「レンタルオフィス」などと称しながら実際には多数の人を居住させている、いわゆる「脱法ハウス」問題。東京都千代田区の施設が6月末での閉鎖を通告したことに対して、利用者たちは部屋の継続使用をもとめる仮処分申請を東京地裁に行っていたが27日、「業者側と和解が成立した。申立は取り下げる」と記者会見した。
代理人の林治弁護士によると、今回和解をしたのは、ネットカフェ大手「マンボー」が運営する千代田区の施設の利用者で、20代から50代の男女6人。今回の和解により、6人は9月末まで住み続けることが可能になった。また「利用料」について、9月分の全額と8月分の半額を免除されることになった。
この施設は100以上の部屋があり、マンボーは「レンタルオフィス」と説明しているが、実際には住居として利用されていたと指摘されている。集合住宅としての実態があるのに、必要な安全措置をとっていなかったことを問題視する報道が、今年5月からあいついだ。それを受けて、マンボーは突然、施設の利用者に「閉鎖」を通告し、退去を迫っていた。
今回の仮処分申請と和解の内容について、林弁護士に聞いた。
●仮処分申請で求めていたのは「利用者を追い出すな」ということ
——そもそも、申請していた仮処分はどんな内容だった?
「一言でいえば『利用者を追い出すな』ということです。具体的には、鍵交換や出入り口の封鎖で建物に入れないようにしたり、部屋に勝手に入ってモノを運び出したり、さらには、建物を取り壊したり、そういったことはするな、という内容です」
——仮処分の必要性と根拠は?
「業者側は『レンタルオフィス』だと言っていますが、実態は住居です。申し立てた人たちは実際そこに住んでいます。住民票を置いている人もいる。追い出されれば、行く場所がなくなってしまいます。
借地借家法は、貸す側からの契約解除について『正当事由が必要』で『申し入れから6カ月経過して初めて終了する』(28条)としています。しかし今回のケースでは、5月24日になって、『7月1日以降に解体工事をするので、前日までに退去するように』という内容の紙が張り出され、一方的に告知がされました。明らかに違法です」
——契約上は「レンタルオフィス」なのでは?
「借地借家法は住居に限らず、店舗や倉庫、『レンタルオフィス』にも適用されます。また、利用規約には『当社が即時解約が妥当だと判断した場合、当社はご利用の解約ができます』という特約がありますが、これは同法30条で無効だと解されます。30条は賃貸借契約の更新や解約にかんする規定で、借りる側に不利な特約を無効としているのです」
——マンボー側の主張はどうだった?
「マンボー側は今回の仮処分申請に対し、答弁書で『これは一時使用だ』と主張していました。
一時使用とは、たとえば選挙事務所のようにある期間中だけ使うことが明らかな例です。もしそうだとすれば先ほど話していた条文の適用はありません。
しかし住居や店舗、事務所は通常、継続性を持って使います。何らかの特別な事情がないかぎり、一時使用とは言えないと考えます」
——それなのに、なぜ『和解』を?
「今回申請した仮処分は、簡単に言うと『6月30日以降も追い出すな』という内容でした。正直なところ、裁判所にその命令を出してもらっただけでは、根本的な問題が解決するわけではありません。
ああいう危険な建物にずっと住み続けるということ自体、僕らは問題だと思っています。結局のところ、住人が何らかの方策で『脱法ハウス』からは退去して、きちんとした住居に移る必要がある。それができなければ『解決』とは言えないと考えています。
今回、裁判を行って業者と戦っても、利用者たちの問題がすぐに解決するわけではありません。いたずらに紛争を長引かせるのではなく、より妥当な解決を図ろうという話になったのです」
和解に応じた利用者は、記者会見で「謝罪も得られず、心情的にはまだ納得できていない」と気持ちを告白した。林弁護士も「100%満足できる結果ではないが、今後、強引な閉鎖をやりにくくした点で意義はあった。そもそも利用者がこんな所に住まなくても良いようにするためには、国の支援が必要だ」と訴えていた。
『脱法ハウス』として問題になっているのは、何も今回の業者・物件だけではない。今後、国交省が実態把握へ乗り出すという話もある。問題解決へ向けた第一歩をやっと踏み出したばかりと言えそうだ。