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「涙が出て、言葉が出なかった」 がんの妻支えるパキスタン男性に「在留特別許可」与えられる
サディクさん(2024年4月23日/弁護士ドットコム撮影)

「涙が出て、言葉が出なかった」 がんの妻支えるパキスタン男性に「在留特別許可」与えられる

35年以上前に来日して、在留特別許可などを求める裁判を起こしていたパキスタン人男性、モハメド・サディクさん(60歳・神奈川県厚木市)に対して、東京出入国在留管理局・横浜支局は4月22日、在留特別許可を与えた。サディクさんと代理人が翌23日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いて明らかにした。サディクさんは現在、がんを患う妻を支えながら暮らしている。

●17年前に「退去強制令書」が出されていた

訴状などによると、サディクさんは1988年11月、観光ビザで入国した。学生時代、母国・パキスタンで政治活動に参加し、悪化する情勢の中で「命の危険」を感じたからという。観光ビザが切れたあとは、建設会社などで在留資格のないまま働いていた。

2007年7月、中国人の永住者女性と結婚に向けて準備をしていたところ、出入国管理法違反(不法在留)の疑いで逮捕されて、入管施設に収容された。2007年9月に婚姻届を提出したが、サディクさんに同年11月、退去強制令書が出された。

2009年1月に仮放免となり、サディクさんは妻と暮らし始めた。妻は妊娠したが、サディクさんが2010年4月に再収容されたショックで流産したという。直後、サディクさんは仮放免(一時的に身柄が解かれる)となり、その状態が現在までつづいている。

妻は2014年、乳がんが見つかって摘出手術を受けた。再発のリスクを抱える中で、サディクさんが献身的に妻をサポートしているという。

●裁判所から「事実上の和解勧告」があった

サディクさんはこれまで、退去強制が確定した人が再び審査を求める「再審情願」と呼ばれる手続きを8回申し立てたほか、在留特別許可をもとめる裁判を3回も起こしている。

代理人の指宿昭一弁護士によると、2023年1月に東京地裁で起こした3回目の裁判審理で、裁判所から同年12月「被告は在留許可を付与できないか検討できませんか」と"事実上の和解勧告"があり、被告の国側が「(2024年)2月29日までに(検討する)」と回答していた。

その後、2月29日を過ぎても、被告の国から連絡はなかったが、サディクさんが4月22日、仮放免の手続きのために東京入管・横浜支局に出頭したところ、在留特別許可が付与されることになったという。

サディクさんは「涙が出て、言葉がでなかった。(在留特別許可のカードは)命より大事。うれしいとか、わからない感じになった。(ビザが出るとは)思っていなかった」と振り返った。

4月23日に東京地裁で期日が開かれたが、指宿弁護士によると、在留特別許可を得るという目的を達成したため、今後、訴訟を取り下げることになる。

●「とっくに在留特別許可が付与されてしかるべきだった」

法務省の在留特別許可のガイドラインでは、日本人または永住者と婚姻関係が成立していて、夫婦として相当期間の共同生活を送っていて、相互に協力して扶助し、夫婦の間に子どもがいるなど、婚姻が安定かつ成熟している場合は、「積極的要素」として考慮されることになっている。指宿弁護士は次のように述べた。

「とっくに在留特別許可が付与されてしかるべき事案だったと思います。退去強制令書が出てから、なぜか17年間も、訴訟3回、再審情願8回を経なければ付与されないのは大変残念なことです。ただ、遅ればせながら、こういう形で在留特別許可が出たことは評価はできることで、同じような状況にある、つまり、ガイドラインにしたがって在留特別許可を付与すべき人に対して、(入管は)すみやかに在留特別許可を付与していただきたい。

今回、入管がみずからやったわけではなく、裁判所の"事実上の和解勧告"によってされました。裁判所全体、あるいは東京地裁行政部が、今までよりも、外国人の在留資格に関する裁判で、人権・人道に配慮した判断をするようになってきているのではないかと感じています。その流れの一つとして、本件についてもとらえていきたいと思います」

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