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「娘を死なせないように必死だった」 元銭湯絵師見習い・勝海麻衣さん父が涙ながらに語るネット中傷の全容
勝海麻衣さんと父親の東一郎さん(2023年7月/弁護士ドットコムニュース)

「娘を死なせないように必死だった」 元銭湯絵師見習い・勝海麻衣さん父が涙ながらに語るネット中傷の全容

元銭湯絵師見習いのアーティスト、勝海麻衣さん(29歳)はインターネット上の誹謗中傷を受けて、裁判を起こした。

ライブペインティングイベントの「盗作騒動」と「無関係なデマ」が混在した中傷が相次いでいたことから、デマ発信の中心となっていた「銭湯アイドル」の女性を相手取り、刑事・民事で法的措置をとった。いずれも名誉毀損が認められている(民事は1審判決)。

この誹謗中傷をめぐる裁判では、麻衣さんの父親で医師の勝海東一郎さん(57歳)も当事者となっている。愛する娘がネットで攻撃を受けたとき、どのように対峙したのか。(ニュース編集部・塚田賢慎)

●銭湯絵から離れることになった

2019年、麻衣さんが描いた「虎の絵」が「盗作だ」と猛烈に批判された。

麻衣さんは繰り返し謝罪したが、SNSには銭湯絵師・丸山清人さんへの弟子入りの経緯をめぐる事実無根の投稿が拡散し、それに基づく誹謗中傷が相次いだ。

師弟関係が解消されて、心身にダメージを受けた麻衣さんは大学院を休学した。今でも精神科に通院し、富士山などの銭湯に関係するモチーフを見ることも描くこともできないという。

炎上の発端となった投稿をしたのは「銭湯アイドル」の女性。東一郎さんによると、次のような投稿があったという。

・丸山さんが女性に「先に弟子として活動していたことをなかったことにして欲しい」と頼んだ
・東一郎さんと大手広告代理店が銭湯絵師弟子入りを踏み台にして勝海さんを芸能界へ売り出そうとした
・銭湯業界の加害者グループが業界の健全な発展を阻害し、勝海さんがそのグループを使って事実をねじまげ、弱者である女性を排除した
・そのグループによって女性が命の危険を感じるほどの状況に追い込まれている

こうした主張に反応して、曲解・誇張した匿名の投稿が拡散されて、さらにその投稿を女性がリツイートするというサイクルがあったそうだ。

⚫︎「とにかく娘を死なせないようにした」

イラストレーター「猫将軍」さんの作品をそのまま取り入れたと聞いた東一郎さんは、すぐに認めて謝罪・説明をするように伝えて、麻衣さんもそれを望んだが、所属事務所やイベント側の要望もあって、叶わなかったという。

そうこうするうちに、女性のデマが始まり、もはや収拾がつかなくなってしまった。

画像タイトル 銭湯絵師見習いだったころの勝海麻衣さん(撮影:ナカムラヨシノーブ)

「師匠である丸山清人さんが、いわれない非難に晒され、麻衣は強い衝撃を受けていました。丸山さんご夫妻、お世話になっている銭湯関係の方々に大変な迷惑をかけてしまい、どうしたら良いのかわからないと酷く動揺し、食事ができず、夜は眠れず、精神的に極めて不安定な状態にありました」

当時の麻衣さんの様子を振り返る東一郎さんは「この子をとにかく死なせないようにした」と涙を流した。麻衣さんを1人にさせないため、家族は同居を始めた。

「目の前で直接の暴力がおこなわれようとしているなら、僕でも警察でもすぐに何とかできるかもしれない。でも、SNSで不特定多数に言いたい放題にやられたり、リツイートして拡散されたり、目の前で娘が攻撃されているのに、何にもできないじゃないですか。守ってあげられないことがつらかったです」(東一郎さん)

⚫︎弁護士とともに対策を検討し、刑事告訴した

麻衣さんが弱者をないがしろし、人権侵害をしているなどと指摘を受けて、丸山さんも医師の東一郎さんも、麻衣さんを売り出すために「暗躍」したと扱われた。

自宅に苦情が殺到した丸山さんは妻とともに寝込んでしまい、東一郎さんの医院も抗議を受けて、まったく関係のないスタッフや家族の写真をSNS上で拡散された。東一郎さんもつらい立場におかれたが、娘の憔悴しきった姿を見て体が動いた。

事実をどうにか訂正させなければ、丸山さんはじめ、関係する人たちの名誉が回復することはない。

何から手をつけてよいかわからなかった東一郎さんは弁護士に依頼し、対策を検討して、ようやく道すじが見えてきた。

女性のツイッターにDMでコンタクトをとることも考えたが、それすらSNS上で晒されて、事態が悪化するおそれがあったため、法的措置を通じて交渉のテーブルにつかせる手段をとった。

先に刑事で動いたのは、相手が芸名で活動し、民事では時間がかかるためだった。

「検察の取り調べでは、女性は投稿が虚言だったと認めています。こちら側の弁護士とのアポもとったのですが、当日になって約束をすっぽかし、電話すると『寝ていた』と話したそうです。

私の感覚では、女性側は前科がつくことを何としてでも避け、話し合いになるはずでした。訂正さえしてくれたら刑事告訴は取り下げていたと思います」

謝罪も話し合いも事実の訂正もないまま、罰金刑の有罪が確定してしまった。民事でも裁判を起こしたが、女性は争う姿勢を示さず、7月18日に賠償命令の判決が出た。

「私と麻衣が刑事告訴を決心したのは、公的な手段によって事実を明らかにすることと丸山さんと麻衣の名誉を回復することを願ったためです。

民事訴訟を決めたのは、女性が事実を明らかにして謝罪することにより丸山さんと麻衣の名誉を回復することを願ったためです」

判決が出ても、今のところ、女性のSNSは何事もなかったかのように更新されている。

望んでいたような結末ではなかったが、民事の判決を一つの区切りとして、麻衣さんはこれまでの経緯を発表した。

⚫︎「根も葉もない作り話がもたらした被害を想像できているのか」

ここまで4年の歳月がかかっている。一つの失敗をして弱りきった人間になら、関係のないことでも石を投げるのをためらわない人がいる。名誉を回復するのは並大抵のことではない。

麻衣さんと女性は、面識はあるが、軽い挨拶を交わした程度の関係だという。

「人間的な関係性やそれなりの接触があって、見解の相違が生まれた末に投稿しているわけでもなく、女性は作り話をしていました。

投稿の動機は、以前から銭湯界隈にいた彼女にとって、注目を浴びるようになった麻衣が気に入らなかったんだと受けとめています。

麻衣が命を失うことがなくてよかった。そして、彼女にもそうなってほしくない。

しかし、彼女は自分が発信した根も葉もない作り話がどのような被害をもたらしたかを少しでも想像ができているのでしょうか。

公的な法的措置、判決を真摯に受け止め、事実を明らかにして謝罪することを望みます」

騒動になる以前、丸山夫妻と一緒に東一郎さんも会食する機会があったという。

「どうしても丸山さんの名誉を回復したいのです。娘のことを本当にかわいがってくださっていました。丸山さん、銭湯関係の方々へは麻衣がきっかけとなった騒動が原因になり多大な迷惑をかけて申し訳のないことをしたことは事実です。

麻衣を弟子にとらなければ、ご夫妻が炎上に巻き込まれることはありませんでした。今後の麻衣の精進が皆様のご寛恕(かんじょ)に繋がればと思っています。

そして、取材を受けたり、発信したりすれば、批判的な反応が起こることを麻衣は理解しています。炎上当時のことを少し想像するだけでも震えるくらい怖いと感じているでしょう。

それでも尊敬する丸山さんの名誉回復のために決心をした麻衣の意気を良しと思い応援をしています。今後は自分の方法で世の中のためになることを一生懸命に頑張ってほしいです」

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