隣人からの騒音に悩まされ、心身ともに疲弊しているという相談が、弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者によると、隣家からは子どもが走り回る足音、物を落とすような音、さらには改造バイクのエンジン音や深夜のカラオケ、ホームパーティーの騒ぎ声など、多様な騒音が朝から晩まで聞こえてくるそうです。
自治会を通じて注意を促したものの、効果は一時的で、騒音は収まる気配がありません。
多くの人が直面する可能性のある騒音トラブルですが、法的に対処できるのでしょうか。また、仮に裁判になった場合、どのような証拠が必要になるでしょうか。
●騒音被害が「不法行為」となる境界線とは?
他人の騒音が法的な問題となるかどうかは、「受忍限度」を超えているかどうかが重要な判断基準となります。これは、社会生活を送るうえで、お互いに我慢すべき範囲を超えたかどうかという考え方です。
単に「音がうるさい」と感じるだけでは足りず、その騒音が社会通念上、我慢の限界を超えていると認められる必要があります。
●具体的には何が考慮される?
民法第709条は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は、その損害を賠償する責任を負うと定めています。
騒音問題の場合、この「法律上保護される利益」(静穏に暮らす利益)が侵害されたかどうかは、以下のような要素を総合的に考慮し、受忍限度を超えるかどうかで判断されます。
騒音の種類や程度、発生の頻度・時間帯:
日中や夜間、早朝など、騒音が発生する時間帯によって受忍限度は変わります。また、一時的なものか、継続的なものか、足音のような生活音か、楽器演奏やカラオケのような特殊な音かなども考慮されます。改造バイクのエンジン音など、迷惑防止条例や道路交通法に違反するような音は、より悪質だと判断される可能性があります。
被害の状況:
騒音によって不眠になったり、体調を崩したり、精神的な苦痛を被ったりしている場合、受忍限度を超えていると判断されやすくなります。
地域の状況:
住宅地か商業地か、マンションやアパートといった集合住宅かによっても、受忍限度の判断は異なります。一般的に、静穏な生活が期待される住宅地では、商業地よりも厳しく判断される傾向にあります。
●どんな「証拠」が必要?
騒音トラブルで法的な解決を目指す場合、客観的な証拠が重要です。
裁判では、単に「うるさい」と主張するだけでは不十分で、「どれくらいうるさいか」「どのような音が」「いつ、どれくらいの時間」発生しているかを具体的に示す必要があります。
具体的な証拠としては、以下のようなものが考えられます。
騒音測定の結果:
専門業者に依頼して騒音を測定してもらうのが正確です。費用はかかりますが、客観的な数値として提出できるため、裁判における証拠能力が高くなります。
自分で計測して記録する場合、自治体が、無償で騒音計の貸し出しを行っている場合もありますので、問い合わせてみるのも良いでしょう。
なお、貸し出しを行っている市町村では、「参考値です」「証明には使えません」などと言われることもあります。しかし、このような記載があるからといって直ちに裁判の証拠として使用できないわけではありません。
騒音の記録:
日記やノートに、騒音が発生した日時、音の種類、継続時間、体調への影響などを詳細に記録しておきます。これを継続的に記録することで、騒音の状況を具体的に示すことができます。
録音・録画:
ICレコーダーやスマートフォンの録音機能、ビデオカメラを使って騒音を記録しておくことも有効です。ただし、これらは絶対的な騒音レベルを示すものではないため、どのような音か、その騒音によってどのような状況になっているかを示す補助的な証拠として用いることができます。
●騒音被害にどう対応すべきか
騒音問題は、生活音が原因となっていることがほとんどであることから、音をなくすという根本的な解決がしにくい難問です。
「騒音問題の一番の解決法は、騒音を出している家族と仲良くなること」と言われています。
たとえば子どもの騒ぐ音がする場合、それが知り合いの●●ちゃんでいつも仲良くしている場合、不思議と許せたりするものですが、あまり仲良くない家庭の子どもの場合には、相談者の家に配慮していないということへの怒りも相まって非常に不快に感じたりします。
そうはいっても、うるさいものはうるさい、と思う方も多いでしょう。法的な対応を検討する場合、いきなり訴訟に踏み切るのではなく、段階的な対応を考えることが一般的です。
証拠収集:
まずは、騒音の状況を日記などに詳細に記録することから始めましょう。可能であれば、ICレコーダーや騒音計を使って騒音を記録します。
管理会社や大家への相談:
分譲マンションであれば管理組合、賃貸であれば管理会社や大家に相談し、騒音問題への対応を依頼します。
内容証明郵便:
それでも改善が見られない場合、弁護士に依頼して内容証明郵便を送付し、法的な措置を検討していることを示すことで、相手の態度が変わる可能性もあります。
調停や訴訟:
話し合いや書面での交渉でも解決しない場合、裁判所での調停や訴訟を検討します。調停は比較的簡易な手続きで、専門家を交えて話し合いで解決を図る方法です。訴訟に踏み切る場合は、損害賠償請求や差止請求を求めることになります。
騒音問題は、当事者間での感情的な対立に発展しやすく、解決が難しいケースも少なくありません。
法的な対応を検討する際は、客観的な証拠をしっかり集め、冷静に臨むことが重要です。