街中や店内など、いたるところに配置されている防犯カメラ。事件解決に大きな力を発揮する一方で、冤罪を作り出すこともあるようだ。
11月7日、弁護士会館(東京)で開かれた日弁連主催のシンポジウムでは、カメラの映像による冤罪被害者らが、「都合の良いほんの一部だけを抜き出して、こじつけられた」などと怒りを口にした。
●「無罪だと確信していても、判決の日は震えるくらい怖かった」
大阪府のミュージシャン・SUN-DYUさんは2012年、2か月前に起きたコンビニから1万円が盗まれた事件の容疑者として逮捕され、窃盗の疑いで起訴された。犯人はマスクで口元を隠していたが、店員が複数の顔写真の中からSUN-DYUさんに似ていると証言したことや、防犯カメラに映った背格好、店のドアについた指紋が根拠になった。
しかし、検察から開示を受けた映像をチェックしたところ、犯人は指紋の場所を触っていなかったことが判明。さらに事件5日前、SUN-DYUさんが該当箇所に触れているシーンも見つかった。犯行時のアリバイも証明され、裁判では無罪が言い渡された。身柄拘束は302日に及んだ。
「無罪だと確信していても、一歩間違うと、明日から刑務所に入るかもしれない。判決の日は最も怖かった1日。震えるくらい怖かった」(SUN-DYUさん)
SUN-DYUさんは、捜査機関が防犯カメラの映像を十分に精査せず、「決めつけ捜査」を行なったなどとして、国家賠償を求めている。一審・二審で敗れたが、「間違えたことに対して謝罪してほしい」と最高裁でも争う覚悟だ。
●「映像は科学的に分析・解析して、公正中立に扱うことが大前提」
東京都八王子市の40代男性も2016年、不鮮明な防犯カメラの映像などを根拠に、2年前の傷害事件で逮捕、起訴された。牛田喬允弁護士によると、警察の初動が遅れ、より鮮明な映像が映っていたかもしれない防犯カメラを押さえられなかった可能性があるという。
男性側が、犯人が逃走に使ったタクシーを突き止め、ドライブレコーダーの映像を入手。別人が映っていたことが決め手になり、公訴棄却になった。牛田弁護士は、「少ししか残っていないのに、映像が過度に使われている」と問題提起する。
今年3月、最高裁で逆転無罪判決を受けた、広島県のフリーアナウンサー・煙石博さんも防犯カメラの映像で冤罪被害を受けた1人だ。
煙石さんは2012年、広島県内の銀行で他の客が置き忘れた封筒に入っていた6万6600円を盗んだとして、逮捕・起訴された。映像に煙石さんが封筒を手にしたシーンはなく、指紋も検出されなかったが、ほかに封筒に近づいた人がいなかったことから、一審・二審は有罪判決を下した。
これに対し、最高裁は、映像から煙石さんが封筒に触れていないと認定した。封筒には最初からお金が入っていなかった可能性がある。「監視カメラの映像を都合よく使われた。映像は科学的に分析・解析して、公正中立に扱うことが大前提だ」(煙石さん)
●容疑者・被告人側が証拠にアクセスするのは容易でない
3人に共通するのは、カメラの映像によって冤罪が生まれている一方で、映像が疑惑を晴らす決め手にもなっているということだ。しかし、容疑者・被告人側が、証拠にアクセスするのは容易ではないという。
成城大学の指宿信教授は、「被疑者段階で弁護人の(証拠への)アクセスについての定めはない。起訴されれば、証拠開示手続きに乗るが、検察官まで上がってこなかった証拠にはアクセスできない。証拠全体に対するアクセス保障が弱い」と指摘する。
防犯カメラについては、プライバシーなどの問題もあり、指宿教授は「日本では監視カメラが野放しにされている」と問題視する。その一方で、映像が冤罪の証明になる場合もあるとして、「国会で映像の管理法などについて、個人情報の対象として盛り込むことを検討すべき」と話していた。