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知人宅で「死産」した女性、死体遺棄罪での「逮捕」に正当性はあったのか
逮捕の必要性はあったのか(hide0714 / PIXTA)

知人宅で「死産」した女性、死体遺棄罪での「逮捕」に正当性はあったのか

死産したとみられる赤ちゃんを自宅マンションに遺棄したとして、母親が警視庁大井署に逮捕(死体遺棄容疑)された事件。逮捕から3日後の12月10日、熊本市の慈恵病院が記者会見を開き「女性は保護されるべきで、逮捕は非常に遺憾」と話した。女性は18日付で、不起訴になったと報じられている。

熊本日日新聞などの報道によると、女性は、慈恵病院が設置する妊娠・出産相談窓口に「友人の家で死産しました」とメールを送っていた。病院側の聞き取りに「親と死別して身寄りがなく、家も仕事もない」と話していたため、同病院が一時保護を目的に警視庁へ事情を伝えたという。

死産であり、女性には遺棄の意図はなかったとみられることから、院長は警察の対応を強く批判している。このような事案で警察はどう動くべきだったのか。対応に問題はなかったのか。中原潤一弁護士に聞いた。

●死体遺棄罪とは?

ーー逮捕をめぐっては様々な反対の声があがっていました。

逮捕が妥当かどうかを検討するために、まず、この母親に死体遺棄罪(刑法190条)が成立するかどうかを考えてみましょう。

「死体」とは、人の形体を備えた死亡した胎児を含むとするのが判例の見解です。本件で人の形体を備えていたと言えるかは報道からは明らかではありませんが、妊娠6~7カ月の胎児であったとすると人の形体を備えていた可能性はあると思います。

また、「遺棄」とは、社会通念上埋葬とは認められないような態様で放棄することであると考えられています。具体的には、葬祭の義務を有する者が、葬祭の意思なく、死体を放置してその場から離れる場合や隠匿する場合をいいます。

ーー今回については、どの点が「放置」「隠匿」と疑われたのでしょうか。

これまでの報道をもとに考えます。

まず、12月6日午後11時半ごろ、病院に死産してしまってどうしたらいいかという問い合わせをしており、翌7日午前7時半に病院からの連絡を受けて駆け付けた署員が、洗面所で黒いポリ袋に入った遺体を発見したとのことです。

これを前提に考えた場合、洗面所で黒いポリ袋にご遺体を入れていたことが「隠匿」にあたるかという点が問題になったと考えられます。

●警察の判断は「非常に不当」

ーー今回の逮捕について、中原弁護士はどのようにみていますか。

前後の状況を考えれば、私は「隠匿」には当たらないのではないかと思います。

母親は死産したことを「どうしたらいいか」と病院に問い合わせており、葬祭の方法についての指示を待っていたと言えます。そのために、その指示があるまで一時的にポリ袋内に入れておいたと考えるべきでしょう。

これを「隠匿」だとして逮捕に踏み切った警察の判断は非常に不当だと思います。そもそも、病院はこの母親の一時保護を警察に頼んだわけですから、そういった観点で考えても、逮捕をすべきではなかったと思います。

12月18日付で不起訴になったと報道されていますが、死体遺棄罪が成立するのであれば、通常は起訴されると思います。検察官も、死体遺棄には当たらないと判断したのでしょう。

そうすると、もし死体遺棄に当たるのではないかと警察が考えたとしても、この件では逮捕はせず、在宅で捜査すべきでした。特に、産後すぐであり、母親の体調も心配される時期です。そういう意味で、警察の対応には非常に問題があり、繰り返さないために内部で検証をするべきだと考えます。

プロフィール

中原 潤一
中原 潤一(なかはら じゅんいち)弁護士 弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所
神奈川県弁護士会所属。日弁連刑事弁護センター幹事。刑事事件・少年事件を数多く手がけており、身体拘束からの早期釈放や裁判員裁判・公判弁護活動などを得意としている。

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