歴史的な建造物が数多く残る京都で、伝統的な木造建物を無断で改造したとされる針金細工店が12月上旬、原状回復のための「行政代執行」を受けた。報道によると、景観保全のために伝統的建造物群保存地区で行政代執行が実施されたのは、全国で初めてだという。
針金細工店があるのは、京都の清水寺に近い「産寧坂(さんねいざか)」の伝統的建造物群保存地区。店は、塀と家が一体となった「高塀造(たかべいづくり)」の伝統的な日本建築だが、市の許可を得ないで、道路に面した壁の一部を「ガラス張りのショーウィンドウ」に改造して、室内が見通せるようにしていた。
京都市は建物を借り、店を経営していた男性に対して、建造物を原状に戻すように命じたが、男性が命令に従わなかったという。そこで、行政代執行法に基づき、強制的にガラス窓を木の板でふさぐ措置をとった。
この「行政代執行」というのは、そもそもどのような制度なのだろうか。また、どういった場合に認められるのか。行政の法律問題にくわしい湯川二朗弁護士に聞いた。
●「行政が代わりに執行」する手続
「行政代執行の前に、民間の『強制執行』について、説明しておきましょう。
たとえば、あなたが自宅の窓ガラスを割られた場合、相手に修理を『強制』するためには、次の3つの段階が必要になります。
(1)裁判を起こして、裁判所から判決をもらう
(2)判決内容を執行するよう裁判所に申し立てて、強制執行の決定を得る
(3)裁判所の執行官を介して、強制的に執行させる
面倒でも、このように3度にわたって、裁判所を通さなければなりません。民間では『自力救済』が許されていないからです」
それに対して、市町村などの行政は、裁判をしなくてもよいのだろうか。
「そうですね。ただし、裁判所を通さない分、きちんと法律に基づいた手続を踏む必要があります。行政代執行も、そうした手続の一つです」
行政代執行とは、どんな手続なのだろうか。
「行政代執行は、『〜しなさい』という命令を受けた人が、その命令に従わない場合に、命令を受けた人の代わりに、行政が命令内容を執行するという措置です。行政が『代わりに執行』するので、行政代執行と言われています」
行政の判断が間違っていたら、どうするのだろうか?
「仮に、行政代執行が違法だと裁判で認められれば、原状回復してもらえます。それが無理な場合は国家賠償法により、金銭賠償で我慢してもらうことになります」
●京都市の判断は適切だったのか?
今回の行政代執行をどう見るだろうか。
「本件の場合は、歴史的価値の高い伝統的建造物が立ち並ぶ産寧坂であり、観光名所でもあります。
京都市は観光都市です。条例の遵守をきつく求め、条例違反に対しては厳正に臨む。そうでないと条例違反が横行して、良好な景観が保全できないという判断だったのでしょう。
ただし、行政代執行には、『他の手段によってその履行を確保することが困難』『その不履行を放置することが著しく公益に反する』といった厳しい要件があります。
京都市が公開した現場写真などを見る限り、それほど悪質な事案だったのか、もう少し慎重な検討があってもよかったのではないかという思いも残るところです」
湯川弁護士は、このように話していた。