逮捕も抹殺も自由! 機動刑事ジバンの「対バイオロン法」に弁護士挑む 放送30年、出演者明かす秘話
所さんとジバンの格好をしたコスプレイヤー(ブラジルのイベントで、所宏吏さん提供)

逮捕も抹殺も自由! 機動刑事ジバンの「対バイオロン法」に弁護士挑む 放送30年、出演者明かす秘話

特撮番組「機動刑事ジバン」を君は覚えているだろうか。そして、ジバンの世界で施行されていたトンデモ法「対バイオロン法」のことを……‼︎

「第9条 機動刑事ジバンは、あらゆる生命体の平和を破壊する者を、自らの判断で抹殺できる」

1989年1月29日から放送32年がたってもなお、ネット上では条文の「ヤバさ」がときおり話題になる。記念すべき放映日のタイミングで、弁護士が対バイオロン法に切り込む。そして、ジバンを演じた元俳優も当時の秘話をぞんぶんに語った(編集部・塚田賢慎)。

●ジバンとは?

テレビ朝日系で放送されていた東映制作の「メタルヒーローシリーズ」の1作品。1989年から放送され、日曜朝のチビっ子たちのハートをがっちり掴んだ。

「宇宙刑事ギャバン」(1982年)から始まったメタルヒーローのなかでも、“圧倒的ロボ感”を誇るのがジバンだ。関節の動き、足音にあわせて、「ウイーン」「ガヒュン」と鳴るところが格好良い。

ジバンとは、警視庁秘密捜査官(階級は警視正)として活動するサイボーグだ。人類の敵たる悪の組織「バイオロン」の送り込む怪人(バイオノイド)と戦う。簡単に言えば、悪役を倒す正義の味方である。

ジバンのヘッド(右)と誕生日のケーキ ジバンのヘッド(右)と誕生日のケーキ

●対バイオロン法を読み上げてから、やっつける(=殺す)

ジバンが敵と対峙するとき、腹に格納されている警察手帳を取り出し、「対バイオロン法」を読み上げる。

「第1条 機動刑事ジバンは、いかなる場合でも、令状なしに犯人を逮捕することができる」

「第2条 機動刑事ジバンは相手がバイオロンと認めた場合、自らの判断で犯人を処罰することができる

補足 場合によっては抹殺することも許される」

基本的には多くの放送回で、この1条と2条を告知することが多いが、場合によって、以下の条文も放送の中で扱われた。

第3条 機動刑事ジバンは人間の生命を最優先とし、これを顧みない、あらゆる命令を排除することができる

第5条 人間の信じる心を利用し、悪のために操るバイオロンと認めた場合、自らの判断で処罰することができる

第6条 子どもの夢を奪い、その心を傷つけた罪は特に重い

第9条 機動刑事ジバンはあらゆる生命体の平和を破壊する者を、自らの判断で抹殺できる

●抹殺ってやばいわ

子どものころは、対バイオロン法を突きつけるジバンの姿に、「抹殺! 格好いい!」と喜んでいたものだが、大人になって冷静になると、トンデモない法律である気もする。

どこがおかしいのか、法律のプロであり、特撮のファンでもある安井飛鳥弁護士に解説願おう。なお、「機動刑事ジバン」の舞台は、日本とする(日本国憲法下にある)。

●弁護士「憲法違反です」

ーー1条ですが、ジバンが、いかなる場合でも逮捕令状なしに、犯人(被疑者)を逮捕できることには、どのような不都合が考えられるでしょうか

憲法33条では「現行犯逮捕を除いて裁判所の発する令状によらないで逮捕されない」とされているため憲法違反の疑いがあります。

もっとも、ジバンはいつもバイオロンを抹殺しており逮捕すらしていないためこの規定が直接問題になることはないのかもしれません。

ーー2条(5条)について、ジバンは、自身の判断で、バイオロンだと認めた相手を、処罰あるいは抹殺できます。どのような問題がありますか

まず「バイオロン」とは何かということが重要なのですが、その定義がどこにも書かれていません。これではジバンが「バイオロン」とみなせば誰でも処罰対象とされる恐れがあります。

また、5条で「バイオロン(人間の心を操るタイプのバイオロン)」という定義規定があるのですが、バイオロンの定義の中でバイオロンという単語が繰り返し使われてしまっていて結局よくわかりません。そもそもこの条文自体が2条の内容と重複していて意味のない規定のようにも思えます。立法担当者は何を考えていたのでしょうか…。

ーー3条の条文が作られたことにより、ジバンにどのような影響がうまれるでしょうか

ジバンの目的が人命尊重であることを示す大事な規定なのでしょうが、こうした目的規定は通常であれば、1条に規定するものです。この順序だとジバンの目的は人命尊重よりも犯人逮捕に重きを置いているようにもみえてしまって、本当に人命尊重が優先されるのか疑念も生じますね。

ーーさて、6条は、なんなのでしょうか

一般的な条文の体裁すらないため、法的に意味ある規定とはいえません。子どもの夢を守ろうとする立法担当者の溢れる想いは伺えるのですが。

ーー9条は特に悪質な相手を前にした場合、適用されることが多いものです。どんな問題があるでしょうか

これも「平和を破壊する」という内容が極めて曖昧であり、かつその判断がすべてジバンに委ねられてしまっているのが問題です。この条文を根拠にジバンの判断次第でバイオロンに限らず誰でも抹殺できてしまうという非常に恐ろしい内容の条文です。

●ジバンが暴走したときには、誰も止められない恐怖の法律

ーー最後に、対バイオロン法が適用された世界では、どのようなことが起きてしまうと考えられますか

対バイオロン法とは、一言でいえば「ジバンが自分の判断でなんでもできてしまう法律」です。裁判所の判断や不服申立の機会すらなくジバンの判断だけで誰でも抹殺することができるというのは、憲法の保障する基本的人権や刑事裁判の様々な手続原則を無視したものであります。憲法違反の指摘は避けられないでしょう。

もしかしたらジバンに対してはそれだけ国民から絶対的信頼が寄せられているという前提があるのかもしれません。ですが、もしジバンが判断を誤ったり、あるいは暴走した場合に、誰もジバンの行動を止めることができなくなってしまう恐れがあります。

あるいはジバンの機嫌を損なわないように皆がジバンに従うそんなディストピアになっていくのかもしれません。もしかしたら、こうして子どもの夢を傷つけるようなツッコミを入れている私自身が抹殺対象になるのかも…おや物音が…「ウイーン」「ガヒュン」

この回答を最後に、安井弁護士とは連絡が取れなくなってしまった。ここから先は、「ジバン本人」にご登場いただこう。

●かつてのジバンは今、人のために働く人になっていた

機動刑事ジバン(人間時の名前:田村直人)を演じていたのは、所宏吏さん(56歳)。当時は日下翔平という芸名で俳優として活動していたが、現在は芸能事務所で働いている。

コメンテーターとしても活躍する国際弁護士の八代英輝弁護士や、萩谷麻衣子弁護士のマネジメントを歴任する。

所さん 所さん

所さんはもともと、中学のときに児童劇団に入り、役者を始めた。ジバンを演じた後、25歳でマネージャーの裏方に回り、今に至る。

厳密にいえば、27〜28歳のころ、一度だけドラマに出演した。若手の刑事役で、たまたまジバンと同じ「田村」という役だった。

ジバンとして演じていたとき、「対バイオロン法」について、どう考えていたのだろうか。

ーーなぜ、特撮番組に出るようになったのでしょうか?

当時の所属事務所には、ヒーローを演じた先輩がたくさんいたんです。

『光速エスパー』(1967・日本テレビ系)の三ツ木清隆さん、『ウルトラマンタロウ』(1973年・TBS系)篠田三郎さん、『ウルトラマンレオ』(1974年・TBS系)の真夏竜さん。

そういう事情から、特撮との縁があったので、オーディションを受けることになりました。

当時はトレンディードラマ全盛でしたから、そちらに出たかったのが本音です。真田広之さん、石田純一さん、三上博史くんなど、オーディションでも一緒になりました。

●トレンディードラマではなく、特撮主演のおかげで世界に羽ばたいた

ただ、今になって思えば、30年前の作品のおかげで、世界からお声がかかるのですから、人生とは不思議なものですね。

ーー世界ですか?

ブラジルの交換留学生が、日本のビッグサイトのコミケにいたく感激して、本国で「アニメフレンズ」というイベントを始めました。そこに呼んでもらって、ジバンを演じた俳優としてステージに登壇させてもらっています。

ブラジルのイベントでファンらと(所さん提供) ブラジルのイベントでファンらと(所さん提供)

2016年からブラジルに3回、フランスには1回、イベントに呼ばれて行きました。昨年もエクアドルに行く予定でしたが、コロナのため行けなくなりまして、リモートで「2021年は会いましょう」とメッセージを送ったところです。

南米では、ジバンや、「世界忍者戦ジライヤ」(ジバンの前年の作品)など、日本の特撮が番販(番組販売)されて、今でも繰り返し放映されているそうです。

ジバンはポルトガル語に吹き替えされ、南米の国では「ジバーン」と呼ばれています。「ルパーン」と同じ感じの発音です。

ーーなぜ、ブラジルなど南米でジバンがウケたのでしょう

国民性なのか、メカメカしいヒーロー物がウケるそうです。ロボコップや、アイアンマンも好きだと聞きました。ただ、アメリカの番組・コンテンツは高くてなかなか見れない。それにくらべれば、ジバンは割と手を出しやすい作品だったのかもしれません。

少々言葉を選ぶ必要がありますが、貧困層の支持があるかと思います。必ず、1話ごとに怪物をやっつけてスカッとできるところが好きなのでしょう。ダビングした映像を貸し借りして、ずっといろんな場所で見られている。そのような娯楽らしいです。

セリフは吹き替えですが、主題歌は串田アキラさんの歌がそのまま使われています。ブラジルのイベントで、歌ったことがあるのですが、現地のかたも日本語で正確に歌うので、歌詞を間違うことができませんでした(笑い)。

串田さんとは仲が良くて、移動中のバスで、「富士サファリパーク」の曲を歌ってくれるような元気な70代です。「ホントにホントにホントにライオンだ〜」って。

串田さんも一緒にブラジルに行きましたが、ジバンの歌は特撮のなかでも特に盛り上がる曲だそうですよ。

●放送当時、「対バイオロン法」のこと、どう思ってたの?

ーーでは、本題の「対バイオロン法」について聞いていきます

ジバンは、歴代のヒーローの中でも唯一、変身ポーズがないんです。

ーーたとえば、遮蔽物に隠れて、次に出てきたときに変身していますよね

そうそう。僕は当時、不思議に思わなかったけど、妹役の間下このみちゃんが「なんでジバンは変身ポーズがないの」と言っていました。

いまだに、他の元ヒーローたちとイベントに行くと、僕だけかっこいい変身シーンがないのです。そのかわりに、対バイオロン法があるわけです。よく、リクエストされるのは第9条です。「第9条 機動刑事ジバンはあらゆる生命体の平和を破壊する者を、自らの判断で抹殺できる」。かなり盛り上がりますよ。

共演した間下このみさんと(所さん提供) 共演した間下このみさんと(所さん提供)

あの法律は、桃太郎侍みたいなものなんですよ。

ーー数え歌を口にしながら、敵をバッサバッサ切っていく

そうです。歌のかわりに、法律を唱えながら、怪物を倒していく。

ーー当時、ヤバい法律だと思いませんでしたか

なんの疑問も、ひっかかりもなく、監督から言われるがままにしゃべってました。変身後なので、声は後からアフレコルームで入れているんです。

セリフは同じものの使い回しではなく、1話ごとに毎回入れています。

基本的に使うのは第1条と第2条ですが、あまりにひどいことをした相手に対しては、まれに第9条を言うんです。

使われていない条文もありますが、きっと設定段階では存在すると思いますよ。それにしても、感情のままに作った法律ですよね。都合よく、ジバンのAIが判断できるのでしょう。

●令和の現代だったら、クレームで番組が終わっているかも…

うちの甥っ子たちが、まだ幼いころ、ジバンを見ていたそうです。私の姉から「ジバンと同じように、手帳を持って、第何条!としゃべっていた」と聞きました。

もし、現代だったら、SNSで叩かれそうですよね。子どもがテレビの真似して、抹殺するってしゃべっている。どうなってるんだって。

ーー今、改めて、条文を読んでどう感じますか

悪い人間をこれだけすぐに裁けるのって、スカッとしてていいですよね。もちろん、冤罪は良いことではありませんが、裁かれるまでに時間かかるじゃないですか。

危ない犯人に生身で対峙しているのですから、少しくらいは、判断や許可を与えてもいいのかと思います。

そんなことを言うと、うちの事務所にも弁護士がたくさんおりますから、怒られてしまいますね。

ーー所属弁護士の仕事に立ち会うこともありますか?

弁護士の本業にタッチすることはありませんが、法律家として受ける取材には立ち会いますね。

●ジバンは弁護士に向いていない?

弁護士のもとに相談にいらっしゃるのは、なにかしらの問題を抱えているかたです。弁護士は、感情論でなく、中立の立場で対応される。私が扱っていた対バイオロン法は、ほぼ感情論で作られていますから、ジバンは弁護士には向かないと思います。

ーーもっとも思い入れのある話は?

一番思い入れのあるのは、ジバンが死んでしまう回です。すんごく強いの(=敵)が出てきて、ジバンは腕を切られて、ボロボロになっちゃうんですよ。絵的にかわいそうでね。撮影のときのこともよく覚えています。

本(=台本)は追っかけで書かれているので、まさか殺されるとは私も思わなかった。

どこの国に行っても、あの話は悲しかったと言われますね。

でも、強くなって生き返る。最終回は、ジバンがカバンを持って旅立つシーンで終わるんです。もしかしたら戻ってくるかもなと思いました。

子どもたちや、かつての子どもたちがこの記事を読むことがあれば、「何があるかわからないけど、思っていればかなうよ。あきらめないで。努力は裏切らないよ」と伝えたいです。私もずいぶんお芝居を練習しました。

ジバンの主題歌を熱唱する所さん(本人提供) ジバンの主題歌を熱唱する所さん(本人提供)

●特撮好きのサラブレッド弁護士

なお、安井弁護士はもちろん抹殺されることなく、無事に生きている。実の父親は、特撮分野で幅広く活躍するフリーライターの安井尚志さん。東映や円谷プロなどの特撮作品の制作にかかわったほか、漫画「プラモ狂四郎」の原作なども手がけた。仮面ライダーやウルトラマンなどの特撮作品に囲まれながら、すくすくと特撮好きの弁護士に成長した。

「メタルヒーローシリーズはリアルタイム世代で、巨獣特捜ジャスピオンが特にお気に入りです。『振り向けば、小さな昨日。目をあげれば無限の明日。』というOPの歌詞が好きです」(安井弁護士)

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