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草津町長「通り魔にあったようなもの」 虚偽の性被害告白に今も憤り
草津町の黒岩信忠町長(2024年5月28日、草津町役場の町長室で、弁護士ドットコムニュース撮影)

草津町長「通り魔にあったようなもの」 虚偽の性被害告白に今も憤り

草津温泉で有名な群馬県草津町で起きた虚偽の性被害告発事件。「加害者」扱いから一転して「被害者」となった黒岩信忠町長(77)が3時間にわたるインタビューに応じた。

語られたのは、事実があやふやな状況で人を断罪する社会の恐ろしさだった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

画像タイトル 虚偽告訴事件の経緯をまとめた表(編集部作成)

●新井氏の無断録音がえん罪晴らす証拠に

ーー逆に新井氏の録音がなかったらどうなっていましたか?

当時、新井氏から録音を取られていることは知りませんでした。民事訴訟の裁判で新井氏が虚偽だと認めざるを得なかったのは、逆にその盗聴テープが動かぬ証拠になったからです。もしテープがなければ冤罪が晴れませんでした。名誉毀損罪も虚偽告訴罪もうやむやになったでしょうね。だけど、今回は決定的な証拠がある。だから逃げられなかった。これほど男と女の性被害の問題がはっきりする事例は珍しいと思います。

性交渉に対する同意があったかなかったかが問題になることがありますが、私の場合はそんな問題ですらありません。はなから指一本も触れていません。しかし、当初の報道では、私の言うことは全然聞かれませんでした。一方的でした。ひどい世の中だなと思いました。今は裁判でも結論が出ましたが、ほとんど誰も謝りません。『しんぶん赤旗』だけは編集幹部が東京から謝りにきたうえで謝罪記事も掲載しました。

画像タイトル 草津町役場。3階にある町長室はガラス張りになっており、外から中が見える

ーー告発をした新井氏に対して草津町は解職請求(リコール)の賛否を問う住民投票を実施し、2020年12月に新井氏は失職しました。

時系列で言うと、2019年12月2日に草津町議会で新井氏に対する懲罰動議が発動され、除名という一番重い処分となりました。しかし、新井氏は群馬県の山本一太知事に不服を申し立て、2020年8月に除名処分が取り消されていました。

新井氏は草津町議会議員の肩書きを利用して、いろんなところに性被害者としてアピールし始めていました。どんどん草津町がおとしめられるということで町民が危機感を持ったんだと思います。議員として置いておくわけにいかないということで、どちらかといえば町民の中からリコールに向けて盛り上がっていきました。

画像タイトル 草津温泉のシンボルになっている「湯畑」

●「草津町をおとしめられる発言が一番つらかった」

ーー2023年11月にあった民事訴訟の裁判で、新井氏は町長と肉体関係はなかったと自ら認めました。

「推定無罪」という言葉がありますが、私の場合はいきなり「推定有罪」で犯罪者にされました。一番つらかったのは草津町をおとしめられる発言です。ネットでは『草津に行くと犯される』みたいな書き込みをされました。(草津温泉のシンボルである)湯畑で「セカンドレイプの町」だとアピールしたフェミニストらに抗議しましたが、全然受け入れてもらえませんでした。ニュースは世界に伝播されました。

町長は個人じゃないですか。町になんで責任があるんでしょうか。そういう町長を選んだ町民が悪いという話になった。草津町そのものがレイプされる町みたいに言われるのはしのびがたい話でした。やっぱり草津町が馬鹿にされたり家族がつらい思いをしたりするのは嫌じゃないですか。だから、お金がいくらかかっても戦い続けようと思いました。

やっぱり性的な加害者という人に対して世の中は冷たいですよ。もしそういうレッテルをはられたら大変です。もう一生言われる。結局、何でこれほど恨まれて、私がおとしめられたのか今でもわかりません。だって新井氏に恨まれる筋合いのことは何一つないんです。

画像タイトル 2020年12月に日本外国特派員協会で開かれた記者会見で身の潔白を訴えた黒岩町長

●「今回の事件で性被害の声を上げづらくなったら大きな問題」

ーー性暴力の被害者は声を上げにくく、訴え出ても社会の無理解でさらにダメージを受けることが珍しくありません。

私が2020年12月に日本外国特派員協会の記者会見で言ったのは、今回の虚偽の性被害告白事件によって、本当に性被害を受けた人が声を上げづらくなっているとしたら大変な問題だということです。一番強調したのは、これが前例になって本当に性被害にあった人が泣き寝入りする世の中になってはならないと。

今回、裁判によってはっきり白黒ついたわけですので、虚偽の訴えに悪のりした活動家などは反省しなければならないと思います。フェミニストが騒ぐことでさらに事態が悪化してしまったことで、本当に性被害にあった人が声を上げづらくなってしまった。実際に性被害やセクハラを受けている人はたくさんいると思います。私はそれを一番心配したんです。

一般的に考えれば、女性が声を上げたらそれはほぼ正しいことだと私は思うんですよ。ただそれを悪用したのが新井氏です。第一、町長と町議会議員の関係で会ってほしいと言われたら会わないといけない。今回の出来事は、一般の女性対一般の男性という問題ではなくて、お互いに公人で公務室で公務時間のことです。あまりにも現実離れした話だったので、草津の人は嘘だとわかったと思います。

画像タイトル 町長室はガラス張りになっており、道路を挟んだ向こう側には警察の交番が見えた

●「性被害の問題には冤罪もあると分かってほしい」

ーー民事訴訟で一審の判決が出た今、どんな気持ちですか?

テロや通り魔にあったようなものです。普通に過ごしていたらいきなり爆弾を投げられて真っ黒になったのに、こちらが悪いと言われる。たまったもんじゃありません。こんな理不尽な世の中ないですよね。

今回、やっぱり逃げちゃダメだと思いました。私は積極的にカメラの前や報道陣の前に立ちました。だから言ってることにブレが一切出ない。もし疑われたら積極的にその無罪を証明するために前に立ったほうがいいと思います。もちろん自分に何か後ろめたさがあれば立てないでしょうが。

性被害の問題では冤罪もあるということをわかってほしいと思います。これだけ大きな事件になったわけですが、世の中にはもっと冷静に見てほしかったです。新井氏の言い分だけを取り上げてクローズアップして、私の意見はほとんど無視されました。

報道もどちらかと言えばそういう事実があったという前提で、事実をぼやかしながら書かれていた印象です。何度でも言いますが、普通の人だったら諦めたと思います。下手をすれば気を病んで死を選んだかもしれません。そのくらい性被害の加害者とみなされると社会的に葬り去られます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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