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預けたペット「情が湧いた」と返してくれない友人 取り戻すにはどうすればいい?
写真はイメージです(Pangaea / PIXTA)

預けたペット「情が湧いた」と返してくれない友人 取り戻すにはどうすればいい?

病気になったり、旅行に行ったりするなどの事情で、犬や猫などのペットを友人や親族などに預ける人もいます。しかし、預けたペットを巡ってトラブルに発展するケースもあるようです。

弁護士ドットコムにも「預けたペットを返してもらえない」という相談が複数寄せられています。事情があって友人に猫を預けていたという相談者は、猫を引き取りに行った際に「情が湧いたから渡せない」などと言われ、返してもらえずにいるそうです。

ペットを返してもらうためには、どうすればよいでしょうか。渡邉正昭弁護士に聞きました。

●ペットを預けた場合、法的にはどうなる?

ーーペットを友人や親族に預けた場合、法的にはどのような効果が生まれるのでしょうか。

「飼主がペットを保管することを友人や親族(以下「友人等」といいます)に委託し、友人等がこれを承諾していれば、ペットの寄託契約が成立します(民法657条)。飼主はペットの『寄託者』、友人等はペットの『受寄者』となります。

寄託契約の場合、ペットの返還の時期を定めない場合はもちろん、返還の時期を定めた場合であっても、飼主はいつでもペットの返還を請求できます(民法662条1項)。

ただし、返還の時期を定めていた場合、その時期の前に飼主が返還を請求したことによってペットを預かった友人等が損害を受けたときは、ペットを預かった友人等は飼主に対し、損害賠償を請求することができます(同法662条2項)。

また、友人等が無報酬でペットを預かったときは注意義務の程度が軽減されます。

具体的には、善管注意義務(受寄者の能力や社会的地位などから考えて通常期待される注意をもって、ペットを保管しなければならないという義務)ではなく、自己の財産に対するのと同一の注意をもってペットを保管すれば足ります(同法659条)。なお、善管注意義務の方が、より慎重に注意を払わなければならない義務になります」

●法律上の根拠があれば、ペットの返還請求を拒むことができる場合も

ーーペットの返還請求を拒むことができる場合もあるのでしょうか。

「あります。友人等がペットの飼育や傷病治療のための治療費や債務を負担しているときは、受寄者である友人等は寄託者である飼主に対し、その費用の償還請求や債務弁済請求をすることができます(民法665条、650条1・2項)。

飼主がこれらの債務を支払わないでペットの返還を請求してきた場合は、友人等はペットの留置権を主張し、これらの債権が支払われるまでペットの返還を拒むことができます(民法295条)。

ただし、飼主と友人等の飼育方針・方法に違いがあれば、友人等は『当然必要なこと』と思っておこなっていたことだとしても、飼主からすれば必要がないことだったり、金額が想定外だったりする事態も生じます。

解決までの時間がかかるとペットの傷病事故が生じたり、飼育費用等が増加したりする可能性もあります。そうなると紛争が拡大し、解決がますます困難になります。

そこで、このようなトラブル解決のためには、民法の該当条文を参考にし、双方の利害を調整し、早期の話し合いによって双方ともに納得のいく紛争解決基準を創り出す努力をすることが肝要です。どうしても調整が難しい場合は、裁判所の民事調停などを活用しましょう。訴訟による解決はこれ以上調整の余地がない場合にすることが妥当です」

●法律上の根拠がなかったり、ハッキリしなかったりする場合は?

ーー友人等に「情が湧いた」「あなたには育てられない」という理由で引き渡しを拒まれたという相談も寄せられています。ーー

「いずれも寄託物であるペットの返還を拒む法律的な理由にはなり得ません。仮に、友人等に『動物愛護管理法』などの飼主の飼育管理義務違反があったとしても同様です(返還義務とは別の問題です)。

訴訟と強制執行以外の方法でペットを返してもらうには、友人等の説得と同意(合意)が必要です。しかし、話し合いの当初から友人等を過剰に刺激してしまうと相手方を感情的にさせ、返還拒絶の意思を一層強固にしてしまうおそれがあります。その場合、双方にとってメリットのない訴訟に発展する可能性もあります。

飼主としては、感情的に友人等を責めるなどの過剰刺激を与えないように極力注意する必要があるでしょう」

ーー法律上の根拠がハッキリしない場合はいかがでしょうか。

「そのような場合もあります。寄託契約は、受寄者にはペットの所有権がないことを前提としますが、場合によっては、ペットの所有権の帰属をめぐって飼主と友人等の言い分が『預けただけ』『自分のものだ』『もらった』などと対立する場合もあります。

たとえば、以下のような場合が考えられます。

・別居した妻が犬と一緒に自宅にいる夫に対して、犬は自分のものだから返してほしいと要求する場合

・ペット飼育禁止のマンションに引っ越した飼主が親しい友人に犬の飼育を依頼し、その後も飼育費用の負担をせず、返還要求もしないまま長期間が経過し、友人が犬を譲られたと考えて大切に飼育してきたような場合 
etc.

これらのトラブルが訴訟に発展した場合、所有権の帰属について激しく対立し、訴訟が長期化する可能性があります。双方がペットに強い愛情を持ち、相手方の飼育方法に不満がある場合が多いからです。双方に法律的な言い分があるので、ペットの返還請求が認められるか否かも分かりません。

このようなトラブルの場合は、まずは話し合いをする必要があります。ただ、合意の困難が予想されるようであれば、裁判所を利用することについて、双方の合意の上または相手方の了承が予想される状況で、話し合いの舞台を裁判所に求める(調停、訴訟上の和解)ことも効率的なトラブル解決のために必要な場合もあるでしょう」

●トラブル防止のためには「明確かつ具体的な取り決め」を

ーーペットをめぐるトラブルを防ぐためには、どのような点に注意すべきでしょうか。

「ペットホテルなどとは異なり、厚意でペットを預かってくれる友人等との間では具体的な取り決めがなされないことが通常です。実際に、明確な取り決めがなかったためにトラブルに発展するケースもあります。対応を誤ると激しい対立関係が生じ、厚意が災いして良好な人間関係を破壊することにもなります。

トラブルを防ぐためには、所有権の帰属、飼育方針や飼育方法、保管期間、双方が相手方に要望する行為、飼育費用や傷病事故の場合の費用分担等について、明確かつ具体的に書面で取り決めることが有意義です。

ペットトラブルが発生したときは、訴訟の可能性を常時視野に入れつつ、信頼関係を維持しながら、双方が受け入れることができる解決案を双方の協力によって創り出せるか否かがトラブル解決の大事なポイントです」

プロフィール

渡邉 正昭
渡邉 正昭(わたなべ まさあき)弁護士 渡邉アーク総合法律事務所
交渉戦略家・弁理士 元家事調停官 心理学を活用した法的交渉が特徴。ペット問題に30年関わり、相談や事件依頼は全国各地から、近時は世界各国からも。セカンドオピニオンや引き継ぎ依頼も多い。

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