かつて世界一の高さを誇った、米ニューヨークの「ワールド・トレード・センター」のツインタワー。約40年前に、その2つのビルの間をワイヤーロープ1本でつなぎ、命綱なしで「空中散歩」した男性を題材とした映画「ザ・ウォーク」が、9月に全米で公開された。
モデルとなったのは、パリで大道芸人として生計を立てていたフィリップ・プティさん。プティさんは1974年、仲間とともに工事作業員とビジネスマンに変装し、ワールド・トレード・センターに入り込んだ。
オフィスで働く人々やエレベーター作業員をだまして、当時工事中だった屋上へ到達。ツインタワーの両側で連携して綱をつなげ、プティさんは地上110階、高さ約400メートルの空中を、45分に渡って8回行き来した。綱の上では寝転がったり、ダンスをしたりもしたという。
綱渡りを終えたプティさんは、ビルに押しかけた警官に逮捕されたという。もし日本で同じことをやったら、罪に問われることになるのだろうか。泉田健司弁護士に聞いた。
●ビル管理者の許可があっても、罪に問われる可能性がある
「まず指摘できるのが、ビルの管理者の許可を得ずにビルに立ち入った点から、住居侵入罪(刑法130条)に該当すると考えられます。
この犯罪は、親告罪ではないので、ビル管理者の告訴は要りません。住居侵入罪の法定刑は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。周囲に人が集まり、交通安全に支障をきたすような事態に陥ったならば、警察は大道芸人を逮捕することも十分に考えられます」
泉田弁護士はこのように述べる。ビルの管理者の許可を得ていれば、問題ないのだろうか。
「許可を得ている以上、住居侵入罪は成立しません。そうはいっても、そうした行為を許せば、周囲に人が集まり、道路の交通が阻害され、渋滞や交通事故が引き起こされるような事態になってしまいかねません。
この点、道路交通法77条1項4号は、一定の場合の道路の使用に警察署長の許可を要求しています。そして、具体的には、各地方自治体が、許可を要する場合を規定しています。
たとえば、私の事務所がある大阪では、大阪府道路交通規則15条4号で、『道路に人が集まるような方法で、演説、演芸、奏楽、映写、ロケーション等をし、又は拡声器、ラジオ、テレビジョン等の放送をすること』について、警察署長の許可を要求しています」
綱渡りをするのはビルの上で、直接道路を使用しているわけではないが、それでも問題になる可能性があるのだろうか。
「ビルの間を綱渡りするパフォーマンスは、道路に人が集まる『演芸』にあたると考えられます。無許可で行った場合には、この規定に違反する可能性は十分あるでしょう。
刑事罰の規定もあり、法定刑は、3月以下の懲役または5万円以下の罰金(道路交通法119条1項12号の4)です。
このように、たとえビルの管理者が許可をしていたとしても、度が過ぎると逮捕されるということはありえます。そもそも、このようなパフォーマンスを無許可ですると分かれば、ビルの管理者が承諾するはずはないと思います。
もし、そのようなパフォーマンスをする目的を隠してビル管理者の許可を得ていたならば、結局は、住居侵入罪に問われるかもしれません。
影響が軽微ならば、警察で説教を受けておしまいでしょうけれど、罰金刑も覚悟せねばなりません。安易にこうしたパフォーマンスをしようとすることは、控えたほうがよいでしょう」
泉田弁護士はこのように述べていた。