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コロナ対策、国と都のギクシャクはトップの不仲が真因なのか 竹中治堅氏が指摘する「権限バラバラ問題」
菅首相(右)と小池知事(それぞれ首相官邸、東京都Youtubeチャンネルより)

コロナ対策、国と都のギクシャクはトップの不仲が真因なのか 竹中治堅氏が指摘する「権限バラバラ問題」

新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。感染抑制が期待される一方で、感染者減少の速度の鈍化も指摘されています。コロナ禍で目立ったのが『Go To トラベル』の一時停止や、飲食店への時短要請など国と都道府県知事との意見の食い違いです。「コロナ危機の政治 安倍政権vs.知事」(中公新書)の著者で、政策研究大学院大学の竹中治堅教授は、国と都道府県に権限が分散していることが感染を抑え込めない原因の一つだと指摘します。問題点と、どんな体制をとるのが望ましいのかを聞きました。(ライター・国分瑠衣子)

画像タイトル 政策研究大学院大学の竹中治堅教授

●権限が分散することで、メッセージ性も分散してしまった

――近著「コロナ危機の政治」では、コロナ禍で安倍晋三前政権と都道府県知事がとったプロセスをたどり、国と都道府県に権限が分散している問題点を指摘しています。菅義偉政権になりどんな変化がありますか。また、権限が分散していることで何が起きているのでしょうか。

菅政権になってからの変化としては安倍政権の時よりも経済政策が重視されるようになりました。昨年10月以降の感染再拡大は国が『Go Toトラベル』の継続にこだわったことが響いています。東京都の小池百合子知事が指摘したように国はアクセルとブレーキを同時に踏み続け、11月中旬から医療体制がひっ迫していきます。

権限分散の問題の1つは、メッセージ性の分散です。最近、ようやく感染状況を示す『ステージ』が理解されるようになってきましたが、以前は東京都の小池知事や、大阪府の吉村洋文知事が独自の基準で発信していました。

基準がバラバラだから国民はどのステージになるとまずいということが理解できなかった。早くから統一基準で発信していれば理解はもっと早かったと思います。

もう1つは、政府がやってほしいことは知事が動かないとできないという問題です。12月11日に分科会は感染が拡大している地域には飲食店に対する営業時間の短縮要請を20時に前倒しすることを求めます。しかし、権限を持っている東京都知事は動きませんでした。

一方で政府側もはっきりしません。『Go Toトラベル』は政府だけの判断でやめることができたのに、一部の地域など除外をする際には知事の意見も踏まえる形にします。政府だけでやめると言うと批判されるので、『批判される責任』を共有したいという思惑が透けて見えます」

――新型インフルエンザ等対策特措法は、首相による知事への「指示権限」を認めています。権限を集中させることはできるのでしょうか。

「特措法では『調整を発動するために必要な指示権』しか持っていないんです。分かりやすい例でいうと、東京都が午後8時までで飲食店の営業を終えるよう時短要請をかけて、仮に隣県の神奈川や千葉ではやっていないとなると、客が流れて感染拡大するリスクがありますよね。

そこで国が神奈川県や千葉県知事に午後8時までにするように、と指示することはできるということです。でもこれは調整のための指示なので、権限が集中しているとは言えません。

権限の集中は法改正をすればできます。東日本大震災の時の原子力災害対策特別特措法では、緊急事態宣言を出すと、基本的に首相に権限が集中する仕組みになっています。前例がないわけではありません」

●23区の保健所には都知事の権限が及ばない

「権限分散のもう1つの問題は感染症の権限体系です。政令指定都市や特別区など保健所設置市・区には知事の権限が及びません。例えば、東京都港区で行われていることは港区長の判断の下で行われ、都知事でも口出しできません。メディアの監視も及んでいない。

歌舞伎町を抱える新宿区は、接待を伴う飲食店の経営者と連携し、従業員や客のPCR検査に協力してもらう体制を整えました。豊島区も新宿区に続きます。墨田区も向島の花街の関係者に検査を実施したそうです。

しかし、東京の他の区が繁華街の大規模検査など特別な感染対策をしたという話は聞きません。もちろん保健所が非常に忙しいことは間違いがないのですが、国もこの問題に目を向けるべきです。メディアにも例えば数多くの繁華街を抱え、感染症が多数報告されている港区がどういう感染対策を実施したのかもっと調べて報道してもらいたいです。

もともと保健所の役割は、妊婦や乳幼児健診など地域密着の健康増進をするためなので、新型コロナのような感染症対策を区が行うのは無理があります。大規模な検査を行う体制が整っていないのです。

これは東京都だけではなく、他の保健所設置市と道府県も同じです。菅首相と小池都知事の人間関係の悪さが、食い違いの原因と報じるメディアもありますが、ツーカーだったとしても東京都は検査手段を持っていないので、難しかったんだと思います」

――国、都道府県、保健所設置市と権限が3つに分かれてしまっている。どうすればいいのでしょうか。

「少なくとも平時でも保健所の権限を東京都に戻すべきだと思っています。人が多い組織のほうが緊急時には余剰人員を送り込みやすい。東京都は一般行政職だけでも2万人近くいますから、機動的な対応ができます。都市部では国が保健所を直轄してもいい。税務署のようなイメージです。

もし東京所が保健所を管理、運用していれば、もっと一生懸命検査をしたでしょう。東京都は医療に対する責任を負っているので患者が増えると困るからです。

東京都はベッドを増やすこと、人の動きを止めることの権限は持っていますが、検査をして隔離する権限をもっていないということです。PCR検査をきちんとして早期に感染者を隔離していれば、飲食店にここまで負荷はかからなかったでしょう」

――国と都道府県に権力が分かれたのは、地方分権改革が遠因としてありますか。

「1999年に成立した地方分権一括法で、国と知事は対等だという考えができたので、より難しくなったと思います。

地方分権の流れは間違ってはいません。ただ、今回のような広域にまたがる話は国に必要な権限を持たせなければダメです。知事は諮問委員会などで地域ごとに必要な対策を発言し、国の政策がぬるければ発信すればいいんです。内閣支持率が下がれば政権は変わるので、国もちゃんとやらざるを得ない」

●他人の自由を守れないなら、罰則があってもいい

――権限が分散している今でも、国はもっとできることがあったのではないでしょうか。

「『Go Toトラベル』にこだわりすぎました。PCR検査の権限があったら、Go Toトラベルをやっても繁華街でたくさん検査をして、陽性反応が出たら病院で隔離をするという対応がとれました。今回の場合、経済活動を重視したいなら検査もしっかりすべきでした。しかし、その権限を国は持っていません。

夏に拡大した感染の第2波では、飲食店への休業要請で感染拡大をある程度抑え込めたので、大丈夫と思ったかもしれませんが、感染対策が一番の経済対策だということを理解してほしい」

――2月13日に施行された改正感染症法では、新型コロナウイルスに感染して入院を要請された人が、正当な理由なく入院を拒否した場合、自治体は過料を科すことができますが、罰金は厳しすぎるという意見も出ました。どう考えますか。

「私は罰則があってもいいという考えです。酒気帯び運転すると罰金刑か懲役刑ですね。入院している病院から逃げ出す行為は他の人の身体にダメージを与える危険性があるという点で言えば同じことだと思います。酒は自らの意思で飲むのに対し、自らの意思で感染するわけではないという違いがあるので、懲役刑は度が過ぎますが」

――海外に比べ、日本は法律であまり私権制限をせずに乗り切ろうとしていますが、緊急時には私権制限すべきでしょうか。

「これは戦時中の経験が影響していると思います。国は特攻隊や学徒出陣・動員などあまりにも国民の命・権利を粗末に扱ったので、国民は『国家権力は勘弁してもらいたい』という気持ちが根強いのではないでしょうか。

ただしコロナ禍では、ある程度の行動制限は必要です。『隔離』という言葉がネガティブに捉えられています。しかし、新型コロナウイルス感染症の性格を踏まえれば2週間程度の隔離は止むを得ないと思います。海外では1人の感染者が出て、街がロックダウンされるぐらいです。

隔離したから民主主義が危うくなるという話ではありません。身体の自由はもちろん大事です。しかし、他の人の自由を守るということも大切です。酒気帯び運転を厳しく処罰するのは他人の権利を守るためですね。感染対策においても他人の権利を守るということを今より意識することが必要です。この調整が必要です。憲法13条に定められている公共の福祉はそういうことなんじゃないでしょうか」

――菅総理はどんなリーダーシップを見せるべきでしょう。

「PCR検査やワクチンの接種体制など何が何でもやるという覚悟を見せてほしい。小泉政権の郵政民営化の時のように内閣官房に直轄をつくってやるようなことが必要です。法改正も含めて、覚悟があれば相当なことができると思います」

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