「歩きタバコ」でやけどの被害にあった――。ファッション誌などで活躍する人気モデルの美優さんがネットでそう報告し、話題になっている。美優さんが6月10日、ツイッターで「一週間前に歩きタバコが膝に当たって火傷した所が全く治らない…」と投稿すると、モデル仲間で女優の菜々緒さんが「歩き煙草とかする人間、最低」とツイッターで反応し、反響が広がった。
美優さんによると、人ごみの中にいるときに、歩きタバコをあてられたという。ブログには、大勢の人でごった返すイベント会場の写真も掲載され、「絶対当たるよね…もし当たったのが子供だったらと思うと…本当モラルに欠ける…」という言葉が記されている。美優さんは皮膚科に行って、医師から治療薬を処方してもらったとのことだ。
火がついたタバコの先端部分は、700〜800度の高温に達するといわれる。人ごみの中での「歩きタバコ」はとても危険な行為といえるだろう。では、歩きタバコを他人にあてて、ケガをさせてしまった場合、傷害罪などの犯罪になるのだろうか。また、ケガをさせられた人は「歩きタバコ」の主に対して、治療費などの損害賠償を請求できるのだろうか。好川久治弁護士に聞いた。
●「歩きタバコ」をあててしまうと、過失傷害罪に問われる可能性がある
「傷害罪とされる可能性は低いと思います。それが成立するためには、歩きタバコをしている人が少なくとも『人にタバコの火があたっても構わない』と思っていたことが必要だからです。傷害の結果や暴行について『故意』が証明できなければ、傷害罪の責任を問うことは難しいでしょう」
それでは、他の犯罪にはなる?
「はい。人ごみの中で歩きタバコをすれば、人に火傷を負わせることは容易に予想できます。その危険性を考えると、過失傷害罪(刑法209条1項)または重過失致傷罪(211条1項後段)の責任を問われる可能性があります。
なお、最近では地方公共団体の条例で、特定区域内の路上喫煙に対し、過料(行政罰であって刑罰ではありません)の制裁を課すケースが増えてきました」
では、被害者は治療費などを請求できるのだろうか?
「歩きタバコで人にケガをさせれば、不法行為(民法709条)が成立します。つまり、加害者は、ケガの治療費や通院のための交通費のほか、仕事を休んだことによる損害や慰謝料などについて、賠償しなければなりません。
仮に、タバコの火が子どもの目にあたって失明でもすれば、後遺障害による損害だけでも数千万円になる可能性があります」
屋外で喫煙できる場所がどんどん減っている昨今、「歩きタバコぐらい、いいだろう」と考えている人は少なくないかもしれない。だが、人ごみの中での「歩きタバコ」は、ほかの誰かに大きな被害を与える「犯罪」になってしまう可能性があるのだ。喫煙者はそのことを理解して、自制心を働かせるべきといえるだろう。