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ひき逃げ死亡事故の16歳少年が「未熟運転」で起訴―― 「無免許運転」とどう違う?
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ひき逃げ死亡事故の16歳少年が「未熟運転」で起訴―― 「無免許運転」とどう違う?

兵庫県尼崎市で死亡ひき逃げ事故を起こした大阪府豊中市の16歳の少年が10月上旬、大阪地検に起訴された。報道によると、少年は無免許運転で事故を起こしたが、起訴のときは、自動車運転処罰法の「未熟運転致死罪」が適用された。同罪での起訴は、2014年5月の同法施行後、全国で初めてという。

少年は今年8月、尼崎市の路上で乗用車を時速30~35キロで運転していたが、ハンドルの操作を誤って建物に衝突。その際に、男性(80)をはねて死亡させ、逃走した疑いが持たれている。少年は大型のワンボックスカーを運転していたが、無免許で、自動車を運転した経験もなかった。現場付近の防犯カメラには、少年が急ハンドルを切る様子が映っていたという。

そもそも「未熟運転致死罪」は、どんな場合に適用されるのだろうか。無免許運転で死亡事故を起こした場合と、どういう違いがあるのか。交通事故事件にくわしい阿部泰典弁護士に聞いた。

●無免許でも、運転技能がある場合には適用されない

「まず、『未熟運転』とは、自動車の進行を制御する技能を有しないのに自動車を走行させる行為をいいます。

実際の事故状況にもよりますが、未熟運転致死傷罪は、免許の有無にかかわらず、基本的な自動車操作の技能がない状態で運転した場合に、適用されます。

免許を取得していても、長年ペーパードライバーであることなどにより、基本的な自動車操作の技能を失ってしまっていることがありえます。それにもかかわらず、自動車を運転して事故を起こし、その状況から、普通の運転者ではしないような操作ミスで、事故が発生したと認められる場合に、未熟運転致死傷罪が適用されます。

逆に、無免許でも、運転技能がある場合は適用されません」

自動車運転処罰法ができるまでは、未熟運転致死傷罪はどういう位置づけだったのだろうか。

「未熟運転致死傷罪は、これまで『刑法』の危険運転致死傷罪の中で規定されていました。

法律改正によって『自動車運転処罰法』が制定され、危険運転致死傷罪は、自動車運転過失致死傷罪とともに『刑法』から独立して定められました。

したがって、現在は『未熟運転致死傷罪』も、この自動車運転処罰法の中で規定されているわけです」

●運転技術が未熟な人の運転のほうが危険

刑法から独立したことで、未熟運転致死傷の罪は重くなったのだろうか。

「『未熟運転』で人を負傷させた者は15年以下の懲役、人を死亡させた者は1年以上20年以下の懲役と規定されています。この法定刑は、刑法時代と変わりません」

単なる無免許で事故を起こした場合は、どうなるのだろうか。

「法律では、通常の過失運転致死傷罪は『7年以下の懲役・禁錮または100万以下の罰金』とされていますが、無免許で人を死傷させた場合、『10年以下の懲役』と重くなります」

ただ、未熟運転致死傷罪は「15年以下の懲役」なので、無免許で事故を起こした場合よりも罪が重いといえる。なぜだろうか。

「運転技術が未熟な人の運転のほうが、無免許でも運転技術がある人の運転よりも危険であるからだと思われます」

阿部弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

阿部 泰典
阿部 泰典(あべ やすのり)弁護士 横浜パーク法律事務所
平成7年4月 弁護士登録。平成14年4月 横浜パーク法律事務所開設。平成21年度 横浜弁護士会副会長。平成24年、25年度 横浜弁護士会法律相談センター運営委員会委員長、横浜弁護士会野球部監督

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