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公務員「マイナンバーカード」調査、何がマズイのか?「思想信条の自由侵害の恐れ」弁護士が警鐘
画像はイメージです(KY / PIXTA)

公務員「マイナンバーカード」調査、何がマズイのか?「思想信条の自由侵害の恐れ」弁護士が警鐘

各省庁が全職員に対して、マイナンバーカード取得の有無や理由をたずねる調査をしていることが明らかになった。

朝日新聞(11月25日)が報じたもので、「取得の有無や申請しない理由を家族(被扶養者)も含めて尋ねる調査」で、「内閣官房と財務省の依頼を受けたもので、氏名を記入して上司に提出するよう求めている」という。

さらに、地方公務員についても、名前は明記しないながらも、総務省が6月から調査をしているという。

背景にあるのは、政府が推進するマイナンバーカードの普及方針だろう。しかし、公務員に対して、本人や家族のマイナンバーカード所持を推進するかのような調査を行うことに問題はないのか。猪野亨弁護士に聞いた。

●「取得は義務付けられていない」

「マイナンバーとは国がすべての国民に割り振った12桁の番号のことですが、国民総背番号制などと批判されたことから『マイナンバー』とあたかも自分の番号という印象を与えることに腐心していますが、国民を管理するための番号です。

したがって、現在ではすべての国民にこの番号が割り振られていますが、マイナンバーカードは役所の窓口で申請しなければ各人の元にはきません。現在では取得は義務づけられていないからです。

実際、マイナンバーカード取得率は散々たるもので、13.7%止まりです(「東京新聞」2019年8月20日付)。公務員も同様に決して高くはないと推測されます。

莫大な税金を投入しながら、国民の理解が得られないままに推進してきた結果ですが、政府は、今般、公務員も含め、マイナンバーカード取得を事実上、強要する政策を始めました。ポイント還元などの優遇処置を抱き合わせたりする方はまだ良い方で、健康保険証に抱き合わせられたら事実上、拒否できなくなります」

ーーマイナンバーカードを所有することにもリスクはあるのでしょうか。

「すべての情報が一体化しますから情報流出すればプライバシー侵害の被害は甚大になります。民間サービスにまで利用が始まればなおさらです。マイナンバー(カード)を利用したくないというのは、同カードに利便性がないというだけではないからです。

そうした中で国家公務員に対して『内閣官房と財務省の依頼を受けたもので、氏名を記入して上司に提出するよう求め』、地方公務員に対しては無記名ながらも調査を行うことは事実上のマイナンバーカード取得の強要につながります。

取得義務がないにも関わらず、取得普及率を上げるということを大前提にした調査というだけでなく、『内閣官房』名義ですから、される側からすれば強制と受け止めてしまうからです」

●「理由を聞くということ自体にも強制的要素」

ーー直接的に「カードを取得するように」と強制したわけではありませんでした。

「理由を聞くということ自体にも強制的要素があります。記載された理由は当該公務員の情報として管理されるわけですが、理由を聞かれるだけでも『理由を言えるものなら言ってみろ』と言われているのと同じで、萎縮してしまうものです。

有給休暇取得の際に理由を聞くこと自体に問題がないわけではないということと同じです。本来、自由にもかかわらず理由を問うこと自体に問題があります。ましてや家族についても調査するなど明らかに行き過ぎです。

今回は、それに止まらず、『内閣官房』名での調査であることからわかるように『拒否』することは、安倍政権が推進している政策に反対表明をするようなものです。

『忖度』政治がまかり通っている中で、国家公務員が自らの処遇に影響が出るのではないかという不安さえ覚えます。義務でないことを強要するという問題に止まらず、思想信条の自由すら侵害されかねません」

ーー地方公務員の場合は無記名だったようです。

「地方公務員の場合も無記名とはいえ、取得率が各部署でも『忖度』されているわけですから、事実上の強要につながりかねません。総務省がそうした強制ではないと言ったところで、現場がどのように受け止めるのかということを抜きにして形式的に考えても意味がありません。

マイナンバーに関する安全性に対する危惧をよそにこうした推進のやり方は問題です。個々人の公務員に対する事実上の強制という問題に止まらず、こうした強要とマイナンバーの利用拡大がもたらす危険の問題も看過できません」

プロフィール

猪野 亨
猪野 亨(いの とおる)弁護士 いの法律事務所
札幌弁護士会所属。離婚や親権、面会交流などの家庭の問題、DVやストーカー被害、高齢者や障害者、生活困窮者の相談など、主に民事や家事事件を扱う。

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