわたり、複数の県職員に対しておこなわれていたセクハラ行為です。
杉本氏は辞任時には知事でしたが、報告書によると、セクハラ行為は総務部長の時代から始まっていたとされています。
杉本氏はいわゆる総務省のキャリア官僚で、福井県へ出向して総務部長、副知事を歴任し、その後知事になりました。
県職員からすれば、名実ともにトップの立場にあり続けた人物であり、大きな忖度や気遣いが働いたと考えられます。
その結果、セクハラを受けても長年問題として表面化せず、被害者が泣き寝入りを余儀なくされる──残念ながら、そうした現実は社会に存在します」
●組織内で適切に対処されない場合は「公益通報」
では、なぜ組織内で是正されなかったのか。調査報告書を踏まえて、今井弁護士はこう指摘する。
「被害者の職員は、上司や人事委員会事務局の担当部署に相談していたようですが、いずれも効果的な対応には至らなかったようです。
その後、被害者は県の公益通報制度を利用し、外部の窓口に通報しました。自治体の公益通報制度では、外部窓口を法律事務所の弁護士が担っているケースも多く、今回もその通報をきっかけに、県および第三者委員会による調査がおこなわれたと考えられます」
ハラスメントや違法行為が組織内で適切に処理されない場合、行政機関や報道機関などに通報する行為は「公益通報」とされ、公益通報者保護法によって保護される。
「公益通報者保護法は、制定当初から制度の不備や実効性を疑問視する声もありましたが、今回は効果的に機能した例といえるでしょう。
組織内のトップによるハラスメントは隠ぺいされやすい。組織内で適切に対応されない場合、外部窓口を利用することも正当な選択肢です」
●「民間企業でも同様の問題あり得る」
今回の問題は、自治体の首長と職員との関係で起きたものだったが、今井弁護士は「民間企業でも同様の問題は十分に起こり得る」と話す。
「上場企業であれば、この種の問題が報道されれば、株価に直結します。そうなれば、トップの辞任にとどまらず、他の役員の責任追及や、いわゆる株主代表訴訟に発展する可能性もあります」
そのうえで、次のように警鐘を鳴らす。
「今回、被害者から相談を受けた上司や人事委員会事務局の担当者レベルでは、強大な権限を持つ首長を前に、責任を果たすことが困難だった現実も露呈しました。
外部通報制度をさらに充実させることも重要ですが、本来は組織内部が十分に風通しのよいものであることが理想です。再発防止に向けて、組織として知恵を練る努力を期待したいです」