東京・秋葉原で5月に、会社員が刃物で刺され重傷を負うという事件があった。その容疑者がこのほど逮捕された。
当初は「通り魔的犯行」として大騒ぎになったこの事件。だが報道によると、殺人未遂容疑で逮捕されたのは、被害者の男性が勤務する会社の役員だった。同日までに、この会社の社長と社員の2人も、経緯を知っていたにも関わらず「事件については知らない」「知らない男が刺した」などと供述していた疑いで逮捕された。
スポーツ報知によると、逮捕された役員の男は同社創業者で、社長の高校時代の「1年先輩」だった。役員は事件当日、朝からキャバクラで酒を飲んでいたが、それを社長にとがめられて逆上。会社のビルに乗り込もうとしたところで被害者男性に止められ、もみ合っているうちに包丁で刺し、そのまま逃走した疑いが持たれている。
報道されているかぎり、「会社ぐるみでトラブルを隠そうとしていた」というのが警察の筋書きのようだが・・・・。事件を隠すために警察官に嘘をついたら、どんな罪にあたるのだろうか。刑事事件に強い中谷寛也弁護士に解説してもらった。
●警察官に嘘をついただけでは「犯罪」にはならない
「警察官に対して嘘をついたとしても、それ自体は特に違法ではありません。自分の罪を免れるため、取り調べなどで嘘をつく人はたくさんいますが、それは犯罪ではないということです」
――えっ、それでは偽証罪は?
「刑法169条の『偽証罪』は、裁判所などで『宣誓』をした上で証言をする人にしか成立しません」
――それでは今回は、なぜ逮捕された?
「今回の事件で逮捕された会社社長や社員には、"真犯人"が同じ会社の役員の男だということを知っていたのに『事件については知らない』『知らない男が刺した』と嘘をついた容疑がかけられています。
これは刑法103条の『犯人隠避(いんぴ)罪』にあたります。警察官に嘘をつくことで、警察が真犯人を捕まえるのを妨害したという犯罪です。なお、罰則は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金とされています」
――ほかには、どんな嘘をついた場合、犯罪になる?
「真犯人がその場所にいるのに、捕まえにきた警察官に『いない』と嘘をつくことや、真犯人の身代わりとして出頭し、『自分が犯人です』と嘘をつくことも、犯人隠避罪ですね。
そのほか、真犯人のことなどを全く知らないのに、ただ『その人が憎いから』などという理由で、警察官に『あいつが真犯人です』と嘘をついた場合には、刑法172条の『虚偽告訴罪』にあたる場合もあります。この場合の罰則は、3月以上10年以下の懲役になりますから、犯人隠避罪よりもずっと重い犯罪です」
なるほど、自分自身の犯罪を隠そうとするのは「ある意味しかたない」ことだが、それが他人の犯罪なら「正直に話しなさい」ということか。