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2021年04月10日 09時22分

『さよなら朝日』広告掲載を断念した柏書房は、なぜツイッターで朝日新聞に怒ったのか?

若柳拓志 若柳拓志
『さよなら朝日』広告掲載を断念した柏書房は、なぜツイッターで朝日新聞に怒ったのか?
『さよなら朝日』の著作権は朝日新聞社にあるのだが…( Mugimaki / PIXTA)

現役の朝日新聞記者・石川智也さんが書いた『さよなら朝日』の広告掲載をめぐり、版元の柏書房(東京都文京区)が、朝日新聞への広告掲載を断念したと語ったツイートが波紋を呼んでいる。

同社は3月31日、本の広告を朝日新聞に掲載しようとしたところ、通常の3.3倍という高い出稿料を提示され、取り下げざるを得なかったことをツイッターで投稿していた。

極めて異例ともいえる投稿だが、その真意はどこにあったのか。柏書房取締役の菊池明郎さんは、「提示された料金は、事実上の掲載拒否。(ツイートは)『金銭的ないじめ』に対する、こちらの覚悟を形にしたもの」だという。

朝日新聞側も書籍のタイトルに了承した上で出版契約をかわしていたにもかかわらず、今回の事態となったことについて、担当編集者の天野潤平さんは「まったく筋が通っていない。非常に不可解」と話す。

いったい、どのような経緯でこのようなことになったのだろうか。そして、どんな思いであのツイートをしたのだろうか。菊池さんと天野さんに話を聞いた。(編集部・若柳拓志)

●「さよなら朝日」が出版されるまでの経緯

そもそも、『さよなら朝日』はなぜ柏書房から出版されたのか。

天野さんによれば、2020年7月に刊行した書籍に関する取材で石川さんと知り合い、それをきっかけに『論座』(朝日新聞社の言論サイト)で石川さんが執筆してきた記事や論考を読み、まとめて書籍化することを提案したという。

リベラリズムの立場からリベラル勢力の弱点を検証するという方向性のもと、その内容にふさわしい記事を二人でピックアップし、加筆内容を話し合った。

『さよなら朝日』というタイトルには、SNS上の「#さよなら朝日新聞」というハッシュタグで飛び交う反朝日的な言論を逆手にとる意味や、黄昏(Sunset)と朝日(Sunrise)を掛け合わたうえでの反語表現としての「さよなら」など、様々な含意を込めた。昨年話題になった東海テレビのドキュメンタリー『さよならテレビ』へのオマージュの意味もあるという。

複数の案を出し、二人で話し合ったが、天野さんは「朝日新聞の記者が内部に軸足を置きつつ、朝日を含めたリベラルの言論を自己批評するというこの本の狙いを最も表したタイトル。ジャーナリスティックでクリティカルでもあり、多くの人に手にとってもらえるだろう」と、今回のタイトルを第一候補として提案。柏書房内部でもこのタイトルを推す声が多く、石川さんも最終的に同意した。

書籍化にあたっては、朝日新聞の社内規定として、現役の社員が、子会社の朝日新聞出版も含めて他社から本を出版する場合にはあらかじめ申請が必要であり、多くの場合は「職務としての出版」となるという。そのため石川さんも柏書房で企画が通った後の2020年10月、朝日新聞に申請書を出して認められている。

申請時には、天野さんも朝日新聞社の知財室とやりとりしたという。

「『今回の執筆は弊社の職務活動となりますので、出版契約は弊社が当事者となり、著作権も会社の帰属となります。今後も、執筆や編集の内容は石川と直接やりとりをしていただいて構いません』ということになり、(朝日側から)企画書の提出などは求められませんでした。

知財室はあくまで印税率等、出版契約の条件の協議の窓口であり、奥付の著作権表示のみゲラの段階で確認させて欲しい、とのことでした。これまでも色々な本を作ってきましたが、場合によっては企画書の提出が求められることもあるので、社員の言論活動に対してずいぶん寛容なのだな、と感心しました。

では、石川さんと一緒に内容をしっかり詰めていこうとなり、著者とはもちろんのこと、社内でも相談をしながら、最終的には今回のタイトルで進めることになりました」(天野さん)

校了間際の2021年2月16日には、奥付のクレジット確認をしたタイミングで、知財室から「ゲラの提供のお願い」の連絡がきた。この時点では、知財室は本の内容は確認していなかったという。

「本の内容については石川さんと弊社に任せるという話でしたが、契約当事者はあくまで朝日新聞社なので、提供に応じ、本の内容を確認してもらうことにしました。その際も、知財室の担当者から『御社の進め方には何の問題もなく、この段階でこのようなお願いをすることは、大変申し訳なく思います』と言われました。

その後、2月18日には『おかげさまで、社内のコンセンサスを得ることができました。タイトル・内容を含め、このまま変更することなく、進めていただければと思います』との連絡があり、3月3日には朝日新聞社が用意した契約書に署名した上で返送し、『さよなら朝日』のタイトルで正式に出版契約を結びました」(天野さん)

●宣伝・普及に協力する契約も、示された広告額は「通常の3.3倍」

画像タイトル 柏書房取締役の菊池明郎さん(2021年4月、東京都内、弁護士ドットコムニュース撮影)

正式な契約を結んだ柏書房は、「さよなら朝日」の広告を新聞各紙に掲載しようと動いた。

柏書房取締役の菊池さんは、「朝日新聞の読者ならこの本の読者になりうると思ったので、広告を出させてもらおうと考えていた」と話した上で、広告の掲載は出版契約の内容に沿ったものでもあることを強調する。

「出版契約書に、『朝日新聞社はできるだけ、(「さよなら朝日」の)宣伝および普及に協力する』と書かれていましたので、問題なく掲載できるものだと思っていました」(菊池さん)

ところが、3月24日の発売日がせまる3月16日、広告を担当する朝日新聞メディアビジネス局から驚きの回答がきた。

「『掲載は可能ですが、朝日新聞にかかわる本であり、朝日としても社内外において掲載リスクが高い案件のため、通常料金の3.3倍となります』と代理店を通じて言われ、『えっ?』となりました。

3月19日と同23日、2度にわたりメディアビジネス局の担当者に来てもらって話し合いました。本のタイトルだけで料金を3.3倍にすると判断したのかと聞いてみたら、『はい』との返答でした。

それはあんまりな対応だろうと思い、『本の内容を理解してほしい。契約書の内容も理解してほしい。通常料金で掲載できるよう考え直してほしい』とこちらも説明を尽くしましたが、結局、朝日側の回答が変わることはありませんでした。

小さな出版社にとって、通常料金の3.3倍というのは『事実上の掲載拒否』。あなたがたが態度を変えないなら、『こちらにも考えがある、覚悟してくれ』と話し合いの最後に伝えました」(菊池さん)

柏書房と朝日新聞社で締結した出版契約書に「宣伝および普及の協力」条項があるにもかかわらず、朝日側が協力どころか高額の広告掲載料金を提示してきたことに、戸惑いと疑問しかないようだ。

●「掲載リスク」はお金で解消できるのか?

柏書房側が「一番よくわからない」と口をそろえるのが、朝日側の主張する「掲載リスク」だ。

菊池さんによると、朝日側は掲載リスクについて、「(『さよなら朝日』のような)タイトルだと、読者からの電話での問い合わせが多くなって、その対応に追われるということが過去にあった」と説明したという。

「『掲載拒否していません』と言いたいがために、掲載料金を引き上げて掲載を諦めさせようとしたのではないかと感じました。金銭的ないじめで、悪質で陰湿な手口です」(菊池さん)

担当編集者の天野さんも「掲載リスクがあるというなら、ただただ広告掲載を拒否すればよかったはず」と朝日側の対応を厳しく批判する。

「リスクがあるから掲載しないということなら、まだその意味自体はわかります。ところが、3.3倍の料金を提示してきたため、『お金の問題』になってしまった。

朝日側のいう掲載リスクというのは、3.3倍の料金と通常料金との『差額』で解消できるものなのでしょうか。リスクがあろうが、お金次第で何でも掲載するのかとも思ってしまいます。

私たちが3.3倍の料金を支払ってでも掲載したいと伝えていたらどうなっていたのでしょうか。リスクはどうなるのでしょうか。まったく筋が通っていない。非常に不可解です」(天野さん)

●朝日は社として「さよなら朝日」でOKしたはずだ

柏書房は、3.3倍の料金に同意できず、朝日新聞への広告掲載を見送ることにした。その金額なら、他紙の同じくらいのスペースに3回以上広告を出せると考えれば、「それでも支払う」という選択はなかった。

朝日への掲載を断念した後、書籍の発売日直後のタイミングで広告を掲載できるところを急遽探し、3月30日に「毎日新聞」、同31日に「日本経済新聞」に広告を掲載した。

「ただし、『おめおめと引き下がるわけにはいかないよね』という判断にはなりました。

社長や他の役員などとも相談し、この先、柏書房が何らかの形で今回の件を世に知らしめたら、朝日からいじめられるかもしれない、今後も高い広告料金を提示されるかもしれない、それでもいいのか、という話もしましたが、それも『覚悟しよう』と。

こんな理不尽なことが起こって、朝日新聞にとっては単に一つの広告枠の話ということにすぎないのかもしれないけど、『値段ふっかけたら断ってきた、それでいいんだ』なんて思われてはたまりません。

他の中小規模の出版社などが、今回の件をどう見るのか。また、言論機関を代表する大手新聞社として、一番やってはいけないことをやったという事実を多くの人に知ってもらいたいと思っています」(菊池さん)

多くの人に知ってもらうためにとった手段が、3月31日のツイッターでの投稿だ。菊池さんは「今回のことを闇から闇へ葬られたくない」と言葉に力を込める。

「内容を読んでいただければわかりますが、『さよなら朝日』は、現役の朝日新聞記者の体験を通して、リベラル派の問題点について『論座』で掲載されてきたものを単行本化したものです。

朝日新聞批判というよりも、新聞・テレビ・雑誌など広く報道に携わる人たちの事例を通して、日本のメディアが陥っている問題点・限界を考え直してみようという狙いの書籍なんです。

たしかにいささか刺激的なタイトルではありますが、知財室含め、朝日新聞社の編集部門の方々が中身をしっかりと検討したうえで『いいんじゃない、出しましょう』と判断した書籍なのですから、メディアビジネス局もそこに立ち返って、読んで評価してほしいです。

『メディアビジネス局が独自に判断したこと』だなんて言い訳は通りません。メディアビジネス局も知財室も編集部門も、朝日新聞社という会社として一体のはずなんですから。

自社の言論について、どの部門の社員であれ、朝日新聞の基本方針を理解していないといけないと思います。社外の出版社とやりとりするなら、なおさら自分たちの言論に神経細やかにやっていかなければならないはずです」(菊池さん)

●「自社の未来に思いを馳せ、覚悟を持って書いた著者に謝ってほしい」

柏書房として朝日の対応を広く知ってもらおうとツイートしたことについて、天野さんは、担当編集者として、著者である石川さんへの思いを吐露する。

「朝日の対応をめぐる問題で、結果として『さよなら朝日』の存在が広く知られることとなったとしても、正直いって不本意です。

今回の本が内容以外の要素を通した色眼鏡でみられることになれば、正当に評価されなくなってしまう可能性があります。それはきっと、著者にとっても良いこととは思えません。

石川さんは朝日新聞社の現役記者です。その記者が自社の未来に思いを馳せ、覚悟を持って書いた一冊です。朝日新聞がこのような対応をするというのは、担当編集としては許しがたい。石川さんに謝ってほしいという気持ちでいます」(天野さん)

また、「朝日に対する批判的な内容の書籍には料金でふっかけてくる」可能性があるということ自体が、出版社の編集者などに対するプレッシャーになるのではないかと危惧している。

「言論活動を抑圧するようなことを、言論機関である朝日新聞社がやったというのは、極めて重いことだと思います。メディアビジネス局はそのことを自覚するべきだし、朝日新聞社としても真摯な対応をしてほしいです」(天野さん)

●「朝日に限らず起こり得る」出版業界に関わる問題

柏書房は、今回の件を広く知ってもらうことに主眼を置いているため、今のところ法的措置などについて検討してはいないという。

「色々なところで議論してもらい、そのうえで、『皆さんどうするんですか』と伺ってみたいです。

この類の問題は、大手新聞社に限らず起こり得ます。ここまで乱暴な話はこれまでなかったのかもしれませんが、一方で今まで明るみに出なかっただけかもしれません。このまま朝日の対応を見過ごしてはいけません」(菊池さん)

今回のように広告掲載料金を値上げするというケースは、柏書房も経験がないという。非常に不可解な理由で値上げしたことにもまったく納得していない。

「ツイートしたことで、柏書房のツイッターアカウントに、他の版元から『(朝日に)出稿希望をした際に、通常料金よりも(かなり)高い出稿料と提示されたことがある。そのときの理由も「掲載リスクが高い」だったと記憶しています』という話も届いています。

どういう考えで今回のようなことしたのか、朝日新聞社としての広告掲載に関するポリシーをはっきりさせてほしいです」(天野さん)

とはいえ、柏書房として、朝日新聞社とのやり取りを諦めているわけでもないようだ。

「当面は朝日と冷戦状態になってもやむを得ない、と判断しています。一線越えたことやられたなという思いが強く、こちらも言論機関として、簡単に引き下がるつもりはありませんが、朝日側の出方も見ながら、きっちりと対応していこうというところです」(菊池さん)

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