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家宅捜索中、弁護士への連絡は「正当な権利」 携帯使用禁止が「違法」と判断された理由
画像はイメージです(saki/PIXTA)

家宅捜索中、弁護士への連絡は「正当な権利」 携帯使用禁止が「違法」と判断された理由

覚せい剤事件の家宅捜索中、居合わせた被告人らの携帯電話の使用を禁止した警察官の指示は「違法」だと、福岡高裁が判断を示した。

産経新聞電子版(7月20日)などの報道によれば、裁判は佐賀県警が捜査した覚せい剤事件の控訴審で、捜索現場に居合わせた被告人らに携帯電話を床に置かせたという。弁護士に電話しようとした別の男に「捜索が終わるまで外部と連絡できない」とも指示していたと報じられている。

判決で、弁護士への連絡は「証拠隠滅や捜索の妨害にあたらず、使用禁止は正当な権利行使を妨げる措置で違法だ」と指摘したという。しかし、有罪認定には影響しなかった。

今回の判断を弁護士はどのように評価しているのだろうか。捜索中であっても、弁護士への連絡をしてもいいのか。元警察官僚で警視庁刑事の経験を有する澤井康生弁護士に聞いた。

●「必要な処分」かどうかがポイント

家宅捜索中、弁護士など外部の人に電話はできるのでしょうか。

「ケースバイケースで判断されます。

まず、家宅捜索は対象となる場所を捜索して、対象物を差し押さえるのが目的です。逮捕された場合には身柄を拘束されて行動の自由を制約されますが、家宅捜索されたからといってただちに外部の者に電話することが禁止されるわけではありません。

しかし、捜索差押えの目的を達成するためには、捜索を受けた者の行動を一定程度制約しなければならない場合もあります。刑事訴訟法111条は、捜索差押令状の執行のために錠をはずしたり、封を開いたりするなどその他『必要な処分』ができると規定しています。

オウム真理教事件のサティアンの家宅捜索では、捜査員は建物の入り口の扉を電動ノコギリ等でこじ開けて中に入っていました。このような行為は、111条の必要な処分に該当します」

過去の裁判ではどのように判断されていますか。

「福岡高裁平成24年5月16日判決では、警察官が携帯電話で外部の者に連絡しようとした被告人を制止した行為の適法性が争点の1つとなりました。

裁判所は、(1)外部の者との通話を許せば指定暴力団の組関係者が押しかけてきて捜索を妨害する可能性があると捜査員が判断したことには相当の理由がある、(2)警察官は携帯電話を取り上げるなど強制力を加えたわけではなく、説得を試みたに過ぎないなどの点に照らすと、警察官の行為は111条の必要な処分として許されると判断しました。

被告人は弁護士に連絡しようとしたと主張していましたが、本当に弁護士に連絡を取ろうとしていたのか疑わしく、弁護人依頼権が侵害されたとみることはできないと判断されました」

●携帯電話を床に置かせる→弁護人依頼権の侵害

今回の裁判をどのように評価しますか。

「結論としては妥当だと思います。今回も、家宅捜索の現場において被告人らに対し弁護士を含む第三者への電話を禁止することが111条の必要な処分に該当するのかが問題となります。

被告人が弁護士と連絡を取ろうとしていたにもかかわらず携帯電話を床に置かせるなどしたことから、弁護人依頼権の侵害となり、もはや必要な処分とはいえないと判断されたものと思われます。

ちなみに、職務質問の場合には、そもそも職務質問自体が任意の捜査なので外部への電話連絡を禁止することは認められません」

弁護士に家宅捜索を立ち会ってもらいたい場合、どうしたらいいのでしょうか。

「警察官に対し特定の弁護士(例えば、●●法律事務所の●●弁護士)に連絡すると断った上で弁護士に連絡して下さい。弁護士に連絡すること自体は証拠隠滅や捜索の妨害には当たらず、正当な弁護人依頼権の行使なので認められます。

ただし、弁護士が駆けつけてきても警察官には執行中の出入禁止をする権限があるので(刑事訴訟法112条)、弁護士であっても立会いを拒否される可能性はあります」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

澤井 康生
澤井 康生(さわい やすお)弁護士 秋法律事務所
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

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