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人として扱われない「技能実習生」リアルに描く…映画監督・藤元明緒さん「制度的エラーに向き合うべき」
映画『海辺の彼女たち』より (c)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

人として扱われない「技能実習生」リアルに描く…映画監督・藤元明緒さん「制度的エラーに向き合うべき」

難民申請が認められず、同胞と助け合いながら、不安と背中合わせで暮らしている在留ミャンマー人一家4人の日常を、ドキュメンタリーを思わせるリアルなタッチで描いた前作『僕の帰る場所』で、国内外の映画祭で注目を集めた藤元明緒監督。

自身もミャンマー人の配偶者と暮らし、在留外国人が決して遠い存在ではない藤元監督は、新作『海辺の彼女たち』で、過酷な労働環境に耐えかね、職場から逃げた技能実習生が日本でどう生きていくか、彼女たちの〝その後〟に目を向けている。

〝移民〟〝外国人労働者〟と、彼らをひと括りにせず、個として向き合うことで、日本で働く彼らが抱える問題を浮き彫りにする――そんな作品をつくるために重ねた取材を通じて、何が見えてきたか、藤元さんに聞いた。(取材・文/塚田恭子)

●ベトナム人女性が主人公の映画

薄暗い倉庫の中、3人のアジア系女性が小声で言葉を交わしている。カバンに入る分だけ荷物を詰め込むと、金網をのり超え、街灯もない夜道を、スマートフォンのライトを頼りに急ぎ足で進む。移動を重ね、乗船した大型フェリーが到着したのは雪が舞う北国。

彼女たちを迎えに来た同胞の男性ダンとの車中での会話から、ベトナムから来たフォン、アン、ニューの3人は、来日以来3カ月間、週7日1日15時間、休みなしに働かされていたことがわかる。

食事や睡眠の時間もろくにもらえず、残業手当も出ず、「仕事ができないから遅くまで働いているんだろう」と怒鳴られ、給料からいろいろ差し引かれると、生活もままならないほどのお金しか残らない。

ロボットのように働かされていた3人は、パスポートも在留カードも職場に取り上げられたまま、ブローカー(仲介者)のダンを頼りに、北国の漁港で働き始める。

●技能実習生からのSOSがきっかけのひとつ

画像タイトル 監督の藤元明緒さん

前作に続いて移民たちが置かれた状況に目を向けた藤元さんは、この映画を撮るきっかけのひとつとして、ミャンマー人の技能実習生からSOSが寄せられたことを挙げる。

「2016年に、僕は妻とフェイスブックのページを立ち上げました。日本への渡航、観光、ビザの情報など、僕が書いた記事を、妻がミャンマー語に訳したこのページが、ミャンマー人の間ですごく広がって。

これを見たある技能実習生から〝すごく不当な扱いを受けているので逃げたいけど、どうすればいいか〟とメールが来て、そのとき初めて技能実習生とコンタクトを取りました。結局、助けることができないまま、その人は職場から逃げてしまったので、今どうしているかわかりませんが、そのことがずっと頭に残っていました。

実は僕の妻も、ミャンマー側で日本語学校を名乗るブローカーにのせられて日本に来ているんです。もともとヤンゴンの学校で日本語を勉強していたものの、日本で就職するまでには苦労があったようで。身近なところで職場から逃げた人の話なども聞いていたので、そこでいろいろ感じたこと、その積み重ねが映画に反映されていると思います」

日本語学校が、ブローカー(仲介業)を兼ねているのはミャンマーに限ったことではない。アジア諸国では、むしろそれが普通になっていて、就労をめぐる諸々の問題を引き起こしている。だが、事情はともあれ、技能実習生が派遣先の職場を離れれば、在留資格を失ってしまう。逃げた人たちは、その後どうやって暮らしているのか。

それと同時に、藤元さんが気に留めていたのが、2019年3月に妊娠を理由に違法な解雇や不当な待遇にしないように国が受け入れ団体に注意を促したように、妊娠した技能実習生が職場から帰国するか、中絶するかを突きつけられている現実だった。

「この問題が表面化した時期に、妻が妊娠していたんです。ちょうど彼女が出産する日まで、この映画の脚本を書いていたこともあって、これは一歩間違えば、自分の家族も直面することだったかもしれないと思うと、すごくシンパシーを感じてしまって。

病院に行くことも、出産することも、普通にできるはずのことなのに、その選択ができないこと。逃げたあとの彼らがどうしているかということ。この2つを組み合わせて映画をつくろうと思いました」

●3人の演技がリアリティを強めている

今回、主人公たちの国籍をミャンマーではなくベトナムにしたのは、この物語の場合、ベトナム人を取り上げるのがよいのではと思ったからだという。

「国別でみたとき、事情を抱えて失踪した人たちが逃げた先にコミュニティができているのはベトナムじゃないかという予想があったのですが、実際その通りでした。ただ、僕たちが思い描く役者がベトナムにいるかどうかわからなかったので、ミャンマーやインドネシアなど、ほかの国も視野には入れていました。

結果的にオーディションでこの3人だ、というめぐり合わせがあったので、今回はベトナムでいくことになりましたが、これはどこの国の出身者でも起こりうる話だという普遍性を描ければと思いながら、撮影していました」

〝この3人だ〟と、藤元さんが感じたというように、3人のリアリティ溢れる演技は、観客に〝彼女たちは本当に技能実習生ではないか〟と思わせるほど真に迫っている。

「地方出身のアンさんは、お姉さんが家族のために10年以上台湾に出稼ぎに行っていたので、この映画に参加することは姉の気持ちを理解することにもつながると話していました。映画同様、普段からリーダータイプのアンさんは、女優とは別に経営者の顔も持っていて、自分の生活は自分で何とかしていこうという気持ちを持っている人です。

ニューさんは、自分の家の隣の人が、親に半ば無理矢理、技能実習生として日本に送られていて、この映画に関わる前からその人と連絡を取っていたようです。その人も、雪深い土地で働いているので、どんな気持ちで来日したか、日本での生活はどうか、個人的に聞いてもらいました。

フォンさんはベトナムでもかなり地方の出身で、女優を目指して単身ハノイに上京した人です。国内ではあるけれど、自分のやりたいことを実現するために覚悟を持って行動する、そんな主人公の気持ちに共感を覚えたそうです」

物語の大枠は伝えたものの、藤元さんは主演の3人に脚本はわたさず、それぞれに〝この場では、こういうことを話してください〟と、個々に口頭で伝える演出方法を取ったという。

互いに相手が何を話すかわからず、3人一緒にいるときの演技は即興だったそうで、先に脚本はあったものの、彼女たちの話を聞いたうえで、それぞれの資質を役柄に落とし込んだことも、作品のリアリティを強めている。

画像タイトル 映画『海辺の彼女たち』より(c)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

●「国は問題が起きていることを認めたほうがいい」

たとえ技能実習生が派遣された先の企業側に問題があっても、日本の状況をよく知らず、立場の弱い彼らが法的に訴えることは容易ではない。労働環境その他に耐えられず逃げた場合、なぜそうせざるを得なかったのか、彼らの事情を考えたり、理解しようとする人は、残念ながら多くはない。

こうした状況についてどう思うかと尋ねると、藤元さんは次のように答えた。

「まず国は、問題が起きてしまっていることを認めたほうがいいと思います。技能実習生であれ、別のかたちであれ、働いているのは『人』です。そこで制度的なエラーが起きている以上、制度の修正は必要です。ただ、制度は一朝一夕で変わるものではないので、待っていても時間がかかってしまいます。

今、仕事や住む場所を失った人たちを助けているのは支援団体です。ベトナムでいえば、僕も取材をさせてもらった「日越ともいき支援会」がありますが、支援を求める人の数からいえば、その団体の活動だけで何とかなるという域は超えています。本当は行政にも動いてもらいたいところですが、今後そういう団体が増えると、救える人が増えるのではないかと思います。

あとは労働法を守らず、技能実習生や外国人労働者を搾取している企業に対する罰則や監視を強化するとか。受け入れ先にもよい企業はあるし、よい職場で働いている技能実習生もいるので、一概にはいえませんが、問題を解決するためにはこの2つの軸が必要じゃないでしょうか」

前作『僕の帰る場所』でも、今回の『海辺の彼女たち』でも、藤元さんは作中で、決して誰かを糾弾したり、何かを告発したりしない。それは人間として共感できる物語を、自分も観たいしつくりたいからだという。

「報道では、『技能実習生とは』、『外国人労働者の受け入れ実態とは』などと、大きな枠でひと括りにされてしまうけれど、取材をすると、それぞれの事情はまるで違うんです。技能実習生というラベルをはがして、一人ひとりに話を聞けば、各人各様の物語があります。

映画を観る人の中には、不法に滞在、就労するのはよくないと思う人もいるかもしれないけれど、僕自身は、人と人を隔てるものをなくしたい、人と人の距離を近づけることで、人と人が出会えるような映画をつくりたいと、そう心掛けています」

●藤元明緒監督プロフィール
1988年、大阪府出身。大学で心理学、家族社会学を学んだ後、映像の世界に関心を持ち、大阪ビジュアルアーツに入学。『僕の帰る場所』は国内外30を超える映画祭で上映された。『海辺の彼女たち』は5月1日からポレポレ東中野ほかで全国順次公開予定。
http://www.umikano.com/

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