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「なんでこんな目に遭うのか」 美大にも出没するギャラリーストーカー対策、現役学生や美術家が議論
津田さん、猪谷記者、松野さん、小田原さん(時計回りに)

「なんでこんな目に遭うのか」 美大にも出没するギャラリーストーカー対策、現役学生や美術家が議論

画廊や展示施設で、作家につきまとう「ギャラリーストーカー」。長時間にわたり接客させたり、連絡先などプライベートを聞き出そうとする人たちのことで、多くの"被害"が若い女性に集中しています。

美術大学や芸術大学も例外ではありません。学内でおこなわれる学園祭や卒業制作展などにもギャラリーストーカーが出没し、学生にとっては大変な負担となっています。一方で、今年は、学生たちが声を上げて対策を求めたり、大学が被害防止に乗り出すなど、ギャラリーストーカー問題に注目が集まりました。

ジャーナリスト・津田大介さんが主宰するネット番組ポリタスTVは12月12日、「問われる美術大学|ギャラリーストーカー問題|画廊などで女性作家に付きまとう『ギャラリーストーカー』。美大に対処を求める学生に対して美大の対応はまちまち。根深いこの問題の現状を探る」を配信しました。

番組では、武蔵野美術大のギャラリーストーカー対策委員会代表、松野有莉さん、彫刻家で美大で講師もつとめる小田原のどかさん、『ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害』(中央公論新社)の筆者で弁護士ドットコムニュースの猪谷千香記者が、それぞれの立場から、問題点や解決への取り組みを語りました。

●ギャラリーストーカーとは何か?

番組では、ギャラリーストーカーによってどのような被害があるのか、猪谷記者が次のように解説しました。

「画廊に居座って作家を長時間拘束し接客を求めたり、ひどいケースでは、作品を買った事を理由に性的関係を求めたりします。最近では、SNSで作家にDMで長文を送りつけてくるなど、その被害は展示空間の内外を問わず多岐に渡るため、作家への精神的・物理的負担が大きくなっています」

被害に遭った作家は、創作活動ができなくなってしまう場合もあります。ギャラリーストーカー自体は昔から存在していた問題でしたが、特に近年SNSで作家から声が上がっていることで問題として顕在化しているといいます。

●背景にある美大教員のジェンダーバランス

小田原さんも20歳ごろにギャラリーストーカーの被害に遭いました。

「そのときは、来場者との会話で、なぜか性的な話や個人的な話ばかりされました。会話中や会話後には誰に、どのように相談すればよいかがわからず、『なぜこんな目に遭うのか』という思いでした」と振り返りました。

この背景には、「美術業界のジェンダーバランスの偏り」と「表現の現場に特有な『評価する』『評価される』関係性の硬直」があると小田原さんは指摘します。美術業界における著名な美術家や学芸員、批評家の多くが男性によって占められ、若手作家や美大生は女性が多いという構造です。

また、猪谷記者も、美大の教員の多くが現在も美術業界の一線で活躍している作家や学芸員、批評家が多いと述べ、「女子学生が被害を訴えても軽視されているのではないか」と指摘しました。

●大学でおこなわれている取り組みとは

こうしたギャラリーストーカー問題に対して、武蔵美で今年10月に開催された「芸術祭」では、松野さんたち学生が主導して注意喚起などの対策をおこない、SNSでは話題を呼びました。

松野さんによると、武蔵美では何年も前から、学内で開催される展示でギャラリーストーカーの被害が深刻になっていたそうです。

ただし、松野さんたち学生と大学側との協議の中で、「不審者を不審者と決めつける権利が誰にもない」「ギャラリーストーカーと断定する基準が非常に難しい」という意見があったことや、学生の安全を考慮したことから、SNSなどを通じた注意喚起に留めたそうです。

小田原さんの調査によると、大学が率先して対策をネット上で発信している例は少なく、「(大学には)学生の制作環境と発表環境を守る事を優先してほしい」と話しました。

●解決するためにはどうしたらよいのか

鼎談の中で、こうした問題は学生だけで対応しようとするとどうしても視野が狭くなってしまい、助けを求めづらいことも話題にあがりました。学生だけでなくギャラリー・画廊などの施設側や、学生の制作環境を守る大学側と連携して対策を講じることの重要さが指摘されました。

最後に、出演者のコメントを一部紹介します。

松野さん「これから美大は卒展シーズンになり、不審者が現れる確率も格段に上がると思います。この卒展でいかに対策できるかが、今後の大学を動かしていく鍵になると考えて、現在活動中です。盗撮、つきまとい、個人情報を聞いてくるといった被害を受けている学生の声を大学に届けていきたいです」

小田原さん「今日の番組はギャラリーストーカー対策をやっている学生さんを応援したいという気持ちでした。この番組を見て、今まで声を上げられなかったけれど、変だと思っていた学生さんにも、ぜひ届いてほしい。筆を折ってしまおうと思っていたり、社会や大学、大人に対して不信感を抱いていたりする学生さんも多いと思いますが、松野さんたちが頑張って大学とともに現状を変えようとしていて、実際に少しずつ変わっていることを伝えたいです」

猪谷記者「まず、松野さんらが声を上げていることがすごいと思っています。自分の将来を左右するかもしれない大学側に自分の意見を述べることがどれだけ勇気のいることか。しかし、美術業界は歴史も古く、その構造も変わってきませんでした。メディアの役割は、外から忖度なく美術業界の問題を指摘していくことだと思います。それが松野さんら若い人たちへの応援にもなるのではないかと思っています」

【出演者略歴】

津田大介さん(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト/ポリタス編集長/ポリタスTVキャスター) 早稲田大学社会科学部卒。メディアとジャーナリズム、テクノロジーと社会、表現の自由とネット上の人権侵害、地域課題解決と行政の文化事業、著作権とコンテンツビジネスなどを専門分野として執筆・取材活動を行う。

小田原のどかさん(彫刻家、評論家、出版社代表) 多摩美術大学彫刻学科諸材料専攻卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻にて修士号、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士号を取得。芸術学博士。多摩美術大学、京都市立芸術大学、北海道教育大学などで非常勤講師も務める。

松野有莉さん(武蔵野美術大学ギャラリーストーカー対策委員会代表) 武蔵野美術大学油絵学科油絵専攻在籍。ホルベイン第1回ゴールデン学生サポーター。近年の展覧会に「Take a walk」(PATH ARTS) 、「Raising Piggy with ketchup」(Room_412)など。

猪谷千香記者(弁護士ドットコムニュース編集部記者)著書に「ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害」「小さなまちの奇跡の図書館」「つながる図書館」「町の未来をこの手でつくる」「その情報はどこから?」「日々、きものに割烹着」、共著に「ナウシカの飛行具、作ってみた」など。

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