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裁判官を「無能」呼ばわりした弁護人、石投げた被告人…昭和の「制裁裁判」を振り返る
画像はイメージ(Graphs / PIXTA)

裁判官を「無能」呼ばわりした弁護人、石投げた被告人…昭和の「制裁裁判」を振り返る

大阪地裁で5月、弁護人に対する異例の「制裁裁判」があった。対象となったのは、法廷録音をしようとした中道一政弁護士。過料3万円を言い渡され、最高裁に特別抗告中だ。

制裁裁判は「法廷等の秩序維持に関する法律」(以下「法廷秩序維持法」)に基づいておこなわれる。過去には、監置20日間となった弁護士もいる。これまで、どんな人が対象になってきたのか。1960年から70年代の資料を中心に、歴史を振り返る。

●東京拘置所に送られ「監置20日」となった弁護人も…

法廷秩序維持法は「裁判の威信を保持すること」を目的として、1952年に成立・施行された。裁判の威信を著しくきずつけた制裁としては、20日以下の「監置」、3万円以下の「過料」が規定され、併科することもできる。

『自由と正義』(13巻9号)によると、法施行から10年の間に40人が制裁を受け、うち3人が弁護士だという。2人は過料3万円、もう1人は監置20日を言い渡されている。

監置20日となった弁護士は「裁判官を無能呼ばわり」したとして、1960年8月8日に制裁が決定した。安保闘争の渦中に来日した大統領新聞係秘書がデモ隊に包囲された「ハガチー事件」の弁護人のひとりで、裁判官に対して「不公平な裁判をするおそれがある」と忌避(事件への関与を排除すること)を申し立てていた。

「偏見を持っているほか、裁判官として能力がない」などと発言すると「暴言」と認定された。午前11時から午後5時まで東京地方裁判所の地下室に身柄を拘束され、監置の決定後は東京拘置所に送られたという。

過料3万円となった1人もハガチー事件の弁護人だ。裁判官の訴訟指揮にしたがわず、発言を禁止された後も「もう少しきいてください」と続けようとして拘束された。同じ年の7月11日に制裁を受けている。

複数回制裁を受けた弁護士もいる。東京大学安田講堂事件の主任弁護人だ。裁判長が制止しているにもかかわらず発言をしたなどとして、1969年6月と7月に3万円の過料、10月に5日、11月に3日の監置を言い渡されている。

1982年には、東京都公安条例違反をめぐる事件の主任弁護人が実況見分調書の謄写を認めない裁判長を批判したなどとして、3万円の過料を受けた。同弁護士は、主任弁護人を務めた自民党本部放火事件でも、被告人の両側にいる看守を少し離すよう求めた際、認めなかった裁判長に暴言があったとして、1985年に7日の監置を言い渡された。

●「資本家の犬」発言者を間違えて監置

法施行後の10年間をみると、弁護士以外では、裁判官の制止を無視して裁判官席から被告人の写真を撮影した記者、検察官や裁判官に椅子や机、石を投げた被告人、「不当だぞ」などと大声を出した傍聴人などがそれぞれ、過料1000〜1万円、監置5〜20日を言い渡されている。

しかし、裁判官が「正しい」とは限らない。1979年2月には東京地裁で、発言した傍聴人とは違う人を監置する事件も起きた。

当時の報道や資料などによると、その日は閉廷後、傍聴席から「不当だ」「ひどい判決だ」という非難の声に続いて「資本家の犬じゃないか」との声があがった。

裁判官が「今発言したのは誰だ」と叫んで拘束を命じると、発言者の隣にいた傍聴人が警備員に腕をつかまれた。発言者が別の人であることは、その場にいた弁護人や傍聴人、新聞記者など多くの人が目撃しており、発言者自身も自分が言ったと大声で叫んだ。

ところが、弁護人から面会を申し入れても裁判官は聞く耳を持たず、「監置7日」を言い渡した。傍聴人は制裁が不当であるとして、抗告と特別抗告を申し立てたが、いずれも「人違いは不服申立ての理由にならない」などとして、棄却されている。

中道弁護士も特別抗告している。人違いでなくても、過去には特別抗告が認められず、国家賠償請求の裁判に進んだ事案もある。令和における裁判所の判断が注目される。

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